東京科学大学(科学大)は10月2日、相互作用する一次元電子系である「朝永ラッティンジャー液体」で安定的に存在する「非熱的状態」を利用し、熱力学的な上限を超える熱効率を実現するエネルギーハーベスティング(未利用エネルギー回収)技術を開発したと発表した。

  • 今回の研究の概要イメージ

    今回の研究の概要イメージ(出所:科学大Webサイト)

同成果は、科学大 理学院 物理学系の藤澤利正教授、NTT 物性科学基礎研究所の村木康二上席特別研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の物理学を扱う学術誌「Communications Physics」に掲載された。

「朝永ラッティンジャー液体」の活用が鍵に

従来の廃熱(熱エネルギー)を電力(電気エネルギー)に変換するエネルギーハーベスティング技術は、熱平衡状態に達した廃熱からの熱電変換を前提としていた。そのため、取り出す電力を極限的に0にすることで得られる最大の熱効率「カルノー効率」や、取り出す電力を最大化した条件における熱効率「カーゾン・アールボーン効率」といった、熱力学的な効率の上限による制約が課題だった。

しかし、熱平衡状態とは異なる非熱的状態を利用することで、熱力学的な効率の上限を超える熱電機関の研究が注目されている。しかし多くの非熱的状態は、人為的に作られた特別な状態であり、そのままエネルギーハーベスティング技術に使うことは困難だ。そこで研究チームは今回、容易に非熱的状態を作り出し、維持したまま熱を輸送できる朝永ラッティンジャー液体を熱輸送の媒体として用いたという。

通常の電子は粒子として個別に動くのに対し、朝永ラッティンジャー液体では電子同士が強く相互作用し、集団として波のような性質を示す。この集団的挙動の結果、非熱的状態という特殊な状態が安定して存在できるようになる。今回の研究では、この特性を利用することで、カルノー効率やカーゾン・アールボーン効率といった熱力学的な効率の上限を超えるエネルギーハーベスティング技術が実現された。この技術の実証実験が行われ、トランジスタから出た廃熱を朝永ラッティンジャー液体に流し込み、生成した非熱的状態を量子ドットを用いた熱電機関まで輸送した結果、電力を取り出すことに成功した。

なお量子ドットとは、狭い領域に電子を閉じ込めた構造であり、量子閉じ込め効果によりエネルギーが飛び飛びの値になる離散化が特徴だ。また量子ドットを用いた熱電機関は、熱平衡状態の熱源に対し、上述したカルノー効率やカーゾン・アールボーン効率などの熱力学的な効率の上限に近い熱効率を示す特徴がある。

電力を取り出す量子ドットの条件に基づき、熱効率などの熱電特性が評価された。実験に用いた試料は、ガリウムヒ素とアルミニウムガリウムヒ素を積層した半導体構造の表面に、微細な電極が形成されたものだ。これらの電極に適切な電圧と磁場を印加することで、左側にトランジスタが、右側に量子ドット熱電機関が形成される。電流および熱流は、一次元の電子チャネルからなる朝永ラッティンジャー液体の方向に流れる性質があり、これにより量子ドット熱電機関は、非熱的状態の朝永ラッティンジャー液体から電力を取り出すことが可能となるのである。

  • 実験の概念図と素子構造

    実験の概念図と素子構造(出所:科学大Webサイト)

そして実験では、ほぼ同等の廃熱条件のもと、朝永ラッティンジャー液体特有の非熱的状態から熱電変換をした場合と、近似的な熱平衡状態から熱電変換をした場合の実験結果が比較された。その結果、前者の非熱的状態の場合、幅広い条件で発電電力が得られることが明らかにされた。

次に研究チームは上述の条件を解析し、理想的な量子ドット熱電機関における熱電特性の評価を行った。その結果、近似熱平衡状態に比べて、非熱的状態を用いることで高い発電起電力(電圧)が得られ、最大熱効率および最大電力時の熱効率も高い熱電変換が可能になることが判明した。

  • 代表的な実験結果

    代表的な実験結果(出所:科学大Webサイト)

  • 熱電特性の比較

    熱電特性の比較(出所:科学大Webサイト)

熱平衡状態に対する最大熱効率はカルノー効率、熱平衡状態に対する最大電力時の熱効率はカーゾン・アールボーン効率である。つまり、この実験では、朝永ラッティンジャー液体の非熱的状態を用いることで、これら2つに代表される熱力学的な効率の上限を超える高い熱効率が得られることが実証された。

今回の研究によって、朝永ラッティンジャー液体を用いることで、従来よりもエネルギー利用効率の高いエネルギーハーベスティング技術が実現された。この技術は、環境への廃熱が深刻な問題となる量子コンピュータや集積化が進む半導体デバイスにおいて、廃熱を電力に変換する技術への応用が期待されるとしている。