AIはソフトウェア開発を急速に変革しているが、ツールを導入するだけでは成功は保証されない。業界全体で、技術リーダーや開発者たちは同じ本質的な問いを投げかけている。AIを「使う」段階から「成功する」段階へどう移行するのか、AIへの投資がより優れた、より迅速で、より信頼性の高いソフトウェアの提供につながるようにするにはどうすればよいのかと。Google Cloud DORA(DevOps Research and Assessment)の研究チームが7つのAI能力モデルを公表した。

DORAが発表した「AI能力モデル」

DORAの研究チームは、こうした問いに取り組む組織のために初の「DORA AI能力モデル(DORA AI Capabilities Model)」を開発。AIの利点を最大化するための具体的な技術的・文化的実践へのガイドと位置付けている。

このモデルは3段階のプロセスを経て構築。まず、78件の詳細なインタビュー、既存の文献、分野の専門家による見解をもとに、幅広い候補能力を特定・優先順位付けした。

次に、それぞれの能力を明確かつ正確に測定できるよう、信頼性の高い調査質問を設計・検証した。最後に、約5000人の回答者を対象に年次調査を通じて、以下の7つの能力が特に重要であることが判明したという。

7つのAI能力の概要と重要性

1. 明確に伝達されたAI方針
AI支援ツールに対する組織の立場は明確であり、社内にしっかりと伝達されている必要がある。AIの使用に関する期待、実験への支援、使用が許可されているツールなどが含まれる。調査によれば、明確なAI方針は個人の生産性や組織のパフォーマンスに対するAIの好影響を高め、従業員の摩擦を減らす。なお、この能力は方針の内容そのものではなく、「明確さと伝達」が評価対象であるため、方針の立場がどうであれ、明確に伝えられていれば達成可能。

2. 健全なデータエコシステム
社内データの質は、AIの成功にとって極めて重要。高品質でアクセスしやすく、統合された社内データによって構成される健全なデータエコシステムは、AI導入による組織パフォーマンスへの好影響を大きく高める。

3. AIがアクセス可能な社内データ
AIツールを社内データソースに接続することで、個人の生産性やコード品質への影響が強化される。企業固有の文脈をAIに提供することで、汎用的なアシスタントから、開発者にとって高度に専門的で価値あるツールへと進化する。

4. 強固なバージョン管理の実践
AIによるコード生成の量と速度が増す中で、バージョン管理の重要性が高まっている。調査では、成熟したバージョン管理習慣とAI導入との間に強い相関があることが示された。特に、頻繁なコミットは個人の生産性に対するAIの好影響を高め、ロールバック機能の頻繁な使用はAI支援チームのパフォーマンスを向上させる。

5. 小さなバッチでの作業
小さなバッチで作業することは、DORAが長年提唱してきた原則であり、AI支援環境において特に効果を発揮する。この実践は、製品パフォーマンスに対するAIの好影響を高め、開発チームの摩擦を減らす。

6. ユーザー中心の視点
AIを活用するチームにとって、エンドユーザーの体験に深く焦点を当てることが不可欠である。調査では、ユーザー中心の視点がチームパフォーマンスに対するAIの好影響を高めることが示された。重要なのは、ユーザー中心の視点が欠如している場合、AI導入がチームパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があるという点である。ユーザーが戦略の中心にあるとき、AIはチームを正しい方向へ導く。しかし、ユーザーが中心でない場合、AI支援チームは単に「間違った方向に速く進んでいる」だけかもしれない。

7. 質の高い社内プラットフォーム
質の高い社内プラットフォームは、AIの利点を組織全体に拡張するために必要な共通機能を提供する。こうしたプラットフォームを持つ組織では、AIの組織パフォーマンスへの好影響が強化される。

  • AI能力モデルの概要

    AI能力モデルの概要

AI導入を成功に導くための推奨事項

ソフトウェア開発においてAIを効果的に活用するには、単に新しいツールを導入するだけでは不十分であり、AI支援型の開発者が活躍できるよう技術的・文化的な環境を整える必要があるとのこと。今回の7つの能力にもとづき、AI導入の効果を最大化したい組織に対して以下の推奨事項を提示している。

  • AI方針を明確化し、社内に浸透させる
    許容範囲が曖昧だと導入が妨げられ、リスクも生じる。使用可能なAIツールとその利用方法について明確な方針を定め、開発者の信頼と実験の心理的安全性を確保する。

  • データを戦略的資産として扱う
    AIによる組織パフォーマンスの向上は、健全なデータエコシステムによって大きく強化される。社内データの質、アクセス性、統合性に投資する。

  • AIを社内文脈に接続する
    汎用的なAI支援を超えるために、社内ドキュメント、コードベース、その他のデータソースへの安全なアクセスをAIツールに提供する技術的努力を惜しまない。これにより、企業固有の文脈を活かした最大限の効果が得られる。

  • 小さな単位での作業など、既知のベストプラクティスを徹底する
    小さなバッチでの作業を徹底することで、製品パフォーマンスが向上し、AI支援チームの摩擦が軽減される。

  • ユーザー中心性を最優先する
    AI支援ツールは、コードの生成、デバッグ、レビューを迅速化する。しかし、製品戦略がエンドユーザーのニーズを中心に据えていなければ、コードが増えても組織にとっての価値は増えない。ユーザーのニーズを明示的に中心に据えることが、AI支援チームを共通の目標に向かわせる北極星となる。

  • 安全網を強化する
    AIによって変更の速度が増す中で、バージョン管理システムは重要な安全網となる。チームがロールバックやリバート機能を高度に使いこなせるよう促す。

  • 社内プラットフォームに投資する
    質の高い社内プラットフォームは、AIの利点を組織全体に安全かつ効果的に拡張するためのガードレールと共通機能を提供する。

DORAの研究は、優れたツールやチームであっても適切な組織環境がなければ成功できないという前提にもとづいている。AI支援型開発の成功は、単なる購買判断ではなく、AI支援型開発者が活躍できる環境を育てるという意思決定との見立てだ。