東京大学(東大)は9月12日、AIを用いて製品固有データを自動抽出し、フリマアプリに出品された衣料品の環境負荷(温室効果ガス、GHG)を推計する算出フレームワークを構築したと発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科の草将澄秋大学院生、同・川原圭博教授、メルカリの文多美メルカリR4Dラボリサーチャー(東大 インクルーシブ工学連携研究機構 価値交換工学部門 共同研究員兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、イタリア・パレルモで9月9日から12日まで開催された「第12回ライフサイクルマネジメント国際会議」にて発表された。
「メルカリ」の中古衣料品を対象にデータ収集
製品の原材料調達から廃棄に至るライフサイクル全体でのGHG算定には、ライフサイクルアセスメント(LCA)の手法が用いられるが、大きな問題がある。それは、製品ごとの素材、製造方法、使用状況など、詳細な一次データの収集に膨大な時間とコストがかかること。そのため業界平均値などの二次データが使われることが多く、このデータ収集の壁が、正確な環境影響評価の普及を妨げる要因となっている。
またフリマアプリの普及などによりリユース市場が拡大し、リユースはGHG削減に貢献すると期待されているものの、1点ごとに状態や使用履歴が異なる中古品のデータを個別収集することは現実的ではなく、その効果を定量的に示すことは困難だ。そこで研究チームは今回、データ収集の課題をAIで解決し、これまで不可能だった中古品1点ごとのGHG算定の自動化と、循環型経済における環境貢献度の可視化を目指したという。
今回の研究では、一般ユーザーが投稿した不均一で曖昧な情報(非構造化データ)から、専門的なLCA計算に必要な一次データをAIがどの程度正確に抽出できるかが検証された。分析対象は、フリマアプリ「メルカリ」で2020年に取り引きされた中古衣料品のうち、トップス3500点(レディース、メンズ、キッズ、ベビー)とされている。
AIには、画像とテキストの同時理解が可能な「GPT-4o」が使用された。出品者が提供した商品の服全体やタグなどの画像、説明文、状態などの非構造化データから、LCA計算におけるGHG排出量算出に不可欠な、素材組成、衣類サイズ、洗濯方法(水洗い可・不可)、推定使用回数という4つのキーパラメータを自動抽出するシステムが構築され、説明文に素材の明記がなくても、AIが品質表示タグの画像を読み取って素材を特定し、さらに試着のみ、数回着用といった説明文から、その製品の過去の使用回数が推定された。
次に、抽出された情報と、既存のGHG排出係数データベースを自動的に結びつけるプロセスが構築され、抽出されたデータがデータベースと連携できるよう、素材名を統一表記に変換するなどの用語の標準化を行った後、生産、流通、使用(洗濯・乾燥)、廃棄の各段階におけるGHG算出を行ったとする。
そして、AIが抽出した結果の精度を検証するため、14名のレビュアーによる人手での評価が行われた。その結果、3500点のサンプルにおいて、素材組成は81.6%、サイズは92.3%という高い精度で抽出できていることが判明。これは、AIがフリマアプリ上の多様で不均一なデータからでも、カーボンフットプリントの分析に必要な素材情報を高精度に自動抽出できることが示されている。しかし、洗濯方法の抽出精度は56.6%に留まったとした。
従来の衣類のGHG関連分析は、服の素材を固定した上で、洗濯の仕方や頻度など、使用段階での違いに焦点を置く傾向にあった。これは、消費者の行動変容によるGHG削減の可能性という点で注目されやすかったためだという。
しかし今回の研究により、異なる実態が判明した。衣類のライフサイクルでは、素材組成がGHGを左右する主要因の1つであることが示唆された。実際、市場には単一素材だけでなく多種多様な混紡素材が存在する。この素材の多様性とそれぞれの生産段階での違いが、個々の衣類のGHGを左右する主要因とのこと。この点は、今回現実の市場データを分析したことで得られた発見であり、GHG削減に向けたデザイン段階(素材選定)の重要性や、環境評価における素材など、衣類の個別特性の重要性を示唆する結果とする。
今回の自動評価手法は、衣類以外の製品カテゴリにも応用可能であり、企業の環境情報開示の取り組みに大きく貢献するという。特に、サプライチェーン全体の排出量の算定において、リユース市場などでの一次データ収集は大きな課題だったが、今回の手法を用いることで、データを効率的に収集、算定精度の高度化、およびコスト削減につながるとした。
将来的には、消費者が価格やデザインだけでなく、環境負荷という新基準で商品の選択が可能になることで、環境配慮型の消費行動が促進され、循環型経済が実現につながることが期待されるとしている。
