九州大学(九大)は10月27日、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の増加による地球温暖化が、短波・超短波通信の利用に重要な電離層の「スポラディックE層」(Es層)の発生やその特性に影響を与えることを解明し、将来のEs層は現在よりも強く、低い高度において夜間まで長く持続する可能性があるとともに、短波・超短波通信や航空機や船舶などの航行への影響が懸念されることを明らかにしたと発表した。
同成果は、九大大学院 理学研究院のファーハン・ナウファル大学院生、同・リユウ・フイシン教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する地球科学を扱う学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。
“スポラディックE層”の変化が与える影響とは?
現在、CO2をはじめとする温室効果ガスにより地球温暖化が進んでいる。その影響は日本でも夏の到来と共に多くの人が体感していることだろう。実際、平均気温の上昇は毎年のようにデータとして示されているが、我々が住む対流圏がこのように気温が上昇し続ける一方で、高度100kmのカーマンライン(“ここより上は宇宙”とすることの多い高度)より上空の熱圏(宇宙大気)では、まったく逆の現象である寒冷化が進んでいることがわかっている。
これまで宇宙大気の気候変動に関する研究では、その全球的な寒冷化が注目されてきたものの、より局所的な具体的な影響はあまり調べられてこなかった。そこで研究チームは今回、より局所的かつ小規模な電離圏不規則構造である電離層Es層に焦点を当て、CO2増加の影響を調べたという。
地球の電離層は、大まかに高度約60km~約90kmのD層、約90km~約120kmのE層、約150km~約1000kmのF層に分かれる。Es層は、高度90km~120kmのE層に突発的に出現する高密度の薄い金属イオン層で、流星が燃え尽きた際に含まれる金属イオンが、風向の異なる境界層に集まることなどにより形成される。
Es層は密度が高いため、通常の短波電波の届く範囲である数千kmを超えた長距離通信を可能にする。これは一見プラスの効果に思えるかも知れないが、そうではない。届く範囲が決まっているからこそ、その距離に合わせた用途に用いられており、通信距離の延伸はかえって何らかの悪影響を及ぼす恐れがあるのだ。
さらに短波・超短波電波は、航空通信(航空管制)、海上通信(船舶-陸上間および船舶-船舶間通信)、放送(FMラジオおよびVHFテレビ放送)、アマチュア無線や緊急通信など、極めて幅広く利用されている。このため、Es層の発生や増強は、航空通信や漁船との連絡、テレビ信号受信などが妨害され、深刻な影響をもたらす可能性がある。
今回の研究では、高度3000kmまでを含む気候モデルを用いて、大気中のCO2濃度が現在と産業革命前の中間ぐらいの値の315ppm(1958年の観測開始時の値)と、2100年ごろの濃度と予測される667ppmの場合の宇宙大気の状態をシミュレーションし、それによるEs層の形成状況が評価された。その結果、CO2濃度が高いレベルの将来のEs層は、現在よりも強く、より低い高度で発生し、夜間に長く持続する傾向にあることが判明した。こうした変化をもたらす主因は、宇宙大気密度の低下(いわゆる大気の薄層化)と東西風の変化であることが明らかにされた。
今回の研究は、地球温暖化や気候変動がEs層の発生に与える影響を体系的に解析した初の成果だとする。また、CO2の増加による宇宙大気の変化が、全球規模から局所スケールへ、中世大気からプラズマへと連鎖する「階層間結合(クロススケールカップリング)」であることを初めて示し、その物理過程が明らかにされた。この知見から、航空機や船舶通信、救難活動、地平線越えレーダーなど、電離圏を経由する通信技術に関わる分野では、地球温暖化や気候変動の長期的影響を考慮したリスク評価と運用計画が求められるとした。
研究チームは今後、現在のモデルを用いて、Es層が存在確率の推定にとどまらず、CO2の実際の上昇に合わせてEs層の実際の規模と強度を評価する予定とする。そして、その結果を、電波を利用した通信システムの長期運用に応用していくとしている。
