驚異的な生産性を持つAIエージェントが誕生し、企業の現場では抜本的な業務改革が待ったなしの状況に追い込まれている。そんな中、企業DXの支援事業を展開するNTTデータ イントラマートは、年次イベント「intra-mart LIVE 2025」を開催。このような現状を打開するためのアイデアを、実際の現場での成功事例を元に公開した。AIエージェントの登場を迎え、企業業務においてどのようにAIを活用していけば良いのかレポートする。
NTTデータ イントラマートは、国内の企業DX・業務改革支援企業を結集したイベント「intra-mart LIVE 2025」を11月6日から7日にかけて、ザ・プリンス パークタワー東京で開催。7日にはオンラインでも実施された。イベントでは、ラウンドテーブルとして代表取締役社長 中山 義人氏が登壇し、基調講演「人とAIが共創する"次の業務"―プロセス×データ×AIエージェントが描く変革の最前線―」で自身や同社のAIに対する施策や対応などを発表し、開発を進める新たなAIエージェントの披露も行った。
なぜ、AIの導入が進まないのか。根本原因である構造設計(プロセス)と土台整備(データ)の不備
中山氏は国内では、未だにAIの活用が十分に進んでいない現状について語る。日経コンピュータが2025年10月16日号で特集した業務特化型の生成AIの導入実態調査から、導入調査を開始し実証実験を行った企業で成功したといえる事例がたった5%しかない事実に言及し、導入が進まない理由について、多くの企業が問合せ検索や要約などの個人適用段階で止まっている一方、成功を体感している企業は業務プロセスの中にAIを組み込んでいると分析した。
生成AIは、汎用性が高く単一の業務にとどまらず、業務プロセス全体で運用できるポテンシャルを持っている。更に進化したAIエージェントは、最適な手段を自律的に選択して業務を遂行することが可能だ。なぜその能力を業務に生かせないのか?
その理由は大きく分けて2つあると中山氏は語る。1つ目は、AIによって大規模に重要な成果をもたらすユースケースを特定できていない場合だ。これは、いわゆる構造設計(プロセス)上の問題となる。2つ目は、AIがアクセスできる全てのデータを活用できるようになっていないこと。つまり土台整備(データ)の不備だ。この二つの大きな課題を解決することで新たな活路が見いだせるようになる。どうすればよいのか?
構造設計の問題は、業務プロセスでAI活用により重要な成果をもたらす「ユースケース(プロセス)」を特定できていないことだ。業務の流れが混沌としている状況でAIを入れても、その処理の調整で更に事態が混沌としていく。これはRPAなどの導入時にも同じことがおこっていた。この問題を解決するには、一旦業務プロセスを整理し、その過程で重要な成果をもたらしうるユースケースを特定し、その範囲で効果的に運用できるフローを構築することだという。
フローが構築できれば、継続的な改善サイクルであるPDCAを回していくことができる。同氏は、AIで効果を出すためにはテクノロジーサイドよりもビジネスサイド、つまりAI技術よりも、AIに適合した業務運営体制の構築こそが重要になってくると強調する。
では、どのような業務プロセスを構築していけばよいのか。ビジネスにおける適切なKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)をきちんと理解することが手掛かりになるという。業務の全体構造を把握するために解析を行っていくと従来の視点と違いAI活用の新たな視点が見えてくるという。
それがAIとの適切な役割分担だ。事例として顧客からの解約申し込みをAIエージェントが処理するシステムを事例としてあげる。通常ならAIにより作業は自動化され人は削減されることになるが、AIと新たに役割を分担すれば、状況に合わせて人が解約の引き止め、別の契約を進めることもできる。これにより更に成果を上げることができる。
つまり、適切なKPIに基づいた業務プロセス全体のデザインを考えることで更に効果を増すことができるということになる。
そこで着目したいのが何の業務をAIに任せられるかだ。この点に関して留意しなければならないポイントとして「何の業務をAIに任せるのか」「AIには100%の再現性がない」「人の役割」の3点をあげる。
AIに任せる仕事とは何か、人の役割は?
「何の業務をAIに任せるのか」については、業務の内容全体を俯瞰した上で、一般的にルーチン化できる規模の大きな業務はすでにルールベースで定型化されており、RPAやBPOで効率的に処理されている。この部分に新たにAIを投入するのは無駄が多い。寧ろニッチ且つロングテールでIT投資のROIが合わない非定型業務、昔の職人の仕事のような高度な専門性と経験が必要とされた非定型業務だという。
2つ目の留意点である「AIには100%の再現性がない」については、特に問題を多く含んでおり、利用者を忌避させているポイントでもある。AIエージェントは情報処理の面では優秀だが、ことライセンスや著作権問題、情報の正確性などコンプライアンス面で、問題があることはよく知られる。その点からもAIエージェントの活用は、コンプライアンスに関する業務は避けるか、再現性のあるプロセスを構築し定型化して利用する必要があるのだと語る。
3つ目の「人の役割」については、上記のように一部信頼性に欠けるAIを俯瞰した観点で管理していくのが人間の仕事になる。AIが適切に運用されているかパフォーマンスを測定し、その都度役割の見直しを行い、それらを仕組み化し、運用AIを継続的に育成していく。いわゆる「Human in the Loop」の考えに根差したアプローチだ。同氏は、この考えを更に進め「Human On the Loop」として、AIを“持続的価値創出の手段”として活用すべく、より責任をもって管理監督していく姿勢が必要になってくると主張する。
AI時代に求められるデータ基盤は、サイロ化したシステムも含むすべてのデータを統合運用できる「データレイク」
次いで大きなテーマの一つ土台整備(データ)だ。AIの運用には適切なデータリソースが不可欠となる。このデータ基盤の整備について同氏は、まず前提として定型データ、紙、画像、動画などの非定型データ含め、社内全体の散らかったデータを統合していくことがスタートとなると説明。では、膨大なデータをどのように処理するのか?
そこで同氏が勧めるのは、サイロ化したシステムも含むすべてのデータを「データレイク」として統合し、フロントとして活用するシステムだ。ERPやCRM、生産管理システムなど業務上のデータをデータレイクに集めデータベースとして運用することで、業務横断的なAI運用が可能になるという。
実際この構想を実現した成功事例として、石油資源開発の試みを紹介。石油資源開発(JAPEX)は、石油·天然ガスの探鉱·開発·生産に取り組む日本の企業だ。同社では古いシステムの運用に問題が多発したタイミングでデータ整備プロジェクトを立案。システム刷新には多くの時間が必要なため、既存システムでも運用できることに加えて、日報、レポート、スケジュール表、企画書など転記を繰り返し、増加していたExcelファイルでの業務処理「Excelバケツリレー」を廃止して、早急にBIダッシュボードを導入することを目指し、データレイクやデータウェアハウスの整備計画を推進、統合データ分析基盤「セントラルキッチン」を完成させた。
同社では、セントラルキッチンに集められたデータを活用し、様々な分析を行いデータドリブンな企業経営を実現している。今後の展開として、AI時代に向けてAIの栄養となる良質で大量のデータを蓄積することを優先し、利用する期が熟したタイミングで必要な領域で随時導入をすすめていくという。AI活用の構想について、LNG船の運行スピードや移動ルート、保管場所などを、世界の取引価格や為替、世界情勢などに合わせて最高の価格でLNGを売るAIソリューションの開発を目指したいと述べる。
効果的なワークフロー構築でAIを最大限に生かすPDCAサイクル
次期AI時代を見据えてどのようなサービスを展開していくのか。中山氏は同社の構想するDX基盤について、「プロセス×データ×AI」を強調する。DX基盤についてPDCAサイクルをベースに解説を行った。
まずP(プラン)部分は、同氏が重視する構造設計部分に該当する。ここでは企業の目標となる適切なKPIを設定し、その後はプロセスマイニングなどを使ってファクトベースの現状把握を行い、それをベースに業務プロセスをデザインしていく、フローを構想。この領域で人とAIの役割分担をデザインしていき、その後これらをベースにシミュレーションで効果を事前予測し、投資対効果の見積りを出していく。
同社では、そのためのツールとして「iGrafx」を選定している。iGrafxは業務プロセスを可視化・分析・改善・自動化するための統合プラットフォームだ。講演では、iGrafx社からCEOであるアルサー氏も登壇、製品の説明などを行った。
NTTデータ インタラマートでは、iGrafxと提携、同社のソリューションを効果的に活用しサービスの更なる向上を図る。最新のiGrafxの機能では、生成AIとの対話を通して、本格的な業務プロセスを自動生成することができる。これにより、効率的にAIと人の役割分担フローのデザインが可能になる。
PDCAのDにあたるDo(実行)を見ていこう。業務デザインに基づいた業務プロセスを実行していくとどうなるのか。ここでの留意点は、AIエージェントにより主導権が人からAIへ転換していかなければならないということだ。従来は、AIに依頼しサジェスチョンの中から人が最適なものを選択するフローだった。今後はAIエージェントが自動的に情報収集し、人に報告し、AI自身が自律的に意思決定を行うようになる。
同氏は、同社提供のDX基盤「intra-mart」上で自動生成した「受注判断プロセス」アプリケーションの作成のデモを披露。アプリケーションは、営業現場で活用される受注した案件の収益やリスクなどをAIが判断し、どのように支援できるかを判定する。
デモでは、生成されたプロセスから、AIがデータレイクから情報を自動で収集し、アプリケーションを作成。アプリケーションは、顧客情報から最適な対応や提案内容、見積もり、活動履歴などをもとに収益、リソース、リスク、戦略など総合的な分析を行う他、様々な局面に対応した提言する。
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AIが外部から入ってくる情報を検知し新しい提案を行うAIエージェントは単なる自動化ではく、組織全体で受けるべき案件を最適に選び、顧客属性や製造現場、調達まで含めた状況をリアルタイムに考慮して利益を最大化する仕組み考え提案する
intra-martに新たにAIエージェント構想、業務フローを自律的にAIが策定する非定型業務の意思決定自動化機能
PDCAのCにあたる効果測定と改善のプロセス。データとAIで継続的な改善サイクルを作っていくところだが、ここで中山氏は、同社の新たにAIエージェント構想を発表し会場を驚かせた。
新AIエージェントはまだ開発中で、来季にリリースが予定されている。構想ではintra-martにAIエージェントを呼び出だし、業務フローを自律的にAIが策定する非定型業務の意思決定自動化機能の実装を目指す。それに伴いエージェントスタジオもリリースする。
エージェントスタジオは、AIと対話を通し、AIエージェントを自動生成。エージェントが暴走しないようにAIガバナンスやガードシステムも設定できる仕様になるという。これにより、非定型業務もAIエージェントから出てくるログをそのままワークフローに流し込むことによって自動で仕組み化できるようになるとのこと。
AIであげた成果をいかに会社全体に広げていけるのか?
PDCAの最後のAであるアクションは、AIであげた成果をいかに会社全体に広げていけるかが重要なポイントとなる。これは横展開のストーリーとして成功したユースケースを業務プロセス、事業領域、さらにはグローバル地域の3軸に次々と展開していくことで達成される。その際、共通ルールのプラットフォームをベースにしておくことで、この流れを効率的かつスピーディーに展開できる。また、データレイクも展開に応じて充実していき、AIも継続的に学習し相乗効果で成功につながっていく。
とにかくAIを導入していくという考えでは危険で、まずAIを活用するための環境を整える必要がある。そのために必要なのがAIに対応した業務プロセスの明確化とデータ基盤の構築、そして何よりもAIとの役割分担をよく考える必要があることを語り、「AIは使うことが目的ではなく、成果を生み出し続ける仕組みとして捉えるべき」という主張をあらためて強調した。
最後に、AIを導入し業務プロセスの自動化を実現した日立マネジメントパートナーと東京応化工業の事例を紹介。日立マネジメントパートナーは、巨大な日立グ ループの国内人事·財務分野をサポートする企業で、20年に渡るDXへの取り組みから、全社共通するBPM(Business Process Management:PDCAサイクルを効率的に回していくための業務システム)の導入に成功している。
東京応化工業は、半導体製造に欠かせないフォトレジストをつくっている会社でサプライチェーンとエンジニアリングチェーンを軸とした情報基盤を構築し、データドリブンな経営体制の構築に成功している。
今回の講演を通して見えてくるのは、企業の情報基盤の重要性だろう。生成AIの進化は今後も更に進んでも、使用するデータが適切でなければ正しい結果は得られない。石油資源開発のセントラルキッチンの事例はそれを踏まえたものだ。そして、既に人よりも生産性が大きく超えるAIエージェントの登場により、その役割分担についても真剣に考えなければならない状況になっている。今後企業の業務改革がどのように進んでいくのか目が離せなくなっている。


















