サイボウズはこのほど、同社が提供する「kintone(キントーン)」のユーザーイベント「kintone hive(キントーンハイブ)」をZepp名古屋で開催した。kintone hiveは、kintoneの活用アイデアをユーザー同士で共有するライブイベントで、企業や団体が活用ノウハウをプレゼン形式で発表する場だ。

2024年の「kintone hive」は広島、札幌、福岡、大阪、名古屋、東京の6カ所で開催された。本稿では、名古屋会場に集まった企業3社のkintone活用事例を紹介する。なお、地区代表に選ばれた桜和設備の事例はこちらの記事で紹介している。

  • 「kintone hive nagoya」が6月25日に開催された

    「kintone hive nagoya」が6月25日に開催された

年間48日の工数削減に成功 ‐ フジ自動車工業

名古屋市昭和区に本社を置き、フォークリフトの整備業務などを手掛けるフジ自動車工業。創業68年目の会社で、140人の社員の平均年齢は52歳だ。そんな同社は「紙とExcelを駆使した職人しかできないこと」を誰でもできるようにするために、kintoneの導入に踏み切った。

  • フジ自動車工業 大久保利春さん

    フジ自動車工業 大久保利春さん

同社のフォークリフト整備における主な事務作業は、膨大なデータを持つExcelを基に点検・修理の見積書を作成したうえで、点検・修理の予約を行う。また、エラーが多発する30年以上前の古いシステムで請求書などを管理していたという。

また、整備士が点検・修理の時に使用し、毎月300枚ほど記入する「入出庫カード」はすべて手書きだった。プレゼンを行った大久保利春さんは「作業予定に変更があるたびに加筆するため、(入出庫カードは)ぐちゃぐちゃになることが多かった」と振り返った。また、記入忘れや紛失による売上げ漏れも少なくなったという。

  • 毎月300枚ほど記入する「入出庫カード」

    毎月300枚ほど記入する「入出庫カード」

作業予定の管理も大変だった。工場の作業スケジュールや台車のスケジュール、巡回整備士のスケジュールは、それぞれ仕様の異なるExcelデータで管理されていた状況で、「同じ内容を何度も何度も入力していた。1件変更するのに30分以上時間がかかりミスも多発していた」と大久保さんは苦笑いした。

  • 各種スケジュールはExcelファイルで管理していた

    各種スケジュールはExcelファイルで管理していた

一番大きな問題だったのは「代車が行方不明問題」だった。毎日のようにある代車の棚卸し業務の際、ドライバーが指定された工場に行くと、あるはずの代車がないという事件が多発していた。代車の所在状況がうまく管理されていなったからだ。

  • 代車の所在も管理できていなかった

    代車の所在も管理できていなかった

こうしたアナログな状況を打破するため、大久保さんらはkintoneを活用してアプリを開発した。kintoneの連携機能である「AsReader」を使って、代車が置いてある場所を管理できるようにしたのだ。

具体的には、ドライバーがバーコードをスマートフォンで読み込めば、代車の所在地がカレンダー上に表示されるようになり、ドライバーが作業する工場や使用する代車、作業日時を入力すれば自動的にカレンダーに反映されるようになった。

  • kintoneの連携機能である「AsReader」を活用

    kintoneの連携機能である「AsReader」を活用

  • 開発したカレンダーアプリ

    開発したカレンダーアプリ

予定に変更がある場合でも、アプリを操作するだけで変更が可能で、紙の入出庫カードによる煩雑な管理から解放された。その結果、目標だった年間14日の工数削減を大きく上回り、年間48日の工数削減に成功したという。

  • アプリ上で作業情報を管理できるようにした

    アプリ上で作業情報を管理できるようにした

大久保さんは「アプリを使う人全員でメリットを共有することが重要だ」と、kintone導入の成功の秘訣を語っていた。

アプリを作るときに大事な3つのポイント ‐ 山豊工建

建築全般および設計業務を手掛ける山豊工建もkintoneの導入で成果を上げている企業の一社だ。

登壇した高橋加奈さんは、「とりあえず業務を効率化しよう」というざっくりとした上司の指示のもと、業務改善を1人で進めた。

「kintoneの導入前は、とにかく社員全員残業が多かった。月の残業時間は平均60時間超で、深夜まで残業している人もいた。残業時間の大幅削減につなげるため、アプリをとにかく作り始めた」と、高橋さんは振り返る。

  • 山豊工建 高橋加奈さん

    山豊工建 高橋加奈さん

社員からのフィードバックを参考にして試行錯誤を重ね、日報や休暇管理、サポートデスク、図面管理といったさまざまなアプリを一人で開発した。これらのアプリが社員に普及した結果、月の平均残業時間が約25時間まで短縮できたという。

「今では19時には社内に誰もいない状態になり、全員に余裕ができたので若手を育成できる環境が整った」(高橋さん)

  • 山豊工建のkintone導入効果

    山豊工建のkintone導入効果

プレゼンテーションでは、高橋さんがアプリを作るときに心がけた3つのポイントが紹介された。

1つ目は「分かりやすい見た目」だ。よく使うアプリはトップ画面に配置し、アプリのアイコンはイメージしやすいように自ら作った。色味やスタイルを分けることも意識したという。

  • 分かりやすい見た目を重視

    分かりやすい見た目を重視

2つ目は「作業効率」。例えば、アプリにおける入力項目は最小限に抑えた。「文字入力は最終手段。入力のブレや漏れは当然あるので、自由な入力はなるべくさせない。入力する内容が決まっているものは『ルックアップ』や『プルダウン』などを使用した」と、高橋さんは説明した。

  • 作業効率を重視

    作業効率を重視

3つ目は「お金をかけないこと」。kintoneには多種多様な有料プラグインが用意されているが、高橋さんは限られた予算の中でアプリ開発を進めた。できる範囲で開発することを心掛け、カスタマイズで対応した。

「有料プラグインを使わないメリットも多い。限られた方法でアプリを作るため、kintoneのルールに詳しくなった。今となっては自分でカスタマイズもできるようになった。どんなに古い体質の会社でもkintoneで変われる」と、高橋さんは胸を張った。

入社3カ月目の新卒社員のkintone活用 ‐ 山辺事務機

複合機やオフィス家具の販売を手掛ける山辺事務機のプレゼンテーションには、入社3カ月目の新入社員2人(高井涼さんと竹内まほさん)が登壇した。

同社はkintone導入により、月の平均残業時間を約50時間削減、紙の年間使用量を約3万7500枚削減するといった成果を上げている。高井さんと竹内さんは、入社前に有給のインターンシップ形式として、kintoneのアソシエイト認定資格を取得。DX人材として迎え入れられ、入社後は新人ならではのkintone活用を模索した。

  • 山辺事務機 高井涼さん

    山辺事務機 高井涼さん

  • 山辺事務機 竹内まほさん

    山辺事務機 竹内まほさん

竹内さんが開発した「新卒社員日報」では、業務開始時間や業務内容に加えて、来年以降に入社してくる新人のために「後輩へのひとこと」という項目を設けた。「プレゼンは思っている0.7倍の熱量で話すべし」「試験を受ける時は勉強を始める前に試験日を先に設ける」といった新卒社員ならではの感想やアドバイスを記録している。

  • 「新卒社員日報」に「後輩へのひとこと」という項目を設けた

    「新卒社員日報」に「後輩へのひとこと」という項目を設けた

また2人は、先輩との交流を活発にするため、気軽に質問できる「Q&A」や日々のお礼を伝え合う「サンクスカード」といったアプリを作った。「一括更新のキーって何ですか?」という質問や、「いつも家具の案件をマメに管理していただいてありがとうございます!」といったお礼をアプリ上で気軽にできるようになった。

  • 気軽に質問できる「Q&A」アプリ

    気軽に質問できる「Q&A」アプリ

  • 小さなお礼を伝えられる「サンクスカード」アプリ

    小さなお礼を伝えられる「サンクスカード」アプリ

高井さんは「アプリ上での交流が増えることで、対面での質問もしやすくなり、先輩との交流が増えた」と語った。竹内さんは「社内にいない先輩にも質問でき、小さな感謝も伝えられるようになった」と話した。

2人は今後、kintoneの専門スキルを磨き、アソシエイトより上位の資格である「アプリデザインスペシャリスト」の取得を目指す。

  • kintoneの専門スキルを磨き続ける2人

    kintoneの専門スキルを磨き続ける2人

高井さんは「kintoneの開発を担当することで、業務の理解が深まり、ベテラン社員と話すきっかけにもなる。社内での明確な役割もできた。今後もkintoneを活用することで爆速で成長するDX人材になりたい」と意気込みを見せていた。