従来のn型導電性の付与手法とその課題
Patentixは7月23日、次世代のパワー半導体材料として期待されるルチル型二酸化ゲルマニウム(r-GeO2)に、イオン注入プロセスによってn型の導電性を付与すること成功したことを発表した。
r-GeO2は、SiCやGaNと比べてより大きなバンドギャップ(4.68eV)を有しており、かつp型・n型の両伝導が可能と理論的に予想されていることから次世代パワー半導体として商用化が期待されている材料の1つとなっている。同社では、これまでの研究開発にて独自開発したr-GeO2結晶薄膜の作製に適した「Phantom SVD(ファントム局所的気相成長)法」を用いて成膜中にドナー不純物(アンチモン:Sb)を膜中に添加することで、電子密度にして約1020cm-3のr-GeO2のn型導電性の制御に成功したことを報告してきたほか、成膜中のドナー不純物導入によるn型制御技術を応用する形でショットキーバリアダイオード(SBD)の試作にも成功、ダイオード動作を確認したことも報告してきた。
しかし、パワーMOSFETなどの複雑な構造を有するパワーデバイスの製造には、基板表面のドナー不純物濃度を精密に作り分ける技術が求められるものの、従来の成膜中のドナー不純物添加によるn型制御技術では、そうした精度を満たすことができなかったという。
イオン注入法によるn型導電性の付与に成功
イオン注入法は、SiやSiCなどの既存の半導体製造でも広く用いられてきた技術で、この技術を用いたr-GeO2結晶への不純物ドーピングが実現できれば、より高精度なn型の導電性付与ができることが期待されることから、今回、同社はPhantom SVD法でTiO2基板上に作製したアンドープのr-GeO2薄膜に対し、Sbのイオン注入を実施することに挑んだという。
その結果、イオン注入プロセスの前後でr-GeO2薄膜の膜厚に有意な変化は認められなかったほか、イオン注入前後のX線回折測定結果から、ルチル構造が保持されている事も確認したとする一方、イオン注入によるドナー不純物のドーピングを実施した領域では、シート抵抗が低下したことが確認されたとする。これはイオン注入プロセスで導入されたドナー不純物が活性化したことで、絶縁性のr-GeO2結晶膜にn型の導電性を付与することに成功したものと考えられると同社では説明している。
実際にイオン注入を実施した領域に電極を形成し、容量電圧(C-V)測定を実施したところ、イオン注入を実施した領域がn型の導電性を示すことが確かめられたとする。また、測定されたC-V特性からドナー不純物密度を解析したところ、r-GeO2膜中のドナー不純物が成膜時に導入されたのではなく、イオン注入プロセスによって膜の表面近傍に導入されたものであることが示されたとする。
評価の詳細は応物の学術講演会で報告予定
ただし、今回のイオン注入プロセスによって導入されたドナー不純物がSbかどうかについては検証が必要ともしており、現在、電流電圧(I-V)特性などの測定のほか、イオン注入プロセスによってr-GeO2膜中にSbがどの程度導入されたかについて二次イオン質量分析法(SIMS)を用いた不純物の分析を進めている段階にあり、これらの評価結果の詳細については、9月7日~10日かけて開催される「第86回 応用物理学会(応物) 秋季学術講演会」において報告する予定としている。
なお同社では、今回の成果を踏まえ、今後のr-GeO2パワーデバイスの実用化に向けて、イオン注入プロセスを用いた不純物ドーピングの条件最適化、およびイオン注入プロセスを用いたr-GeO2のパワーデバイスの試作を推進していくとしている。