中央大学は6月23日、世界最大のウナギ輸入国である日本では、小売店で流通しているウナギ加工品の約3分の1が東アジアに生息する養殖ニホンウナギであり、残りの大半はアメリカウナギであることを明らかにしたと発表した。

同成果は、中央大の白石広美研究員らの研究チームによるもの。詳細は、日本水産学会が刊行する水産を扱う学術誌「Fisheries Science」に掲載された。

ヨーロッパウナギの絶滅危機で種の割合に変化が

ウナギ属は現在、海流の変化、気候変動、回遊ルート上の障害、生息地の減少や劣化、病気、過剰な利用・取り引きなど、実に数多くの脅威に直面。その結果、IUCNレッドリストでヨーロッパウナギが「深刻な危機(CR)」、ニホンウナギとアメリカウナギは「危機(EN)」に指定されている。

そうした背景から2007年に行われたヨーロッパウナギのワシントン条約附属書II掲載(2009年施行)、そして2010年代前半のニホンウナギ不漁を受け、これら2種以外のウナギ種稚魚(シラスウナギ)の採捕・取り引きが加速した。その理由は、ウナギの完全養殖はまだ商業化されていないため、市場に流通するウナギはすべて天然の稚魚を採捕し、養殖(蓄養)する必要があるからだ。

そうした中で近年、需要が急増しているのがアメリカウナギだ。一方で、ヨーロッパウナギの稚魚の違法取り引きも依然として横行していて、これらの稚魚は欧州域外へ密輸され、養殖に利用されているのが実態だ。加工後のウナギは外見から種判別が困難なため、種を偽って国際取り引きされる可能性をはらむ。

また、日本で消費されるウナギの約3分の2は輸入品だが、輸入統計に種別の分類はない。そのため、国内で実際にどの種がどの程度消費されているのかは不明瞭だった。そこで研究チームは今回、国内の大都市の小売店で販売されている蒲焼きを調査し、種の同定を行ったという。

  • ウナギ加工品と採取した肉片サンプルの保存容器

    (左)ウナギ加工品の例。(右)採取した肉片サンプルの保存容器(出所:中央大Webサイト)

今回の研究では、2024年1月~2月と7月に、函館・仙台・東京・大阪・岡山・福岡・鹿児島の7都市で調査を実施。スーパーやコンビニ、百貨店など大手・中小を問わない小売店にて、合計134点のウナギの蒲焼きが購入された。なお水産庁委託業務の報告書によると、日本で消費されるウナギの約88%は小売業者経由と推定されている(販売額ベース)。そこで今回は種の同定に加え、その結果との比較のため、日本と中国の稚魚の池入れ量、養殖生産データ、ウナギ(活鰻、加工品)の輸入統計、ヨーロッパウナギの輸入データも分析対象とされた。

今回の調査では133点の種が同定され、内訳はニホンウナギが82点(61.7%)と最多。次いで、アメリカウナギが49点(36.8%)だった。またヨーロッパウナギも2点確認されたが、その他のウナギ種は検出せず。なお国産品と輸入品では種構成に大きな違いが見られ、国産品はすべてニホンウナギだった一方、輸入品(今回の調査ではすべて中国産)ではアメリカウナギが最多の49点(59.8%)を占めた。

  • 日本国内で入手されたウナギ製品の種構成

    日本国内で入手されたウナギ製品の種構成。濃い灰色の円は国内産、薄い灰色の円は海外産のウナギ製品を示す(出所:中央大Webサイト)

「ウナギの国際的資源保護・管理に係る第16回非公式協議」に関する共同プレスリリースによると、日本の近年の稚魚池入れ量はほぼ100%がニホンウナギだ。一方、中国では、2021年までの池入れ量のデータで、アメリカウナギが6割以上を占めていたとのこと。今回の調査結果は、これらの池入れの傾向と一致するものだった。

今回の調査で、日本での消費がアメリカウナギへと移行している事実が確認された。近年の欧米やシンガポールで実施されたウナギの種同定でも共通しており、アメリカウナギが中心となっている。アメリカウナギの稚魚の需要は、生息国でIUU(違法・無報告・無規制)漁業や違法取り引き、社会的混乱・紛争を引き起こし、大きな社会問題となっている。

日本はかつてヨーロッパウナギの最終消費国の1つだったとされるが、今回の調査で現在の消費量はごくわずかと判明した。税関統計とワシントン条約データに基づいた分析では、日本へのウナギ加工品輸入におけるヨーロッパウナギの推定割合は、2014年の72%から2022年には3.9%まで低下。今回の調査でも、ヨーロッパウナギの割合は1.5%だった。

  • 日本へのウナギ加工品の輸入量推移

    日本へのウナギ加工品の輸入量推移。紫色はワシントン条約事務局に報告されている、日本のヨーロッパウナギ推定輸入量。灰色は、その他のウナギ属魚類の輸入量(出所:中央大Webサイト)

しかし、ヨーロッパウナギの稚魚に関わる違法行為の摘発は続いており、密漁と密輸は依然として深刻な問題だ。その需要の背景には東アジアでの養殖や需要が存在し、現在も密輸された稚魚が養殖されている可能性が高い。ただし、密輸規模や養殖後のヨーロッパウナギの消費地は不明であることから、研究チームは、日本に加え中国や韓国などウナギの消費が多い他国でも、流通種とその消費実態に関するさらなる調査が不可欠とした。

ウナギの種構成は、養殖に用いられる稚魚の漁獲量、各種規制の導入などにより今後も変化が予想され、継続的な調査が必要だ。研究チームは、ウナギの世界最大の輸入国かつ消費国である日本には、ウナギ属全体の持続的な利用実現への貢献が期待されるとしている。