サイボウズは5月13日、ノーコード業務アプリ構築ツール「kintone」のユーザーイベント「kintone hive 2025 sendai」を仙台PIT(宮城県仙台市)で開催した。本稿では、元保育士の社員がkintoneを活用しバックオフィスの業務効率化を進めた、秋田県の建設業の事例について紹介する。
元保育士がkintoneで業務効率化に挑戦
瀧神巧業は1924年に創業(1950年設立)した、秋田県仙北市にある建設業者。社員数は56人(2025年4月時点)で、水門事業、建設事業、ドローン事業を柱としている。同社は、バックオフィス業務において重複作業が多く残業時間も多かったため、DX(デジタルトランスフォーメーション)に着手できずにいたという。
そうした中で、山形県米沢市にある建設会社の後藤組におけるkintoneの活用事例を知ったことをきっかけに、瀧神巧業でもkintoneの活用を開始した。同サービスの導入を中心となり進めたDX推進部 係長の高橋周平氏は、当時入社4年目。前職は保育士であり、ITや建設業は未経験だったそうだ。
高橋氏らはkintone活用の最初の一歩として、全社員に使ってもらうために日報ツールをMicrosoft Teamsからkintoneに切り替えた。さらに、Power Automateを使ってkintoneの日報をTeamsでも閲覧できるようにした。
この取り組みと並行して、「kintone相談室」を設立し、社員からの要望を募集した。すると「せっかく稼いだお金を何に使っているんだ」「これを導入して何か意味があるのか」「余計なことをするな」と、厳しい意見が寄せられたという。
「厳しい意見の原因は私にありました。建設業で働くのが初めてだったので、現場の課題を分かっていなかったのです」と高橋氏は振り返った。
営業部の業務を8割削減した仕組みとは?
そこで同氏は、社内の課題をヒアリングすることに。その結果、営業部は「書類の5重入力が大変」、総務課は「1人の担当者でも通勤車管理台帳を管理したい」、水門工事部は「実行予算書をもっと楽にしたい」と、それぞれの現場の課題や要望が浮き彫りになった。続いて、これらの課題を解決する業務アプリの開発を開始した。
営業部では物件管理業務において、見積もりの提出から社内決裁が完了するまで、契約日や発注者といった情報を5回も入力する必要があった。これでは社内処理に時間がかかるうえ、通常業務の外回りもあるため残業時間が増加していた。
営業部向けに高橋氏が作成したアプリは、物件管理一覧、受注工事、受注伝票の3つ。物件管理アプリでは、見積もりを提出する時点でマスタデータとなる情報を登録する。物件の受注が決まると、受注工事アプリにデータが転記され、受注番号が自動で採番される。
さらに、これまで別途作成していた設計依頼書および製作依頼書を、「レポトン」プラグインによってボタン一つで作成できる仕組みを整えた。最後に、受注伝票アプリで社内決裁が完了する。
その結果、1年間で作業に費やした時間を、101.3時間から20.2時間へと81.1時間(80.1%)の削減に成功した。費用についても、16万4106円から3万2832円へと、13万1274円(80.0%)削減された。
続いて総務課では、社員の通勤車両を管理するために、保険や車検、免許証などの情報を控えていた。情報更新のために各社員に対し個別に連絡を取っていたことから、1人しかいない総務担当者が苦労していたそうだ。
そこで高橋氏は、kintoneで総務課通勤車台帳アプリを作成。更新予定日が近付くと社員に自動で通知が届くように設定した。その結果、社員56人の管理に要する人件費が、年間2万3355円から4368円と、1万8987円(81.2%)削減された。
水門工事部の工事実行予算書作成業務では、従来は独自のExcelで管理していたため構成がバラバラで、計算を確認する上司の負荷や、新人社員の教育負荷が課題となっていた。ここで使用するデータは、営業部の受注工事アプリと連携したことで、作業効率が向上した。
内訳を入力するだけで自動集計する仕組みを構築し、電卓が不要となった。さらには、労働保険料の算出なども自動化しており、kintone内ですべての計算が完了する。これにより、同一の計算式に基づいたすべての工事の金額情報がkintoneに蓄積できるようになり、比較や分析が容易になった。
県の工事1物件に要する工事実行予算書の作成時間と人件費は、8時間(1万3840円)から4時間(6920円)と50%削減された。
会社全体の残業時間を1500時間削減
上記の成果に基づき、瀧神巧業では6カ年のDX計画を策定した。1~2年目ではkintone活用により紙資料からのデジタル化を図るとともに、社内にポータルサイトを開設。3~4年目は二重入力の廃止と、顧客サービスの向上を目指す。5~6年目には自社以外へもkintoneを活用した業務管理を展開する予定だ。
最近では社内のkintone需要が高まり、毎月セミナーを開催しているという。基本的な使い方は動画として発信している。こうした取り組みが実を結び始めた。最近では社員が独自に業務を効率化するアプリを開発し、活用を開始している。
その一例が、営業部接触履歴アプリ。以前の営業部では顧客情報を週1の営業会議で共有するのみであり、その他は担当者個人に聞くか日報を読むことでしか把握できなかった。そのため、外出時の顧客情報確認や担当者変更時の引継ぎが困難となっていた。
営業部接触履歴アプリを作成したことで、訪問日時や訪問相手、商談内容がkintone内に蓄積されるようになった。さらに、スマートフォンからも閲覧できるので、外出先でも顧客情報を確認可能だ。
加えて、名刺作成アプリも活用されているという。以前は名刺が必要になった社員が経理担当者に依頼し、それから印刷会社に発注していたため、注文してから手元に届くまでに約1週間かかっていた。
この課題に対し、kintoneで名刺作成アプリを開発し、「レポトン」プラグインで様式を管理できるようにした。必要に応じて社員が自身の名刺を印刷できるようになり、15分で名刺印刷が完了するとのことだ。
印刷会社に名刺を注文していた時期と比較して、kintone活用により料金は18万9000円から1万8360円へと17万640円(90%)削減。以前は1週間かかっていた待ち時間が15分となり、実に99.4%の削減効果だ。
「瀧神巧業が生産性向上を実現できたのは、kintoneが元保育士でも課題解決できるツールだったから。会社全体の残業時間は昨年と比べて1500時間削減でき、最も残業が多い工事部に着目すると43%削減できた」と高橋氏は紹介していた。