大林組、日立パワーソリューションズ、日立製作所の3社は11月19日、国土交通省中部地方整備局発注の岐阜県・「新丸山ダム」本体建設工事において、現地状況を正確に再現したBIM/CIMデータを解析基盤とする3次元流体解析を行い、ダムの放流状況を高精度でデジタルツイン化することに成功したと発表した。

  • デジタルツイン化した丸山ダムの放流状況

    デジタルツイン化した丸山ダムの放流状況の把握の概要(出所:大林組)

ダム工事の課題となっていた事前検討の精度

局所的な集中豪雨の増加や台風の来襲、異常渇水など、近年は気象状況の変化が著しい。そうした中、治水・利水に重要な役割を担うダムの再開発工事が各地で進められている。これらの工事は、既存ダムの機能を維持したまま施工を進める必要があるため、周辺施設・設備に対する放流時の入念な検討が求められる。

だが一方で、工事の進捗に合わせて現地状況が大きく変化する建設現場では、施工時の現地状況を加味した放流後の状況を設計段階の早い時期に予測することは、極めて困難とのこと。現在では縮小模型を用いた水理模型実験を行い、設計・施工方法を検討するのが一般的であるが、現地状況の再現度が不十分な場合などに実験結果と実現象が乖離し、施工時に不具合が発生するケースが生じていたという。

そうした課題の解決に向けて新たなソリューションの開発に取り組んだのが、大林組・日立パワーソリューションズ・日立製作所の3社だ。大林組は現在、建設事業の省人化や高度化に向けた建設DXを推進しているといい、2023年にはSmart BIM Standard(SBS)を社外にも公開。三重県・川上ダムではCIMをベースとしてデジタルツインを構築するなど、BIM/CIMによる建設事業の情報基盤強化を図っているとする。

一方の日立パワーソリューションズおよび日立製作所は、同社グループが展開するLumadaソリューションのひとつとして、洪水時の浸水想定区域を迅速かつ高精度に予測する1次元・2次元のリアルタイム洪水シミュレータ「DioVISTA/Flood」を提供してきたとのこと。さらに、防災力強化と安全で持続可能な社会インフラの実現を目指して、ダムや河川の水流変化や洪水時の挙動などといった複雑な自然現象を、複数の物理モデルを組み合わせ高精度でシミュレーションする3次元マルチフィジックス解析技術の研究・開発も進めてきた。加えて現在では、デジタライズドアセットから生成されたデータに、ドメインナレッジと先進AIを組み合わせたデジタルサービスを提供する“Lumada 3.0”を体現する「HMAX」ソリューションの展開も推進している。

そんな3社は今般、それぞれの知見をもとにして、BIM/CIMデータを解析基盤とした3次元流体解析を実施したとのこと。そしてダムの放流状況を高精度でデジタルツイン化することを目指したという。

デジタルツイン活用で所要期間は約4分の1に!

今回の取り組みの舞台となった岐阜県での新丸山ダム本体建設工事は、既存の丸山ダムの洪水調節強化と発電量増量を図るとともに、下流の河川環境を保全することを目的に、既存ダムの機能を活かしながら、20.2mのかさ上げにより新設ダムを構築するプロジェクト。既存ダムと新設ダムの一部が重なる構造形式は国内での前例が無く、技術的に高難度で先駆的なダム再生事業だとする。

  • 丸山ダムの概観と解析対象

    丸山ダムの概観と解析対象(出所:大林組)

そうした中で今回は、最新の現地状況を再現したBIM/CIMデータを基盤に解析用モデルを作成した後、3次元流体解析によって、既存ダムからの放流と新設ダムの仮排水トンネルからの放流状況を高精度でデジタルツイン化し、設計・施工方法の検討に活用された。

既存ダムからの放流の解析では、丸山ダムの放流設備から下流の河道をモデル化し、放流時の流量を想定した解析を実施。その結果、ダム下流の施工現場付近における最大水位を精度よく予測し、再開発現場の被災リスクを推定できたという。またBIM/CIM活用によって河床形状も高精度で解析できたといい、3次元的な放流時の流れも詳細に分析できるように。具体的には、上流からの流れが護岸に衝突した際に生じる渦巻き状の流れの様子や、同じ場所でも水面と川底では流速が異なる状況などを、断面図で把握できるとしている。

  • 既存ダムの解析結果の可視化例

    既存ダムの解析結果の可視化例。ソフトウェアにはSimcenter STAR-CCM+が使用された(出所:大林組)

一方で、既存ダムのゲート放流によるダム施工時の被災リスクを軽減するために設けられた新設ダムの仮排水トンネルについては、ダム湖から下流に向かって通じる同トンネルをモデル化し、所定の水位を想定した解析を実施。その結果、仮排水トンネルの吐口(出口)部において、水の勢いを弱める減勢状況および跳ね返る流れを再現でき、同トンネルの流量や放流状況の把握が可能になったとした。

  • 仮排水トンネル吐口部の放流状況の再現

    仮排水トンネル吐口部の放流状況の再現。ソフトウェアにはSimcenter STAR-CCM+が使用された(出所:大林組)

大林組によると、今回の高精度デジタルツイン化実現により、流体解析を行いながらでの設計・施工方法の検討に要していた期間を、従来の1年ほどから、3カ月程度にまで短縮できるとともに、施工時の安全リスク評価の高度化も達成されたという。同社は今後、新丸山ダム本体建設工事で得られた知見をもとにして、まずは施工方法や仮設備の検討にこの技術を適用し、デジタルツインによる現場管理の高度化を進めるとのこと。また今後増加が見込まれるダム再開発工事への技術導入により、安心・安全なインフラ整備に貢献していくとする。

そして日立パワーソリューションズと日立製作所は、今回の事例における3次元流体解析技術の実績・ノウハウを活用することで、他のダムへの適用を図るとともに、先進AIとの融合によってHMAXとしての展開も目指すとした。

3社は今後も、気候変動に伴う豪雨・洪水などの災害リスクに対応した防災・減災力の強化やインフラのレジリエンス向上を通じて、地域社会の安心・安全と持続可能な社会基盤づくりに貢献するとしている。