アマゾン ウェブ サービス(AWS)ジャパンはこのほど、AWSを活用した金融ビジネスにおける生成AIの最新活用事例に関する記者説明会を開催した。
金融事業開発 本部長の飯田哲夫氏は、金融ビジネスの戦略「Vision 2030」の4つの柱のうち、特に「戦略領域への投資拡大」「新規ビジネスの迅速な立ち上げ」が生成AIの活用にかかわりがあると説明した。
また、飯田氏は生成AIについて、昨年は業務活用のフェーズだったが、今年はビジネス価値の創出が求められるフェーズとなっていると述べた。「生成AIは自律的なエージェントへ進化しており、エージェントを自律的に活用することで、効果を大きく上げられるフェーズに入っている」と同氏。
さらに、飯田氏はAIがソフトウェア開発を変えていると述べた。昨年は、AIアシスタントとしてコードの生成と質問への回答を行っていたが、今年は人が関与しながらタスクを完遂するエージェントとしての役割が求められているという。同氏は「ソフトウェア開発はAIが中心となり、人が支援する形となる、AI駆動型開発に変わろうとしている」と語った。
以下、東京海上日動システムズ、JPX総研、三菱UFJ銀行の活用状況を紹介しよう。
生成AIを活用して開発工程を30%削減 - 東京海上日動システムズ
東京海上日動システムズ インフラソリューション一部兼戦略企画部 山下裕記氏は、生成AIを活用したIT業務変革について説明を行った。同社は東京海上グループの重点戦略を実現するための施策「テクノロジー活用の徹底、高速化」による業務効率化や生産性向上を目指している。その中で、急ピッチで生成AIの活用を進めているという。
山下氏は、同社のシステム開発における生成AI活用について、「一部はできているが、まだ一番下のレベル、すべての開発プロセスに生成AIを導入することを目指している」と語った。
目標は「開発工程のコスト・工数を30%削減」
同社はシステム開発の生産性を上げることで競争力の源泉を確保するため、開発工程のコスト・工数を30%削減することを目標として、2023年から開発工程において生成AIの活用を開始した。削減したコストと工数は戦略案件に振り向けることを狙っていた。
具体的には、保険金支払業務を実現するためのパッケージソフトを活用している損害対応システムで、生成AIを活用して設計書からソースコードを作ることに挑戦し、効果検証を実施した。山下氏は「このシステムは東京海上日動グループでトップ5に入るほど重要なシステムで、Gosuというマイナーな言語を使っている。このシステムで生成AIを活用できたら、他のシステムも活用できるのはないかと考えた」と述べた。
PoCでは、実開発案件への適用をシミュレーションし効果を検証。プログラミング工程の工数を、新規開発で44%、仕様変更で83%削減可能と評価し、現在は実案件で適用しており、約30%の工数を削減した。山下氏は「今年度中にはすべての領域に適用できるとみている」と語っていた。
AI駆動開発で成果を確認
現在は、開発プロセスを120個に分割し、生産性効果を算出して効果がありそうなプロセスに適用する検証を実施しているという。具体的には、監視・障害対応の効率化を実現するため、AIOpsプラットフォームの活用を検討している。
さらにはAWSとの協業の下、AI駆動開発にも取り組んでいる。社内向け、顧客系、事故対応系など、さまざまなジャンルのシステムで実証実験を実施。損害系システムでは、過去2カ月かかった画面の開発を1.5日で完了したという。この結果を受け、「ゲームチェンジが起きそうだと思ったので、全力で取り組んでいる」と山下氏。「T業界の課題は社会課題であって、競争領域ではない。他社と盛り上げていきたい」と話を結んだ。
生成AIで利用者ががんばらない検索の実現を - JPX総研
JPX総研 執行役員(フロンティア戦略担当)山藤敦史氏は、生成AIを活用した開示資料検索サイトを紹介した。同氏によると、開示資料は年間15万件100万ページ以上公開され、投資家がスピーディーに読みこなすのは難しい。
そこで、同社は自然文によって開示資料を検索できるサイトを構築した。同サイトは、AWS OpenSearchによってベクトル検索を行い、その結果を、生成AI (Claude on AWS Bedrock)で回答分を生成するという仕組みだ。
山藤氏は、サイト構築にあたって直面した難題を紹介した。1つは否定形の検索だ。例えば、業績予想が入っていない決算短信を探すのは難しいという。というのも、非開示を説明する表現がバラバラであるため、生成AIがこれらを吸収するのは難しいという。もう一つは数値を組み合わせた検索だ。
また、山藤氏は「市場調査はただの検索ではない」と述べた。例えば、「V市場に関するトレンドが知りたい」といった質問にも答える必要があり、膨大な情報から回答を生成する必要がある。
今後の展望について、「金融業界は利用者に負担を強いるサービスが多いので、利用者ががんばらない検索を目指したい。また、検索しただけで終わるのではなく、検索したあとのアクションにつなげるようにしたい。ただし、コストが読めない点は課題」と山藤氏は語っていた。
マルチAIエージェントの活用まで到達 - 三菱UFJ銀行
三菱UFJ銀行 市場企画部市場エンジニアリング室 Head of Quant Innovation 堀金哲雄氏は、市場営業活動における生成AIの活用を紹介した。
同行は2021年より、テクノロジー変革として「AI/ML initiatives」を掲げ、AI/ML内製開発チームを発足し、Amazon SageMakerを中心にMLOps基盤を構築した。
2023年からはさらに「生成 AI initiatives」も掲げ、生成AIの活用に取り組んでいる。具体的には、「全社員向けにChatベース生成AIを開放」「業務個別エージェントの内製開発」「マルチエージェント開発」に取り組んでいる。
個別のAIエージェント利用の成果
堀金氏はエージェンティックAIへの進化について、次のように説明した。
「生成AIエージェントは人の定めたゴールを達成し、エージェンティックAIはAIによって自律的に課題を解決する。エージェンティックAIのKPIは移譲できている業務の割合であり、現在、業務の移譲に取り組んでいる」
同行では、財務課題を分析する人が、PL、BS、競合、FXのリスクの分析などが行える個別のAIエージェントの開発に取り組んできた。AIエージェントは国内400名超の行員が活用中で、上場約4000社の財務分析・財務課題提案ドラフトを5分で生成できる。これにより、アプローチできていなかった顧客への提案可能件数が従来の10倍に増えたという。今年度は、海外の顧客にも拡大する計画だ。
マルチエージェントによるワークフロー変革
さらに、同行はMCP(Model Context Protocol)を活用して複数のエージェント(マルチエージェント)から構成されるシステムを開発している。同システムでは、ユーザーコンテキストに応じ、エージェントがエージェントを自律的に活用し、エージェント全体の挙動の評価をジャッジして継続的に改善する仕組みを取り入れている。ジャッジにおいては、専門家の知見を取り込んでいるという。
堀金氏は、「複数のワークフローを分解してエージェントに置き換えて、かなりの人間の業務がAIとできる状況に来ている。AIが最適なワークフローを作る時代が来ると思う」と語った。





