情報通信研究機構(NICT)、名古屋工業大学(名工大)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の3者は10月22日、NICTの1m光地上局と、JAXAが運用中の光データ中継衛星搭載の「光衛星間通信システム(LUCAS)」を用いて、「大気ゆらぎ」が地上-衛星間光通信に与える影響を克服するための次世代誤り訂正符号の実証実験に成功したと共同で発表した。
同成果は、NICT ネットワーク研究所 ワイヤレスネットワーク研究センター 宇宙通信システム研究室の小竹秀明主任研究技術員、名工大 電気・機械工学類の岡本英二教授らの共同研究チームによるもの。今回の成果は、10月28日~31日に京都で開催される宇宙光通信関連の国際会議「ICSOS 2025」にて発表される予定だ。
地上-衛星間光通信の品質向上に大きな期待
NICTが進める地上-衛星間光通信技術の実用化における課題の1つが、大気ゆらぎの克服だ。大気ゆらぎとは、気温や大気の屈折率の変動、風による対流や乱流などの影響で光の波面が歪む現象を指す。地上-衛星間光通信では、大気ゆらぎの影響で信号光の受信パワーが変動し、通信品質の劣化や信号が途切れる「フェージング」を引き起こす。また風はランダムに変化するため、大気中の屈折率も絶えず変化する。それゆえ大気ゆらぎの予測がしづらいことが、この課題の難点となっている。
そこで今回の研究では、NICTの1m光地上局とJAXAのLUCASを用い、地上-静止衛星間光通信実験を実施。大気ゆらぎが通信品質に与える影響が調査された。その結果、大気ゆらぎが数ミリ秒~数十ミリ秒のフェージングを引き起こし、それによって誤りデータが連続発生して品質を劣化させ、通信が不安定になることが確認された。
このような通信が不安定になる状況を克服する技術としては、光学系による「補償光学技術」と、通信データとは別に符号データを付加する「誤り訂正符号」が挙げられる。今回の研究では、複雑な光学系の制御が不要な誤り訂正符号が採用された。これは通信分野では一般的に用いられる、受信データの誤りを検出後に訂正する前方誤り訂正の仕組みだ。
具体的には、1m光地上局とLUCAS間の地上-静止衛星間光通信回線の60Mbpsダウンリンクを用い、従来の「Reed Solomon符号」などよりも高い誤り訂正能力を持つ、第5世代移動通信システム(5G)用途の「5G NR LDPC符号」と、衛星放送用途の「DVB-S2符号」を含む次世代誤り訂正符号の伝送実験が実施された。
ちなみにLUCASは、高度約3万6000kmの静止軌道上に投入された衛星を用いた、低軌道の中でもより地球に近い軌道(高度200km~1000km)を周回する地球観測衛星と地上局との通信を中継する通信システムだ。これにより、地球観測衛星と地上局との間のリアルタイムでの通信可能領域を大幅に拡大することが可能となる。さらに、衛星間中継回線の光化により通信大容量化が実現され、地球観測衛星の高度化・高分解能化にも対応できる。
実験では、フェージングによる誤りデータの訂正に向けて、これまでの大気ゆらぎの知見を元に、送信側で送信データの順序を予め決められた規則に従って並び替えを行うデジタル処理部である「インタリーバ」と誤り訂正符号の各条件が調整された。
この伝送実験のデータを解析した結果、フェージングにより連続発生した誤りデータの訂正を実証することに成功。5G NR LDPC符号とDVB-S2符号が、従来よりも通信品質の向上に寄与できることが世界で初めて確認された。両符号は、高い誤り訂正能力だけでなく、ハードウェアへの実装容易性や、将来的な5G通信システムとの相互接続が可能であるという点から、地上-衛星間光通信への活用が期待される結果となったとした。
なお、今回の研究における三者の役割分担は、以下の通りだ。
- NICT:誤り訂正符号やインタリーバの条件の詳細検討、大気ゆらぎと誤り訂正効果との関係性の評価、NICTの光地上局の運用
- 名工大:送信用誤り訂正符号データの生成、受信データの復号解析、誤り訂正符号アルゴリズムの開発
- JAXA:実験運用計画の立案、将来宇宙機への搭載検討、光データ中継衛星搭載LUCASの運用
研究チームによれば今回の成果は、地上-衛星間光通信回線の通信品質を向上させ、実用化を促進するものだという。これにより、現在地上で使用されている5G通信プロトコルと衛星放送の宇宙ネットワークへの適用が可能となる。そして今回の技術は、将来の地上-衛星間光通信システムにおける活用が見込まれるとしている。
