AZ-COM丸和ホールディングス社長・和佐見 勝「創業からの55年間は『報恩感謝』の日々。この精神を基に更なる発展・成長を目指していきたい」

埼玉・松伏に 大型物流センター

 ─ 2025年3月期の業績は増収減益でした。現状をどのように分析していますか。

 和佐見 まず当社のスタンスは顧客の成長が当社の成長に繋がるということです。というのも、お取引先のお客様の成長をサポートすれば当社も必ず成長できるからです。ですから、お客様の業績が振るわなければ当社も頑張らないといけません。

 例えばドラッグストアの「マツモトキヨシ」などを展開するマツキヨココカラ&カンパニーさんは店舗拡大を行っており、それに伴って物流効率改善を実現する新物流センターの稼働や配送の効率化などを当社から提案したりしています。それが功を奏しており、当社の核となる3つの事業のうちの「医薬・医療物流」の増収につながっています。

 ─ 残る2つは「EC(電子商取引)物流」と「低温食品物流」ですが、低温食品物流でも大きな投資を行いますね。

 和佐見 ええ。この低温食品物流も増収を達成したのですが、お客様であるスーパーマーケットでは業績の良い所、悪い所と明暗が分かれています。しかし、全般的に取扱物量は今後も伸びていくと見ています。そこで今年10月以降には、埼玉県松伏町に「AZ-COM Matsubushi EAST」という大型の低温食品物流センターが稼働する予定です。

 ここには2027年にもう1棟が建設される予定なのですが、稼働準備を進めているEASTでは冷蔵、冷凍、常温という3温度帯に対応する近代化された温度管理システムを導入し、マテリアルハンドリング(荷物の積卸しをはじめ、運搬、積付け、ピッキング、仕分けといった作業や、それらの作業に付随する取扱業務の総称)も自動化を推進しています。

 また、都心から25キロ圏内という立地や近隣に国道4号東埼玉道路が開通したことを生かし、免震構造を採用することによって首都圏の大規模災害時における食料などの供給基地となる「BCP(事業継続計画)物流」の拠点としての役割も担います。このBCP物流は今後の当社グループの中核事業に育てていきたいと思っています。

             

             今年10月以降に稼働予定の「AZ-COM Matsubushi EAST」(埼玉県松伏町)

 ─ 総投資額はどのくらいの規模を見込んでいるのですか。

 和佐見 EASTとこれから建設する物流センター等を合わせて約600億円です。しかし、投資はこれで終わりではありません。投資しないと成長できないからです。それはハード面だけでなく「人」というソフトの面でも同様です。

 ─ 人手不足という経営課題がある中で、22年からの5年間で5000人の社員を採用する計画を掲げていましたね。

 和佐見 はい。コロナ禍で新卒の採用には苦戦しました。しかし、その不足分を中途採用でフォローし、この3年間の採用人数は3000人を超えました。物流業界の人手不足という環境は今後も続きます。それでも残りの2年間でしっかり採用ができるように取り組んでいきたいと思っています。デジタル社会でも、やはり人材が豊富な会社が勝つと。私はそう思っています。

中小運送事業者を 束ねた組織

 ─ その具体的な手立ての1つとして運送事業者のネットワークがありますね。

 和佐見 ええ。「AZ-COMネット(旧AZ-COM丸和・支援ネットワーク)」ですね。15年に当社の事業子会社である丸和運輸機関が中心になって創立した組織で、主に中小運送事業者が加入しています。これが足元で2700社を超えました。全国にトラック運送事業者は約6万3000社ありますから、加入社数を2030年には5000社、40年には1万社へと増やしていきたいと考えています。

 このAZ-COMネットに加入していただければ、会員を束ねたバイイング・パワー(購買力)を活用して車両や燃料などの購入コストを抑えることができます。また、当社から仕事をお願いすることもあります。良質なお仕事を提供し、支払いも毎月末締め翌月20日払いと早くすることで、会員企業にメリットを享受していただきたいと考えています。

 そして、私がAZ-COMネットの会員を増やすことで是非とも力を入れていきたいのが先ほどのBCP物流事業になります。これは全国の都道府県や市町村が対象になります。ですから、AZ-COMネットに加入する各地の運送事業者の力を束ねる必要があるのです。

 ─ 地方では後継者難に悩む運送会社も多いですね。

 和佐見 大変だと思います。その中でもこれまで当社が成長できたのは、物流拠点は都心から約25キロの埼玉県吉川市に置きながらも、持ち株会社の東京本部を東京駅近くのビルに置いているからです。お客様との接し方に欠かせない商売の機微は「機転・機敏・気前」ですからね。

 その意味では、日本屈指のビジネス街である丸の内に本部を構えることで変化を把握し、即座に行動に移すことができます。

 ─ 世界の情報を取りながらグローバル化も見据えるということですね。さて、新たに「中期経営計画2028」を策定しましたね。この中計を踏まえた将来像を聞かせてください。

 和佐見 数値で言えば28年3月期業績で売上高2800億円、経常利益200億円、経常利益率7.1%の達成を目指します。一言で言えば「高収益企業づくり」になります。その中で特に力を入れていきたいと思っているのは先ほど申し上げたBCP物流事業になります。まずは東京23区全てとの災害時の支援活動に関する協定締結を進め、その後、全国に広げていきたいと。

 近年、頻発する自然災害時に物流支援を円滑に行うために必要な車両や人材を提供すると共に、平時の備蓄倉庫の管理などを当社の備蓄管理のプロが手掛けます。そして非常時には備蓄倉庫の荷物を仕分けしてデリバーすることができるわけです。

初の丸和運輸機関の社長交代

 ─ 攻めの経営が続くということになりますね。

 和佐見 そうですね。その具体的な取り組みの1つとして当社の創業会社であり、現在は中核事業会社の丸和運輸機関の社長交代を発表しました。6月下旬開催予定の定時株主総会と、その後の取締役会を経て正式に決定しますが、私は代表権のある会長になります。

 ─ 新社長はどのような略歴の人なのですか。

 和佐見 現在、東北丸和ロジスティクス社長を務めている平野健治になります。平野は1968年生まれの56歳。当社の生え抜きです。87年に丸和運輸機関(現AZ-COM丸和ホールディングス)に入社後、千葉の営業所で現場を20年近く経験し、運行事業部長や九州丸和ロジスティクス社長などを歴任しました。平野はAZ-COM丸和ホールディングスの取締役専務執行役員にも新任される予定です。

 ─ ということは、平野さんは18歳から丸和運輸機関で働いていたことになりますね。

 和佐見 そうです。高校を卒業して当社に入社し、現場経験もしっかり積んできました。当社の新卒採用第1期生に当たります。そして、東北丸和ロジスティクスの業績もしっかり上げた。とても真面目な性格で、私と何が違うかと言うと、私は少々雑な発言をするところがあるのですが、彼はスマートですね(笑)。

 社内からも部下などの人の話をよく聞き、最後のジャッジは自分で下すという声をよく聞きます。そういった役割分担をしっかりと踏まえた上で経営するという感覚を持っているわけです。ですから部下にも信頼されます。何よりも自分なりの考えをしっかり持っており、決してブレることはありませんね。

 ─ 真面目な性格だと。

 和佐見 はい。最初に私が平野に「君に社長をやってもらいたい」と言ったら彼は「いや、社長、勘弁してください。私にはできません。堪忍してください」と言いましたからね(笑)。「とにかくやってみなさい」と言って「私もしっかりと背中を押す。3年間は会長として残る」と。「その後は君が独り立ちして丸和運輸機関を世の中の見本になる会社にしてもらいたい」と伝えたんです。

 ─ 優秀な人材が育ってきたと言えますね。その丸和運輸機関を和佐見さんが1970年に創業して55年が経ちました。55年をどう振り返りますか。

 和佐見 「必死」の一言です。トラック1台で運送業を始めてから事業を次々と進化させてきましたからね。運送から物流へ、次に物流からロジスティクスへ、そしてロジスティクスから「3PL(物流一括請負)」へと時代変化に合わせて進化させてきました。その間、いろいろなお客様との取引や接点から様々なことを学び、そこから新しい仕組みやシステムを作り上げました。

 ─ この必死というスタンスは今後も変わりませんか。

 和佐見 もちろんです。今回私は丸和運輸機関の社長は平野に譲りますが、AZ-COM丸和ホールディングスでは引き続き私が社長兼CEOを務めます。ホールディングスではM&Aやグローバル化などに力を入れていく予定です。

国内外の大学等に 寄付する意味

 ─ 人も会社もつないでいくということですね。

 和佐見 そうですね。ただそのためには自分の基本軸に「世のため、人のため」という「利他の心」が必要になると思うのです。それは物流業界だけとは限りません。大学もそうです。例えば当社は東京大学と同大学スポーツ先端科学連携研究機構と組んでスポーツ科学の共同研究を行っています。

 これは、もともと当社がラグビーチームを運営していたからです。スポーツに力を入れていたということもあって東京大学とも縁があったのです。あるとき千葉県の柏地区キャンパスの整備計画の話を聞き、お金は個人で寄付をするという形でご協力させていただきました。

 天然芝と人工芝の2面のグラウンドを造成し、クラブハウスやトレーニングルーム、半屋外練習場なども整備させていただきました。光栄にも東京大学からは22年に「東京大学稷門賞」を受賞させていただきました。

 ─ 他でも寄付を?

 和佐見 ええ。京都大学には丸和運輸機関が天然芝、人工芝2面のラグビー場を整備しましたし、海外では2011年から中国の北京交通大学に丸和運輸機関の助学金制度を設けて学生を支援しています。優秀な学生は卒業後、丸和運輸機関に就職して日本で仕事をすることもできます。

 また、18年には同大学と丸和運輸機関で「物流創新研究所」を設立しました。物流分野の研究者の科学研究や物流学科の発展のための支援を続けています。研究者の研究費や研修や出張などに充ててもらっています。累計で500人を超える研究者の助成に役立ててもらいました。

 ─ 中国とは政治の面で微妙な関係が続いていますが、経済の面で和佐見さんが「つなぐ」役割を果たしていますね。

 和佐見 そうなれば嬉しいですね。私の半世紀の企業家人生を総括すると、まさに「報恩感謝」の日々だったと思います。誰かがやらなければならないことを率先して実行・実践していく。そして、世の中の皆さんに尽くし、社会に恩返しをしていくことが大切です。この報恩感謝の精神こそが当社を支え、発展させるための基礎となっているのです。

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