富士通は国内外の大学に研究拠点を設け、研究員が常駐または長期的に滞在しながら産学連携の活動を行う取り組み「富士通スモールリサーチラボ(以下、SLR)」を進めている。同社はアカデミア領域の教員や学生らと連携しながら人材の育成に携われる利点がある一方、大学としても研究成果の社会実装の加速が見込める。

同社はこのほど、第3回目となる「スモールリサーチラボ全国大会」を東北大学で開催した。全国大会では海外大学を含め複数の研究拠点が成果を発表した。本稿では同大会より、これまでのSRLの取り組みと、東北大学理事の小谷元子氏による講演をレポートする。

富士通と東北大学は、新たな技術の開発と人材の育成を通じた社会課題の解決を目的とし、互いの持つ技術や知見を組み合わせるために「富士通×東北大学 発見知能共創研究所」を設立した。この研究拠点では、特に社会課題に対する解決策をAIによってデータから発見する「発見知能」の開発および社会実装に取り組んでいる。

イベント開催に先立ち、富士通 CTOのVivek Mahajan(ヴィヴェック マハジャン)氏が「富岳NEXTを発表したが、当社はMade in Japanの技術でグローバルに挑戦していく。その他、量子やAI技術でもソブリン性を大事にし、防衛、行政、医療、製造、金融などの分野をターゲットに展開する方針。そのためにも、大学の方々と一緒に研究することは当社としても重要である。今後もさまざまな分野で、新しいテーマの研究を進めていきたい」とコメントした。

  • 富士通 執行役員副社長 CTO、システムプラットフォーム担当 Vivek Mahajan(ヴィヴェック マハジャン)氏

    富士通 執行役員副社長 CTO、システムプラットフォーム担当 Vivek Mahajan(ヴィヴェック マハジャン)氏

SRLから具体的な成果が生まれ始めた

SRLの取り組みが2022年に開始してから、約3年が経過した。全国各地のラボにおける取り組みや成果を共有して横展開するために、「スモールリサーチラボ全国大会」が年次で開催されており、第2回大会の後には、京都大学の創薬AIと広島大学の量子化学計算ソフトウェア「GANSU」による具体的なコラボレーションが開始された。

富士通で産学連携を担当する豊田建氏は「SRLは一企業だけでは解けない社会課題に挑む新しい仕組みとして開始した。前例のない取り組みだったため、研究室の先生方との未知の挑戦ではあったが、多くの成果を創出できた」と振り返った。

  • 富士通 テクノロジビジネスマネジメント本部 エグゼクティブディレクター(産学連携担当) 豊田建氏

    富士通 テクノロジビジネスマネジメント本部 エグゼクティブディレクター(産学連携担当) 豊田建氏

従来の産学連携においては、研究者個人間で共通の技術テーマを起点とした、点と点の連携が多かった。しかし社会課題が複雑化する昨今の環境では、より上位の視点での研究テーマ選定や、文系と理系の垣根を超えた研究活動が重要となる。そこでSRLでは、広範な分野の研究者を対象に組織を巻き込み、面と面での中長期的な連携の強化と異文化融合を支援してきた。

こうした取り組みの結果、広島大学SRLではGPUを高速化するソフトウェア「GANSU」をオープンソースとして公開し、従来比で最大7.1倍の計算を実現した。また、大阪大学SRLでは世界最大規模となる量子コンピュータ・クラウドサービス向けの基本ソフトウェア群をオープンソースとして公開した。

その他、デルフト工科大学SRLではダイヤモンドスピン量子ビットの高精度量子ゲート操作技術を開発し、誤り訂正を可能とするエラー確率0.1%未満の高精度操作に成功した。

加えて、横浜国立大学ではスーパーコンピュータ「富岳」を利用して、台風に伴う竜巻の予測を可能とする気象シミュレーションを実現。従来技術では約11時間を要していた竜巻発生予測を、約80分まで短縮した。なお、同SRLでは、将来的に台風のエネルギーを用いた発電まで実現しようとしているとのことだ。

  • 横浜国立大学SRLにおける成果の例

    横浜国立大学SRLにおける成果の例

SRLは人材採用にも貢献しているそうだ。各SRLにおいて採用説明会や個別マッチングを実施したところ、2026年度入社予定を含めると、博士6人、修士9人(うち卓越社会人博士1人)の15人がSRLから富士通研究所への入社に発展している。研究者と富士通が相互の研究内容を理解しているからこそ、希望に適したマッチングが実現できているとのことだ。

豊田氏は「SRLは、テクノロジーカンパニーである富士通が、新たなテクノロジーの開拓にチャレンジしていく基盤。これからも日本を挙げて取り組みを強化していきたい」と話していた。

  • SRLを介した人材採用の状況

    SRLを介した人材採用の状況

東北大学と富士通の連携はさらなる進展へ

東北大学は2021年に、産学連携による共同研究や人材育成などの共創活動を進める連携拠点を構築する制度「共創研究所」を創設した。これは、企業と大学の密接な連携を実現するための制度であり、大学内に企業との連携拠点を設置する。

活動内容は限定されておらず、幅広い共創活動が対象。共同研究者は大学教員の支援の下で、専門分野の教員や知見、設備などに柔軟にアクセスできる。構成員は企業と大学の双方によるもので、持続的な連携推進が前提となるため複数年契約が基本だ。

この制度はまさに、富士通が取り組むSRLの理念と共通するものがある。だからこそ両者は連携を強化しており、2022年の「富士通×東北大学 発見知能共創研究所」の設置に至っている。

  • 東北大学 共創研究所のコラボレーション例

    東北大学 共創研究所のコラボレーション例

東北大学 理事の小谷元子氏は「発見知能共創研究所が研究を進めている因果発見技術は数学分野であり、これは東北大学の共創研究所の中でもユニークなものである。現在は数学を中心にした研究と、それを応用する研究の2つの領域で推進している」と、両者の共創について紹介した。

  • 東北大学 理事 小谷元子氏

    東北大学 理事 小谷元子氏

東北大学が本格的な訪問滞在型研究センターとして立ち上げた「知の創出センター」も、両者の研究を後押ししているという。2025年度に「Causality(因果関係)」をテーマとしたプログラムを採択し、世界中から研究者を招待してさまざまなアクティビティを開催した。

その中では「因果関係と相関関係の違い」や「複雑なデータの中から因果関係を見出す手法」などが議論されたそうだ。

  • 知の創出センターにおける取り組み

    知の創出センターにおける取り組み

東北大学と富士通はSRLおよび共創研究所と並行して、G-RIPS(Graduate-level Research in Industrial Projects for Students)においても連携を継続している。G-RIPSとはカリフォルニア大学ロサンゼルス校が20年以上前から実施しているプログラムで、パートナー企業が提供する数学的な課題に、アメリカと日本からの参加者がグループで2カ月間集中的に取り組む。

基本的には日本の大学生2人とアメリカの大学生2人がグループを結成し、メンターと連携しながら課題に取り組む。なお、日本からの参加者は東北大学の学生に限らず、全国からの公募によって決定される。

  • G-RIPSの概要

    G-RIPSの概要

富士通は2019年に「デジタルアニーラを用いた実世界問題の解法」を課題として提供して以来、コロナ禍の不開催期間を経て、2023年に「AIの説明可能性の強化」、2024年に「因果関係を発見するAIの説明可能性の強化」、2025年に「先進的AIによる発見可能性の強化」をそれぞれ継続的に提供している。

小谷氏は「SRLおよびG-RIPSを通じた富士通との連携は非常に重要だと認識しており、参加した学生や若手研究者からも良い反応が得られている。これからもこの良い関係性を続けていきたい」と述べ、講演を締めくくった。