【新政権への期待と課題】少数与党で政策づくりが滞る中での日本の舵取りは?

日本は今、政治空白を容認できるほど余裕はない。税・財政・社会保障の一体改革、活力あふれる地域経済社会の実現、産業競争力強化に向けたイノベーションの推進、生産性向上に必要な労働改革、エネルギー・食料の安定供給の確保……。人口減・少子化・高齢化という状況下で、課題が山積しているからだ。(敬称略)

政策課題が山積する中で…

「内外に解決が急がれる政策課題が山積し、重要な外交日程が迫る中、政治の安定は不可欠である。政策を着実かつ迅速に推進していく『政策本位の政治』の実現に向けて、安定した政治の態勢が確立されることを強く求めたい」

 10月10日、日本経済団体連合会会長の筒井義信は、公明党の連立離脱を受けて、このようなコメントを発表した。

 本稿執筆時(10月14日時点)、新首相が高市早苗になるのか、国民民主党代表の玉木雄一郎になるのか、それとも他の誰かになるのか。現時点では先の読めない状況にあるが、玉木に対して、某経済人は「年収103万円の壁の見直しや手取りを増やすことも結構だが、それだけで本気で日本が救われると思っているのか?」と訝る。

 自民党総裁に高市が選ばれたのは10月4日のこと。保守色が強い高市に保守回帰を期待した結果であろう。公明党との協力関係を解消し、前途多難ではあるが、自民党の保守色はさらに強まる見通しだ。

 具体的には外国人政策の強化が挙げられる。高市は総裁選の論戦で、在留・訪日外国人の急増に伴う国民の不安を払拭するため、出入国管理行政の厳正な適用や土地取引規制の強化、省庁横断の司令塔機能の強化などを主張した。

 中国やロシアなどによる諜報活動が活発化する中、重要情報の漏洩を防ぎ、罰則を科す「スパイ防止法」の制定にも意欲を示す。参院選では、参政党が「日本人ファースト」を掲げて躍進した。自民党支持層も流れたとみられ、高市はそれを取り戻したい意向だ。

 一方、高市への期待は一気に失望に変わりうる。高市が続けてきた春秋の例大祭、8月15日の終戦の日の靖国神社参拝を見送れば、支持者からの批判を受ける可能性があるからだ。

 もっとも、経済政策への期待は高い。高市の総裁就任後、日経平均株価は連日のように最高値を更新。10月9日の日経平均株価の終値は、前日比845円高の4万8580円となった。

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 高市はアベノミクスを発展させた「サナエノミクス」として、財政出動を伴う「大胆な危機管理投資・成長投資」を目指す。食料やエネルギーなど、国の安全保障上不可欠な分野に対し、国家が支援するというもので、AI(人工知能)や半導体産業などへの官民連携での投資が主な柱となっている。

 元経団連会長でキヤノン会長兼社長の御手洗冨士夫も「AI・半導体・量子技術などへの成長投資を中心とした政策を進め、中長期的に経済成長を実現する思い切った政策の実行を期待する」とエールを送っている。

財政出動が長期金利の上昇や円安進行へ波及する可能性も

 高市は積極財政派の代表格である。財政出動の財源は税収の上振れを回す他、赤字国債の発行も辞さない。ただ、後見人の副総裁・麻生太郎と、麻生の義弟で幹事長の鈴木俊一は共に財務相を長く務めた財政規律派で、意見の一致が見られるかどうかは不透明だ。高市が掲げる「給付付き税額控除」も党内で理解を得ているわけではない。

 高市は防衛力強化と防衛費の増額も主張する。日本は2027年度に国内総生産(GDP)比で2%に増やす予定だが、米側はさらに増額を求めており、3.5%とも5%とも言われる。その場合も財源が課題となるが、2%分の財源さえ正式に決定していない。

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 あるアナリストは「高市の積極的な財政出動が長期金利の上昇圧力、円安進行へと波及する可能性がある」との見方を示すが、こうした懸念を持つ経済人は多い。

 期待の反動は出始めている。サナエノミクスによる財政出動に期待した「高市トレード」は株高を招いたが、円安を誘引しつつある。さらに円安が進めば輸入産業には打撃となり、高市が最優先課題に挙げる物価高を抑制できないリスクをはらむ。

 高市は日銀の追加利上げに慎重で、総裁就任直後に財政悪化の懸念から長期リスクが上昇。今後も国債の利回りに影響を与えそうだ。

 10月14日の日経平均株価の終値は、前週末比1241円安の4万6847円。自民党と公明党の連立解消による政治不安や、米中対立への懸念が前週までの株高を押し下げた。産業界では「日本はあまりにも低く評価されすぎているという意見もあるけど、ここのところの最高値は博打と一緒。浮かれすぎてはいけない」(財界首脳)という声も出ている。

 ある経済人は「昨今の物価高は食料にしろ、エネルギーにしろ、円安による輸入インフレの影響が大きい。物価高を議論するのであれば、本来、この円安政策をどこへ持っていくかということを与野党で議論しなければならない」と指摘。

 しかし、その点については、どの党も踏み込んでおらず、「給付金か減税というレベルの話だけで、与野党とも目先のポピュリズムに走っているようではいけない」と訴える。

 新首相には、国民の聞こえの良い政策ばかりでなく、日本の課題を直視し、日本の将来像を語ってほしい。

目立った外交経験のない高市

 外交行事は10月末から目白押しだ。

 一つは、今月末に予定される米大統領のトランプとの会談だ。トランプは高市について「深い知恵と強さを持つ尊敬される人物だ」と称賛した。トランプの盟友だった元首相の安倍晋三に高市が近かったことを認識しているのかもしれない。

 ただ、高市は目立った外交経験がない。トランプは会談で日本の防衛費増額を要求するとも言われる。日米関税合意は決着した形だが、トランプは想定外の要求をしてくるかもしれない。

 31日からは韓国でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれ、中国の国家主席・習近平との初会談も想定される。南西諸島近辺のみならず太平洋でも空母を活動させた中国に対し、タカ派の高市が毅然と臨めるかどうか。中国の軍拡や邦人の不当な拘束などに言及したとしても、「遺憾」で済ませれば保守層は落胆するに違いない。

 公明党の「与党離脱」で先行き不透明だが、毎年のように首相が交代して政治が不安定になれば、国民に必要な政策の実行に支障をきたす。日本の国際的地位が低下することにもつながる。11月に立党70年を迎える自民党は「政治は国民のもの」と高らかにうたった原点に立ち返らなければ、いよいよ国民から見放されるだろう。もう総裁選の「やり直し」を行う余裕は今の日本にはない。

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