日立製作所は7月17日、同社グループ最大規模の年次イベント「Hitachi Social Innovation Forum 2025 JAPAN, OSAKA」(HSIF2025)を開催。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)が開催中の大阪を舞台に、同社執行役社長兼CEOの徳永俊昭氏による基調講演をはじめ、さまざまなセッションや展示などを通じて、日立として目指す未来の社会やその実現に向けた道筋を提示した。

  • 「HSIF2025」ロゴ

    「Hitachi Social Innovation Forum 2025 JAPAN, OSAKA」が開催された(出所:日立製作所)

大阪初開催のHSIF - 徳永CEOが掲げたのは“調和した社会”

日立グループとして最大規模の年次イベントであるHSIFは、顧客やパートナーとの協創に向けた“きっかけ作りの場”として開催。通算27回目となる今回は、同社もKDDIとの共同展示「未来の都市」を行っている「大阪・関西万博」でにぎわう大阪での初開催であり、数多くのセッションや“One Hitachi”での価値創出を紹介する展示など、さまざまなプログラムが展開された。

2025年4月より日立の代表執行役 執行役社長兼CEOに就任した徳永俊昭氏による基調講演では、同社が未来の社会の理想として描く“ハーモナイズドソサエティ”を主題に据え、日立のこれまで、そしてこれからを語った。

  • 基調講演の様子

    徳永俊昭執行役社長兼CEOによる基調講演の様子(提供:日立製作所)

“Virtue is Harmony.”(美徳とは調和である)という数学者・ピタゴラスが残した一文から始まった講演。創業の地である日立市の出身である徳永氏は、当時から紡がれてきた「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念を今も貫き、プロダクト・OT・ITの幅広い分野でより良い未来に貢献する社会イノベーション事業に注力しているとする。

そして事業活動を通じて日立が実現を目指すのが、環境・幸福・経済成長の3項が調和した、ハーモナイズドソサエティ。生成AIに関連する社会情勢の変化に象徴されるように、企業としての成長を目指した技術開発と持続可能な社会を実現するための環境への取り組みがトレードオフの関係にあるのではなく、すべてが調和し、「環境配慮や幸福度などの“未財務的価値”の追求が、企業の成長である“財務的価値”につながることを示していくための挑戦を続けていく」と、徳永氏は語る。

  • 日立が目指す「調和する社会」

    日立が目指すのは、環境・幸福・経済成長が「調和する社会」(提供:日立製作所)

豊かな調和を実現するための3つのカギとは?

そして、そんなハーモナイズドソサエティの実現に向けた日立のカギとしては、「進化したLumada」「『真の』One Hitachi」「ソサエティとの協創」を列挙した。

  • ハーモナイズドソサエティ実現への3つのカギ

    ハーモナイズドソサエティを実現するための日立の3つのカギ(提供:日立製作所)

進化の続くLumadaが今強みとしているのが、ドメインナレッジとAIの融合。現場に蓄積されてきたものの、属人的で活用しきれていなかった“暗黙知”やノウハウを、AI学習や日立の分析技術などにより、活用の可能性を広げている。2024年9月に発表されたデジタルアセットマネジメントソリューション「HMAX(Hyper Mobility Asset Expert)」は、まさにその代表例。鉄道業界向けにローンチされた同ソリューションは大きな成果を残し続けており、今やエネルギーや産業などグローバルの幅広い領域で、それぞれのドメインナレッジを活用した現場支援を行っているとする。

また徳永氏は、プロダクト・OT・ITの全領域で事業を展開している日立ならではの強みを活かし、“真のOne Hitachi”としてソリューションを提供していくと語る。10年を超えて取り組まれてきた構造改革により、グループ全体を見渡せばさまざまな領域でビジネスが展開されていることから、今後は各ドメインの知見を組み合わせ、「日立グループにしか解決できないような複雑な課題へのソリューションを提供できる」と語る徳永氏。「グループとしての本当の力を発揮するのはこれから」とし、さらなる成長の可能性を示した。

ただし、日立のような企業や官公庁などがどれだけ策を講じようと、その先の社会を形作るのはそこで暮らす人々。ただ改善に向けた施策を実行するだけでは十分ではなく、人々の要望を原動力とすることで大きなエネルギーが生まれることから、同社としてもソサエティとの協創を重要視しているという。創業の地である日立市では人口減少などさまざまな社会課題が顕在化していることから、同社は日立市と共同で、持続可能な社会を実現して地方創生の効果的なモデルを探索する新プロジェクトを開始。徳永氏はこれを「グループとして115年にわたり続けてきた課題解決の“集大成”」とし、「第二の創業」として取り組んでいくとした。

そして徳永氏は、「時代も社会も変わり続けるからこそ、立ち止まることなく、“What's next?”と問い続ける楽しさを、さまざまな人と共に世界中へと届けていきたい」と講演を締めくくった。

  • 徳永氏が提示した“What's next?”

    徳永氏による講演を締めくくったのは“What's next?”の一言(提供:日立製作所)

講演のアーカイブや限定コンテンツは8月29日まで公開

またHSIFの中では、開催中の大阪・関西万博にまつわる有識者のセッションや、「共感と対話」をテーマとしたディスカッション、未来の都市やグリーンエネルギーなどをテーマとした展示ブースが展開された。

さらにイベント後の7月24日から8月29日までの期間は、会場で行われたセッションのアーカイブに加え、オンライン限定のスペシャルコンテンツが公開される「HSIF2025 JAPAN Digital Week」も開催。大阪・関西万博で催事企画プロデューサーを務める小橋賢児氏やテレビプロデューサーの佐久間宜行氏らが、万博での日立とKDDIによる共同パビリオンにちなんだ“自分の未来の作り方”をテーマに議論を繰り広げるなど、バラエティ豊かなコンテンツが公開されている。

社会に対してさまざまな角度から事業を展開し、その発展に貢献してきた日立。しかし今や、ただ“成長”だけに向かって突き進むのではなく、人々や地球と共に“豊かな未来”へと歩みを進めるための取り組みが必要とされる。新たなリーダーの下で、急速な変化が続く現代社会をどのように支えていくのか。来年のHSIFでどのような“next”が提示されるのか、注目したい。