近畿大学(近大)水産研究所と三栄源エフ・エフ・アイは7月10日、ニホンウナギ(以下、ウナギ)の仔魚用飼料の共同開発において、鶏卵黄を含まないオリジナル飼料を用いて、2025年5月までに100尾以上のシラスウナギ(稚魚)の生産に成功したことを発表した。
ウナギ仔魚用の飼料にはさまざまな課題が
2025年は7月19日と31日の2回やってくる“土用の丑の日”。その風物詩であり、日本の食文化にもはや欠くことのできないウナギは、国内消費量のうち99%以上を養殖に依存しているのが現状だ。近年では、一般的な養殖の起点となるシラスウナギの漁獲量が減少傾向にあるため、ウナギ価格の高騰にもつながっており(2025年は比較的お得となる見込み)、ウナギ養殖に必要な種苗の確保が課題とされている。
ウナギの“完全養殖”に向けた研究は古くから行われており、1973年に北海道大学がウナギの人工ふ化に成功したものの、仔魚の飼育に適した飼料の開発が難しく、20年以上にわたってふ化した仔魚を成長させることができなかった。その後、水産総合研究センター(現 水産研究・教育機構)がサメ卵やオキアミを主原料とするスラリー状(濃厚懸濁液状)飼料を2002年に開発し、シラスウナギまでの飼育に成功すると、2017年には原料の品質安定性および持続的な供給性の観点から、鶏卵黄・乳タンパク質・酵素処理魚粉を主原料とするスラリー状飼料を開発。現在でも広く用いられるようになったとする。
しかし長年の開発で実現された同飼料でも、以前としてシラスウナギまでの生残率は低く、成長速度も天然に比べて遅い傾向が見られたといい、さらなる改善が求められていた。また主原料のひとつである鶏卵黄の供給が不安定になりがちであり、価格高騰が続いている点も懸念されるとともに、給餌の際に重要となる飼料の“粘度”が水分の添加量によって調整されるため、栄養素の選択や飼料中の濃度調節が難しい点も課題となっていた。
従来ウナギ仔魚の飼育における飼料に用いられてきたサメ卵や鶏卵黄は、一定量のタンパク質と脂質を含みつつ、それらが水中でも分離・溶出せずスラリー状を保持するために、重要な役割を果たしていた。そこで今回研究チームは、これらを新たな原料に置き換え、動物性原料を含まない飼料の開発に取り組んだとする。
動物性原料を含まない新飼料を開発 - 成長速度も向上
そして研究チームは、従来飼料から鶏卵黄を除き、増粘剤を利用することで、仔魚の成長ステージに応じた年度に調整可能なオリジナル飼料の開発に成功。この新飼料を用いてウナギ仔魚を長期飼育したところ、2024年5月にはシラスウナギ獲得に成功したという。その後、さらに改良を加えたオリジナル飼料による最新の飼育試験では、149日齢からシラスウナギへの変態を開始する仔魚が発見され、282日齢時点では鶏卵黄を使用した飼料よりも多くのウナギが得られたとした。
ウナギの完全養殖は、受精卵を得てからシラスウナギに成長させるまでの「仔魚期」の飼育が最も難しいとされており、その期間に与えられた飼料が生残率・成長速度・シラスウナギへの変態までに要する日数を大きく左右する。一般的なウナギ養殖に利用されるシラスウナギを得るまでには、長い期間や多大な労力・コストを要しており、これが人口種苗生産のコスト高騰要因となるため、実用化には至っていないとのこと。そのため研究チームは今後、近大水産研究所が培ってきた人口種苗生産技術と、三栄源エフ・エフ・アイの飼料物性制御技術を融合することで、より安定した高い生残率でのウナギ仔魚飼育を可能にするとともに、より短期間でのシラスウナギ取得を実現する飼料の開発に取り組むとしている。