東京大学(東大)、大阪電気通信大学、香川大学の3者は7月1日、地球から約1500万光年離れたうみへび座の方向にある、天の川銀河に似た構造を持つ棒渦巻銀河「M83」を対象として、アルマ望遠鏡の分子ガスデータを解析した結果、10個の「高速度雲」を発見し、これらが銀河外から流れ込んできた分子ガスである可能性が高いと共同で発表した。
同成果は、東大大学院 理学系研究科 天文学専攻の長田真季大学院生、同・理学系研究科 附属天文学教育研究センターの江草芙実准教授らの研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
ガスが銀河円盤に流れ込み“銀河を育てる”様子を確認
銀河は星の集合体として認識されているが、実際には星の材料となる星間ガスや星間塵も豊富に存在する(厳密にいえば、ダークマターも集積しているとされる)。星には寿命があるため、銀河は星形成と星の死を通じて進化を続ける。宇宙初期のビッグバン後のまだ星が1つもない暗黒時代、宇宙には多量の水素と少量のヘリウムしか存在しなかった(極めて微量だがリチウムなども存在したと考えられている)。しかし、星が生まれて核融合反応が起きることで、炭素、窒素、酸素、鉄などさまざまな新元素が生成された。これらの新しい元素は、超新星爆発などを経て銀河内のガスや塵の組成を変化させていった。
星は生涯の終わりにガスを放出したり、超新星爆発を起こしたりすることで、核融合によって生成された新元素を星間空間に散布し、星間ガスを補充する。しかしこれだけでは十分ではないため、星形成が続くと星間ガスは徐々に減少し、やがて枯渇する。実際、天の川銀河も、内部ガスのみで星形成が継続した場合にはわずか10億年ほどで使い果たし、星形成は停止すると考えられている。しかし現実には、天の川銀河では100億年以上にわたり星形成が継続しており、これは銀河外からのガス流入の可能性を示唆している。
天の川銀河では、銀河の回転とは大きく異なる速度で運動するガス雲、つまり高速度雲が確認されている。高速度雲は、銀河外から供給されるガスの有力候補の1つだ。その起源については複数の説が存在する。1つは、銀河外から直接流入したガスであるという説。もう1つは、銀河内で発生した超新星爆発によって一度外部へ吹き飛ばされたガスが、重力により降ってくるという説だ。
従来の高速度雲研究は、天の川銀河内に広く分布し、比較的密度の低い領域に存在している中性水素原子ガスの観測が主体だった。中性水素原子ガスとは、イオン化していない中性(陽子に電子が結びついた状態)の水素原子で構成され、分子ガス形成の前段階のガスと考えられている。しかし地球が天の川銀河内に存在するため、ガス雲までの正確な距離測定は困難であり、その物理的性質や空間的位置は不明な点が多い。そこで研究チームは今回、天の川銀河と構造および星形成活動性が類似するM83を対象に、アルマ望遠鏡が取得した高感度な分子ガス(一酸化炭素(CO))輝線データの詳細な解析を行ったという。
分子ガスとは、宇宙空間に存在するガスのうち分子を形成しているものを指し、主に水素分子(H2)から成り、COなどの分子を介して観測される。中性水素ガスよりも高密度・低温な領域に存在し、星形成が起こる場所に多く集積している。
そしてCO輝線データの詳細な解析により、分子ガス成分としては珍しい高速度雲が10個発見された。これらの多くは超新星爆発の痕跡とは一致せず、仮に単一の超新星爆発によって加速されたと仮定しても、その運動エネルギーは説明がつかないこともわかった。これらの特徴から、観測された高速度雲の多くは、銀河外から流入した分子ガスである可能性が高いと結論づけられた。
外部からのガス供給は、星の材料を絶やさず、銀河の星形成活動を維持する重要なメカニズムの1つである。今回、銀河間空間に広がった中性水素原子ガスではなく、すでに高密度な分子ガスの塊となった状態で流入していることが捉えられたことは、その実態を解明する貴重な手がかりとなるという。研究チームは今後、この分子ガスの形成過程、中性水素原子ガスとの関連、そして降着する分子ガスが円盤内のガスと衝突することで星形成が誘発されるのかどうかなどについて、さらなる解明を進めていく予定としている。

