日本IBMは7月17日、電子カルテ・システム「IBM Clinical Information System(CIS)」の拡張機能として、生成AIや音声認識AIを活用して病院における記録作成や医療文書作成など非診療業務を自動化し、医療従事者の業務負荷の削減を目指す「病院業務支援AIソリューション」を開発したと発表し、第1弾の機能として「退院サマリーのドラフト自動作成機能」の提供を開始した。

医療現場の課題

昨今、医療現場では人手不足が深刻な問題となっており、限られた医療スタッフで質の高い医療サービスを提供し続けるために、業務の効率化と自動化が不可欠な状況となっているという。また、2024年4月に施行された「医師の働き方改革」により、医療機関では時間外労働の削減も喫緊の課題となっている。特に記録作成や文書業務などの非診療行為が医師や看護師の大きな負担となっており、負荷削減が期待されているとのこと。

このような課題の解決に向けて、同社は全国61の病院施設で導入・稼働(2025年7月現在)しているCISの拡張機能として、CISから取得した患者のカルテなどの情報をもとに、生成AIや音声認識AIを活用して退院サマリーなどの医療文書のドラフトを自動生成し、医療従事者の非診断業務を支援するソリューションを開発。

新ソリューションの概要

新ソリューションは、医療情報交換のための国際標準規格であるHL7 FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)を介して、CISから取得した患者のカルテなどの情報をもとに、退院サマリーなどの医療文書のドラフトを自動生成する。

  • 退院サマリーのドラフト

    退院サマリーのドラフト

作成された文書は、CISクライアントを通じて直接CISに取り込むことができ、CISへの取込には医療従事者による確認が必要な設計となっており、医師や看護師が適切に確認・修正された内容のみがCISに保存される。

また、IBM watsonxのほか、Azure OpenAI、Amazon Bedrockといった生成AIプラットフォーム上で稼働することを可能としており、医療機関それぞれの要件や予算、セキュリティポリシーに応じて最適な生成AIプラットフォームを選択することができる。

さらに、クラウド環境だけでなく、オンプレミス環境での稼働も可能であり、患者情報の機密性をより重視する医療機関や、独自のセキュリティポリシーを持つ医療機関のニーズにも対応している。

第1弾の機能となる生成AIを活用した退院サマリーのドラフト自動作成機能は、医療機関と協力して実証を行い、医療従事者の記録業務時間の短縮に寄与することを確認。また、音声認識AIと生成AIを活用し、医療カンファレンスやインフォームドコンセント、外来診療記録の音声からそれぞれのサマリーのドラフトを作成する機能や、生成AIを活用した看護記録のドラフト作成機能の開発を進めており、医療機関における検証後、順次提供を開始する予定だ。

  • 電子カルテに反映された退院サマリー

    電子カルテに反映された退院サマリー

同社は、新ソリューションを通じて病院全体へのAI適用を推進し、医療従事者の業務負荷削減を目指すろともに、将来的には病院独自のAI構築も視野に入れ、AIによる病院全体の変革を支援していく考えだ。