生成AI技術を活用したAIエージェントの社会実装を推進し、顧客体験(CX)の変革を目指すAICX(AI Customer Experience)協会は、7月9日~11日の3日間にわたり、「AI Agent Day 2025 summer」をオンラインで開催し、さまざまなAI活用事例を紹介した。
7月9日には、ライオン 執行役員 全社デジタル戦略担当 中林紀彦氏が、「AIエージェントでオペレーショナル・エクセレンスを加速 -社内生成AIにエージェント機能を実装ビジネス部門から100名の開発者を育成-」と題して、「LION AI Chat」やノーコード開発ツールによる生成AIの民主化について説明した。
生成AI活用は活用促進と社内データ連携の2軸
ライオンにおける生成AIの活用は、活用促進と社内データ連携という2つの軸で推進している。
活用促進に向けては、ChatGPTに代表されるようなチャットツールを社内向けに開発して展開することで裾野を広げている。チャットツールとして「LION AI Chat」を2023年5月、国内従業員約5,000人に公開。これはOpenAI Serviceを活用した対話型生成AIで、生成AIが世に出たタイミングから社内で内製開発を進めた。外部から閲覧されないセキュアな環境を社内クラウドの中に作り、その中でチャットツールを展開することを進めているという。
「LION AI Chat」の言語モデルはGpt-4o、Claude 3.5 Sonnet、Gemini 1.5 Proという3つのモデルを使い分けている。ツールを展開するだけでなく、ワークショップの活動を通じて生まれたアイデアをチャットツールにフィードバックしながら、機能追加を行っている。
また、Microsoft Teamsの中にコミュニティを作り、なじみのない人にも触れ合う機会を提供することで、ツールの浸透を進めている。
現在「LION AI Chat」の週間利用は、平均2万回を突破。ただ、使いこなしている人と、触り始めたばかりの人がおり、チャットツールを広く全社員に展開する活動が生成AI展開の注力ポイントだという。
社内データ連携としては、昨年から研究開発部門の知識伝承を行っている。
「自然言語で問い合わせができて便利なので、社内ドキュメントの検索等に利用したいというニーズが高まってきています。社内の情報が散らばっていたり、人の頭の中にしかない情報もあったりするので、そのデジタル化も進めつつ、生成AIを使ってRAGの仕組みを活用して検索できるようなソリューションを展開し、1件あたり5~10分だった検索時間を2分以下にしています」(中林氏)
(注)RAG:Retrieval Augmented Generationの略。社内の信頼できるドキュメントを使って、生成AIに回答させる仕組み。
また同社では、機密性が高いデータの場合は透かしを入れたり、ユーザーのセッションIDを付与したりしながら、誰が、いつ見たのかといった証跡を残し、セキュアに使う環境を提供している。
開発の環境をユーザーに展開しながら生成AIの民主化を図る
そして今年、生成AIの民主化を図る取り組みを加速させている。具体例の一つが、エンドユーザーによるAIエージェント開発の促進だ。
「研究や生産部門、社内のバックオフィス業務にドキュメントがあります。それをもとにいろいろな業務が行われており、問い合わせもあります。ただ、これらすべてをわれわれのデジタル戦略部門でカバーするのは難しいので、広く開発環境をユーザーに展開しながら民主化を進めようとしています」(中林氏)
そのため、同社ではDify(ディフィ)というノーコードツールを展開し、RAGの仕組みやワークフローをユーザー自身がブラウザベースでコーディングすることなく開発できるようにしている。これにより、自分の業務に合わせた特化型アシスタントを作って活用していくことを積極的に進めている。
同ツールを用いて、議事録生成アプリケーションの開発が行われた。
「ZoomやTeamsにも議事録機能が付いていますが、精度がイマイチだったり、機能が限定されていたりするので、Difyを使ったワークフローでアプリケーション化して使っています。これは要件に合わせたモデルの使い分けができるので、文字起こしはReazonSpeechを使ったり、議事録作成はClaude 3.5 Sonnetを使ったりという形で、それぞれ特化したモデルを使い分けて、質の高いアプリケーションを展開することを進めています」(中林氏)
AIエージェントを業務に実装できるスキルの育成にもチャレンジ
今年の4月からは、Difyを使った開発を100人のビジネス部門のユーザーに展開することにチャレンジしている。2カ月で、40名強のビジネスユーザーにDifyの使い方をハンズオン形式で学んでもらう集中教育プログラムを提供している。
このプログラムは、AIエージェントを業務に実装できる総合スキル(課題発見・業務設計・エージェント開発・効果測定)の習得を目指すもので、「業務棚卸し(生成AIに適するタスクを選定)」、「業務フロー再設計(任せられる工程の明確化)」、「効果試算(ビフォー/アフターでROIを見積もり)」、「Dify開発(ノーコードでエージェント実装)」、「検証・改善(実業務でテストしチューニング)」というステップで進めている。
同社は、2025年度内に100名の開発者を輩出し、各部門固有の30体以上のAIエージェントを本格運用することを目標としている。そして、2026年度以降は、ここで得た開発ノウハウを各部門やライオングループ各社で共有し、生産性向上・品質改善・働き方改革を推進し、従業員一人一人がAIと共創し価値を生み出す「生成AIの民主化」を実現して、継続的な業務革新と企業成長を目指すという。
「AIエージェントがどんどんできているので、個人のAIエージェント、部門のAIエージェントを増やしながらDX部門が束ね、オーケストレーションする機能も展開したいと考えています。AIエージェントを複数活用して日用品メーカーとしての生成AI活用のスタンダードを作り上げていきたいです」(中林氏)
同社では、現場でDXが展開できる人材を育成することに力を入れているが、スキルの可視化も行っている。昨年の年末には、社員3,000人のスキルをチェックして、どのぐらいにレベルになるのかという5角形系のレーダーチャート作った。これにより、自分の現在の立ち位置と目指すべきスキルを定義して、そのキャップを埋めるための育成コンテンツを展開している。
さらには、人事制度の変革も進めている。具体的には、ジョブ型とメンバーシップ型のミックスを活用しながら、専門的なスキルを持った人材の処遇を良くすることや、ミドルマネジメントの承認要件にデータサイエンス、確率、統計、生成AIの活用知識といったものを加えることを構想中だという。






