京都工芸繊維大学(京工繊)と大阪工業大学(大工大)の両者は9月30日、安定なn型熱電材料として注目されてきたニッケル-エテンテトラチオレート系配位高分子「poly(NiETT)」の大きな課題だった「不溶性」の問題を、水と有機溶媒を適切に混ぜるだけで解決する新手法を開発したことを発表。同材料の粉末が自然にほぐれて分散し、従来は困難だった薄くて柔軟なフィルムの作製が可能となったことから、従来よりも高性能な熱電変換材料やテラヘルツ検出器を開発できたと併せて報告した。

  • poly(NiETT)の化学構造

    poly(NiETT)の化学構造(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、京工繊 材料化学系の野々口斐之准教授、同・湯村尚史教授、同・細川三郎教授、大工大 工学部応用化学科の村田理尚准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する材料化学を扱う学術誌「Journal of Materials Chemistry A」に掲載された。

柔軟かつ高性能なデバイス開発に光

ヒトは生活の中で、自動車、エアコン、電子機器、工場などから大量の排熱を発生させており、その量は全エネルギーの約3分の2にも及ぶ。このため近年、温度差があると電圧が生じる「ゼーベック効果」を利用し、排熱を電気に変える熱電変換が注目されており、次世代のエコ技術として、熱電変換でいかに効率よく電気に変換するのかといった研究が進められているのである。

そうした中、熱電材料の中でも曲げたり貼ったりが可能な有機材料は、ウェアラブル機器や柔軟性のあるセンサにつながるとして期待されている。しかし電子を運ぶn型の有機材料は、空気や湿気に弱く不安定で、思うように利用できないことが大きな課題となっていた。

一方、安定な導電性材料として期待が高まるのが、金属イオンと有機配位子(共役化合物)からなる導電性の配位高分子だ。中でも、poly(NiETT)は、2013年ごろから“空気中でも安定に動作するn型熱電材料”として注目されてきた。しかしこの材料は、粉末のままでは不溶性という認識であり、フィルム化や樹脂と複合化など、実際に利用する際の大きな障害となっていた。そこで研究チームは今回、水を利用して、不溶性の課題解決を図ったという。

今回の研究では、水と有機溶媒の混合液にpoly(NiETT)の粉末材料を投入したところ、自然にほぐれて液体中に分散することが発見された。しかも特別な薬剤や複雑な工程は不要であり、まるで砂糖が水に溶けるように、材料が自発的に利用しやすい状態に変化することが確認されたのである。

  • poly(NiETT)粉末が自発的に分散する様子

    poly(NiETT)粉末が、水を25%含むテトラヒドロフラン溶液に自発的に分散する様子(出所:共同プレスリリースPDF)

この液体をフィルターで濾したところ、薄くてしなやかなフィルムを作成可能なことも確かめられた。フィルムは厚さ1μm(1000分の1mm)ほどで、折り曲げても割れないという特徴を持つ。さらに、従来の材料より高い性能を備え、空気中の湿気を活用することで性能を向上させられることも判明した。とりわけ、環境の水分を含ませたまま熱処理するとそれが天然のドーピング剤として働き、熱電変換特性(温度差発電特性)の大幅な向上が確認された。

  • poly(NiETT)の薄膜調製技術

    poly(NiETT)の薄膜調製技術(出所:共同プレスリリースPDF)

さらに今回の研究では、作成されたフィルムをカーボンナノチューブと組み合わせ、赤外線を電気に変えるセンサも作製された。その結果、周波数が毎秒1兆回(1THz)程度の、電波と赤外線の中間的な特性を持つテラヘルツ波の検出感度が、従来のセンサの約4倍に向上したことも明らかにされた。なおテラヘルツ波は、次世代通信(6G/7G)や医療・非破壊検査で活用が期待されている重要な電磁波だ。

今回の成果により、これまで扱いづらいとされてきた導電性の配位高分子材料を、簡便かつ安定して高性能に利用できる道が開かれた。近い将来、人体に貼って体温の変化から電気を生み出すデバイスや、見えない光を検知する高感度センサによる異物検査・成分分析、さらには次世代通信の受光デバイスなど、未来の暮らしを支える新技術につながることが期待されるとしている。