横浜国立大学は、積層型圧電アクチュエータを用いた高速振動により、装置と床の間に空気膜「スクイーズ膜」を生成して浮遊することで、従来のように移動手段として車輪やクローラなどを必要としない無線式装置を開発。水平移動で秒速1.4m、傾斜面上で秒速3m、回転速度毎分90回転の摩擦レスな移動を実現したと、7月30日に発表した。
-

机などの平坦面に設置した小型浮揚装置。搭載した回路の電源を入れると、圧電素子の高周波振動によりスクイーズ膜が生成され、装置が浮揚する。固体摩擦がないため、水平に力を加えるだけで秒速1.4m以上の速度で滑走する
(出所:横国大ニュースリリースPDF)
同成果は、横国大大学院 工学研究院の春原優太大学院生(研究当時)、同・渕脇大海准教授らの研究チームによるもの。詳細は、学習する人工システムを扱う学術誌「Advanced Intelligent Systems」に掲載された。
近年、工場や倉庫において、設定されたルートを移動する無人搬送車「AGV」(Automated Guided Vehicle)や、地図情報をもとに自律的に動くより高機能な「AMR」(Autonomous Mobile Robot)などが活躍している。多くの従業員が働く工場では、安全面から最高速度を時速6km程度に抑えるものが多い。しかし、従業員と完全に隔離された専用通路などを利用できれば、より高速化も可能となる。
しかし、こうした搬送ロボットの多くは車輪で走行するため、車輪と床面との間に生じる固体摩擦の影響を大きく受ける。加速と減速をすべて車輪が担うため、グリップ力の低い小径車輪で高速走行すると、空転などが発生しやすくなり、制御不能に陥るリスクがあった。その結果、安全性の面から高速化が難しいという課題が存在していた。
そこで研究チームは今回、この課題を克服し、より迅速に搬送できるロボットを開発するため、移動手段としての車輪の利用からの脱却を図り、圧電アクチュエータによる高周波振動でスクイーズ膜を生成して浮遊する装置の開発を試みることにした。
今回の研究では、積層型圧電アクチュエータが用いられた。複数の薄い圧電素子を積み重ねた構造で、電圧をかけるとわずかに伸縮し、逆に力を加えると電圧を発生する電子部品である。そしてスクイーズ膜とは、高周波振動することにより発生する、2つの物体間に生じる空気膜のことだ。
今回開発された装置は机上レベルの小型ながら、スクイーズ膜で固体摩擦を大幅に低減。無線接続とすることで、安定した浮揚高さと、高速かつ柔軟な搬送を期待できる性能を実現できたとした。
今回の装置は、一般的に使用されるホワイトボードや机など、さまざまな平坦な面上で摩擦のない移動を維持できる。水平移動の速度は時速1.4m、傾斜面上では時速3.0mという摩擦レスな滑走が実現された。さらに、毎分90回転の回転速度を達成し、回転運動と直線運動の組み合わせることで、姿勢を柔軟に調整しながらの高速搬送が期待できるとした。また、自重の0.4倍までの荷重搬送が可能であることも確認された。
今回開発された技術は、今後、さらなる改良が重要だという。具体的には、浮揚効率の向上や電力供給の最適化、凹凸のある面や動的荷重下での浮揚高さの安定性確保による可搬能力の向上などだ。
研究チームは今後、複数の浮揚装置を統合し、推進機構を備えた搬送ロボットの開発を計画。接触レスかつ高速ハンドリングという利点を活かし、化学試料の搬送やバイオメディカル用途での遠心処理などへの応用が期待されるとしている。