国立天文台は10月30日、新開発の装置「フォトニック・ランタン」を組み込んだ新型分光装置を開発し、それを搭載したすばる望遠鏡を用いて恒星を取り巻くガス円盤を観測した結果、単一の望遠鏡としては史上最も高精細な画像を実現したことを発表した。

  • すばる望遠鏡の補償光学装置SCExAOの光の入射位置を確認するヴィエヴァール博士

    フォトニック・ランタンを搭載したFIRST-PLが組み込まれたすばる望遠鏡の補償光学装置SCExAOに登り、光の入射位置を確認する研究チームのヴィエヴァール博士。(c)Sébastien Vievard/University of Hawai`i at Manoa(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

同成果は、米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のユ・ジョン・キム大学院生、ハワイ大学/国立天文台 ハワイ観測所のセバスチャン・ヴィエヴァール博士、米・カリフォルニア工科大学のネマニャ・ヨヴァノヴィッチ博士などの研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する天体物理学を扱う学術誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

望遠鏡に新たな視界をもたらす「フォトニック・ランタン」

望遠鏡の理論的な分解能の限界は「回折限界」と呼ばれ、主鏡の口径で決まる。つまり主鏡が大きいほど、天体をより細部まで分解して観測となる。すばる望遠鏡は口径8.2mの主鏡を持ち、その回折限界は可視光では約0.02秒角(約18万分の1度)、近赤外線では約0.06秒角(約6万分の1度)だ。

しかし地上望遠鏡では、大気の揺らぎによって解説限界よりも像がぼやけてしまう。そこでこれまで研究者たちは補償光学技術を用い、回折限界に近い空間分解能が実現されてきた。そうした背景の下、研究チームは今回、従来の限界を超える高精細な画像を再構成するための新型装置を国際共同で開発し、すばる望遠鏡に搭載した。

今回の研究の主役は、特別に設計され、新たに開発された光ファイバーを用いた装置「フォトニック・ランタン」である。この装置は、星の光を複数のチャンネルに分けるデバイスで、音楽の和音を個々の音に分けるようなイメージで光を分割する。そして、分割された光をコンピュータで再構成することで、従来の限界を超える極めて鮮明な像の取得が実現された。

  • FIRST-PLに取り付けられたフォトニック・ランタン

    FIRST-PLに取り付けられたフォトニック・ランタン。SCExAOで大気の揺らぎが補正された光がフォトニック・ランタンに入射(黄色の領域は入射光の経路を示す)。フォトニック・ランタンはこの入射光を空間的なパターンに応じて分離し、分光ユニットに導く。(c)Sébastien Vievard/University of Hawai`i at Manoa(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

このフォトニック・ランタンは、新型分光装置「FIRST-PL(ファースト・ピーエル)」を構成する一部として、ハワイ大学とパリ天文台が中心となって開発し、すばる望遠鏡の極限補償光学装置「SCExAO(スケックス・エーオー)」に組み込まれた。なお、フォトニック・ランタン自体はシドニー大学とセントラルフロリダ大学によって設計・製作された。またフォトニック・ランタンは、FIRST-PLの分光ユニットで光を色ごとに分けるため、空間方向と波長方向の情報を同時に得る「面分光」を可能としている。

FIRST-PLを用い、「こいぬ座β星」(β CMi)を取り巻くガス円盤の観測が行われた。円盤内の水素ガスは星の光で電離され、強い輝線の「Hα線」を放つ。また円盤は高速で回転しているため、ガスにはドップラー効果が作用する。つまり、回転運動で地球に接近するガスは波長が短くなり青く見え、遠ざかるガスは波長が伸びて赤く見えるのである。Hα線の色の変化(波長のずれ)が分析された結果、回転するガス円盤を従来より約5倍高い精度でマッピングすることに成功したとのこと。さらに、円盤が非対称な構造を持つことも確認されたとした。

  • こいぬ座β星の周りを高速で回転するガス円盤の運動

    こいぬ座β星の周りを高速で回転するガス円盤の運動(視線速度方向)を示す画像。色は波長のずれを表し、赤が地球から遠ざかるガス、青は近づくガスを示す。右下の白いスケールバーは1ミリ秒角(360万分の1度)を表す。(c) Yoo Jung Kim/UCLA(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

研究チームは現在、FIRST-PLの試験運用(コミッショニング)を進めており、今後1年間でより広い研究者コミュニティが利用できるようになることを目指しているとした。正式運用が始まれば、フォトニック・ランタンを基盤とする装置としては世界初の事例となるといい、すばる望遠鏡にとどまらず、天文学全体にとっても重要な節目となるだろうとしている。