東京大学(東大)は8月20日、木材パルプを化学的および機械的に変性させ、製紙産業で確立されている抄紙(しょうし:紙をすくこと)プロセスに適用した結果、高強度で難燃性、低空隙率で透明な紙を高効率に製造することに成功したと発表した。

  • 化学的・機械的に変性した木材パルプからなる透明紙

    化学的・機械的に変性した木材パルプからなる透明紙(出所:東大Webサイト)

同成果は、東大大学院 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻の張昊果大学院生、大阪大学 産業科学研究所の石岡瞬助教、海洋研究開発機構 海洋機能利用部門の磯部紀之副主任研究員、同・地球環境部門 の木元克典グループリーダー代理/主任研究員、同・超先鋭研究開発部門の岡田賢研究員、第一工業製薬 京都中央研究所 コーポレート研究部の後居洋介氏、東大大学院 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻の藤澤秀次准教授、同・齋藤継之教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、触媒作用や環境科学などの化学工学を扱う学術誌「Chemical Engineering Journal」に掲載された。

建築や家電に利用可能な強度を持つ透明紙を実現

これまでのプラスチックの大量生産・消費は、その難分解性ゆえにマイクロプラスチック問題など、深刻な環境問題を引き起こしている。こうした状況を受け、近年はバイオマスを活用した材料開発が強く求められている。木材パルプを原料とする紙は、サステナブルな素材であるものの、従来の紙は空隙率が高く(40~60%)、不透明で強度が低く、また燃えやすいため、プラスチックの代替となる用途は限られていた。そこで研究チームは今回、木材パルプの繊維形状を保ちつつ、低空隙率の紙の製造を試みたという。

今回の研究では、すでに実用化されている化学反応と機械処理の組み合わせに工夫が凝らされている。化学反応には、植物のセルロース繊維をナノメートルサイズにまで細かくほぐすための化学的な前処理技術である「TEMPO酸化」が選ばれた。これは、セルロースナノファイバー(CNF)の生産でも利用されている技術だ。一方、機械処理は、叩いてほぐす古典的な手法である「叩解(こうかい)」プロセスが採用された。

まずTEMPO酸化により、パルプ繊維にカルボキシ基が導入され、水に膨潤しやすく改質された。これにより、続く叩解によってパルプの細胞壁構造が緩み、繊維同士が高密度に絡み合える状態が作り出された。この連続した工程により、紙の空隙率を17%にまで低減でき、透明化が実現されたのである。

パルプ由来の透明材料として、CNFを用いた透明シートも存在する。しかしその製造には、高コストな高圧解砕(かいさい)と、数時間の減圧ろ過の2工程が不可欠となる。対して今回開発された透明紙は、低コストな叩解と、数分間の自然ろ過のみで製造できる点が特長だ。この透明紙は、全光線透過率が約90%、透明素材の曇り度合いを表すヘイズ値が約30%で、CNFの透明シートに匹敵する透明性を有していることが判明した。

さらに、引張強度は約270メガパスカル(MPa)、素材の変形のしにくさや硬さを示すヤング率が約22ギガパスカル(GPa)に達し、紙としての軽量性を考慮すると、アルミニウム合金やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)にも匹敵する、優れた力学特性が確認された。

  • 今回開発された透明紙と他材料の強度比較

    今回開発された透明紙と他材料の強度比較(出所:東大Webサイト)

それらに加えこの透明紙は、着火後わずか数秒で自然鎮火する「自己消火性」を有することも判明。木材パルプからなる透明なシート材料として、この機能を発現した事例は世界初とした。

  • 透明紙の自己消火性

    透明紙(下段)の自己消火性(出所:東大Webサイト)

紙材料のもう1つの弱点である耐水性の低さも、既存の抄紙技術の応用によって解決された。今回の研究では、製紙産業で汎用されているアルミニウムイオン(Al3+)と水溶性ポリマー(ポリアミドエピクロロヒドリン)を数%、変性パルプに添加。これによりパルプの細胞壁構造を水中で固め、湿潤時でも約32MPaの強度を保持させることに成功した。この強度は、ポリプロピレンやポリエチレンなどのプラスチックと同等の値だという。なお、この耐水化の処理後も、紙の透明性や自己消火性は損なわれないとした。

研究チームは、今回開発された高強度で自己消火する透明紙は、既存の抄紙設備で量産が可能で、製造時間とエネルギー量を抑えるサステナブルな材料だとする。そして従来の紙が担ってきた包装分野にとどまらず、建造物や家屋などの構造部材としても、実用化が大いに期待できるとしている。