近畿大学(近大)は9月1日、近大水産研究所 新宮実験場にて、人為的にオスからメスに性転換させたシベリアチョウザメから採卵し、そのふ化に成功したことを発表した。

  • 性転換個体から採取したシベリアチョウザメの成熟卵

    (左)性転換個体から採取したシベリアチョウザメの成熟卵。(右)成熟卵の顕微鏡写真(出所:近大プレスリリース)

同成果は、近大水産研究所 新宮実験場の稻野俊直准教授、木南竜平助教らの研究グループによるもの。

オスのチョウザメからのキャビア生産が可能に

シベリアチョウザメは、ユーラシア大陸に広く分布する中型で淡水棲のチョウザメで、水質変化に強いことから世界でも多く養殖されている。また同種の特徴として、生まれてから5年程度で卵であるキャビアを生産でき、他のチョウザメ種(ロシアチョウザメや大チョウザメなど)に比べて卵径は小さいものの、キャビアの生産サイクル短縮が期待できることから、日本国内でも多数養殖されている。

このシベリアチョウザメは、ZZ/ZW型の遺伝的性決定様式を有する種であることがすでに解明されており、オス(ZZ)と通常のメス(ZW)の交配によって、オスとメスが1:1の割合で生まれる。ただしキャビアの生産においては、採卵対象ではないオスをどのように有効利用するか、その方策が求められているという。

こうした課題の解決に向け、近大水産研究所の新宮実験場では2017年、ドイツから受精卵を輸入し、人工ふ化したシベリアチョウザメに女性ホルモンを経口投与する実験を行い、2019年に全メス化に成功した。またその後は、実験に利用された供試魚の一部に、女性ホルモンを含まない通常の配合飼料を与えながら、卵巣が正常に発達することを確認するため飼育を継続していたとする。

そんな中、供試魚が7歳2ヶ月(86か月)を迎えたところで、その内1尾が卵径3.1mmの成熟卵を抱卵していることが確認されたとのこと。この個体のDNAをPCRにより分析したところ遺伝的オス(ZZ)であることが判明し、性転換したシベリアチョウザメがキャビアを製造できる卵を持つことが明らかになったとしている。

研究チームによれば、約2か月後に同個体から約1050g(約6万8000粒)の採卵に成功し、別のシベリアチョウザメの精子を用いて受精させたところ、その5日後にふ化が確認され、性転換したシベリアチョウザメから採卵しふ化した日本初の事例となったととする。なお、ふ化したシベリアチョウザメを無作為に採取し、そのDNAを抽出してPCRによる性判別を実施したところ、全個体が遺伝的オス(ZZ)であることが判明したとのこと。これは性転換したシベリアチョウザメのメス(ZZ)と通常のオス(ZZ)の交配であるため、理論上はオス(ZZ)だけが生まれてくることが想定された中で、それを実践・証明した実例だとする。

  • シベリアチョウザメに関する研究の歴史

    近大が行ってきたシベリアチョウザメに関する研究の歴史(出所:近大プレスリリース)

研究チームは今回の成果について、オスをメス化して採卵することに成功したため“オスからのキャビア生産”は可能になったものの、さらなる効率化を実現するためには、生まれながらに全個体がメスである「全メス種苗」の生産が必要だとし、今後は養殖用稚魚としての全メス種苗生産の実現を目指すとした。

また今回ふ化したシベリアチョウザメはすべてオスのため、このままではキャビア生産に利用できないものの、研究チームがこれまでに開発した大豆イソフラボンを用いるメス化技術や、新たに独自製造した酵素処理大豆粕を含む配合飼料によってオスのコチョウザメの生殖腺を卵巣に誘導する研究成果を応用すれば、全オスのシベリアチョウザメからのキャビア生産も期待できるとしている。