2025年4月13日から開催されている大阪・関西万博。以前のブログでは、万博で見られるさまざまなペロブスカイト太陽電池を紹介しました。

しかし、太陽光発電は、エネルギーを生み出す手段のひとつにすぎません。エネルギーの面白いところは、その種類やそれを取り出す方法が非常に多様なところです。私たちがまだ気づいていないやり方でも、エネルギーを取り出せる可能性だってあります。

では、未来のエネルギーはどこからやってくるのでしょうか? そんな少し先の未来における多様な可能性を感じられるのが、電気事業連合会が出展する「電力館 可能性のタマゴたち」です。

外観のフォルムもタマゴのような電力館

エネルギーの可能性を探せ!

さて、「未来のエネルギー」というと、みなさんは何を想像するでしょうか? 近年は、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーも広まりつつありますし、水素や核融合を用いた新しい技術も注目を集めています。

電力館では、タマゴ型のデバイスを手にしながら、未来のエネルギーの可能性に触れることができます。現時点では、どれもあくまで可能性の一つにすぎませんが、研究開発を重ねて技術を育てていけば、将来的には立派なエネルギー源になるかもしれない……そんな思いが、このタマゴに込められているような気がします。

電力館では、このタマゴ型デバイスをもってエネルギーの可能性に触れることができます

電力館で紹介されているエネルギーの可能性は多岐にわたります。このブログでは、その中でも特に身近で意外性があり、面白いと感じたエネルギーの可能性を4つご紹介します。ぜひご自身の日常を思い浮かべながら読み進め、エネルギーの可能性を感じてみてください!

電力館では、いろいろなエネルギーの可能性が紹介されています

①【振動力発電】微小な運動も、電気エネルギーに変換!

発電では、運動エネルギーを電気エネルギーに変換することが一般的ですが、「振動」という小さな運動も、電気に変えることができます。

振動は、さまざまな場所で発生します。人間の動きによる振動はもちろん、機械や建物が生み出す振動を活用して発電しようとするのが「振動力発電」です。

中でも、人が床を踏んだときに発生する振動を電気エネルギーに変える技術は、「床発電」ともよばれています。過去には、JRの改札で実証実験が行われたこともありました。このときは、圧力が加わると電気が発生する「圧電素子」を使って電気を生み出していましたが、振動から電気を取り出す方法には、ほかにもいくつかの種類があるようです。

床発電を含む振動力発電には、発電効率やコストの面でまだ多くの課題があります。しかし、必要なエネルギーをその場でつくり出すことができる技術として、今後の応用が期待されています。

人が足踏みすることで生じる振動も、電力に変えられる可能性があるなんて……!

振動の力で発電ができるのであれば、「話し声」だってエネルギーになる可能性があります。なぜなら、音の正体は空気の振動だからです。これは「音力発電」とよばれ、近年では音の振動を受け止める仕組みも進化してきているといいます。実用化が進めば、人の声で発電する未来も、そう遠くないかもしれませんね。

②【温度差発電】ひんやりを感じた瞬間、電気が生まれている!?

ものの動きといった運動だけでなく、「温度差」も電気を生み出すことができます。

まず、金属や半導体などの物質の両端に温度差があると、電圧が生じます。これは、高温側では電子の動きが低温側に比べて活発になるため、高温側から低温側へ電子が移動するからです。この現象はゼーベック効果とよばれます。

しかし、これだけでは電子が低温側に偏っていくのみで、電流は流れません。そこで、ゼーベック効果の大きさが異なる2種類の物質を組み合わせてループをつくり、それらをつなぐ2つの接合部に温度差を与えることで、電流を流すことができます。これが、温度差発電です。

温度差発電では、一般に与える温度差が大きいほど、生みだせる電力も大きくなります。とはいえ、必ずしも大きな温度差が必要というわけではありません。近年の研究によって、人の体温と外気温の差といった比較的小さな温度差でも発電が可能になってきました。

つまり、私たちが金属に触れたときに「ひんやり」を感じる瞬間にも、電気は生み出せるということです!

ひんやりした金属板を触るだけで電気が発生!?

③【コンクリート電池】街全体が大きな電池になるかも……?

実は、身の回りにあふれているコンクリートにも、電池としての可能性が秘められています。

近年の研究により、コンクリートに異なる種類の金属を貼り付けることで、電池の機能をもたせることが可能になったのです。

一般的な電池では、化学反応によって化学エネルギーを電気エネルギーに変えます。一方、コンクリート電池ではコンクリートの中の石灰と電極との化学反応を利用します。そのため劣化が起こりにくく、長期間使用できると期待されています。

現在のところ、一般的に使われている電池と比べると、性能はまだ劣るようです。しかし、コンクリートは街のいたるところに使われている素材です。もし、道路や建物といった構造物そのものが電池になるとしたら、その利用の可能性は大きく広がります。

たとえば、太陽光発電や風力発電でつくった電気をコンクリートに蓄え、必要なときに使うことができれば、再生可能エネルギーをより効率的に活用する未来が見えてくるかもしれません。

コンクリート電池で建物や街全体が電池になるとしたら……どのくらいのポテンシャルがあるでしょうか?

④【うどん発電】フード・エネルギー・サイクルで食べ物を循環

最後に紹介するのは、「うどん発電」。嘘みたいですが、冗談ではありません。

でも、いったいどうやってうどんがエネルギー源になるのでしょうか?

うどん発電で使われるのは、廃棄されたうどんです。これを細かく砕き、発酵させることでバイオ燃料をつくり、それを使って発電しているのです。このように、食べ物の残りなどを捨てずに、エネルギー源として活用する取り組みを、電力館では「フード・エネルギー・サイクル」とよんでいるようです。

ちなみに、香川県では「うどんまるごと循環」という実証的な取り組みが行われています。廃棄されたうどんからつくられたバイオ燃料から発電用のガスを取り出し、その後に残る燃料のかすを小麦畑の肥料として利用。その肥料で育てた小麦を使って再びうどんをつくるのです。

こうして、うどんがエネルギーとしても、食べ物としても循環していく仕組みづくりがされています。

まさか、うどんで発電できるとは……

身近なエネルギーの可能性に気付ける場所

エネルギーは目に見えないもの。だからこそ、さまざまな方法でつくり出したり、貯めたりできるところが面白いと思います。

今回ご紹介したのは、あくまでも未来のエネルギーの可能性ですが、それらはすべて、将来立派なエネルギー源になるかもしれない「タマゴ」なのです。さらに、私たちがまだ気付いていないエネルギーの形もあるのかもしれません……。

そんなことを感じさせてくれるのが、電力館でした。

電力館の最後のエリアでは、エネルギーのさまざまな可能性について、パネルでわかりやすく紹介されています。ぜひ気になる「可能性」を探してみてください

監修協力
コンクリート電池:
東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 教授 小野新平先生

参考文献
電気事業連合会 電力館パビリオン公式サイト
https://www.fepc.or.jp/sp/expo2025/ 
東日本旅客鉄道株式会社 「床発電システム」の実証実験について
https://www.jreast.co.jp/development/theme/pdf/yukahatsuden.pdf
早稲田大学 体温・大気間のわずかな温度差で発電する新方式マイクロ熱電発電素子を発明
https://www.waseda.jp/top/news/59829
SDGs STORY 廃棄うどんで発電
https://sdgsstory.global.brother/j/special/minna/524/

関連リンク

  • YouTubeショート動画「万博サイエンスナビ ~ 科学コミュニケーターが大調査!」https://www.miraikan.jst.go.jp/resources/expo-sciencenavi/index.html


Author
執筆: 若林 里咲(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、展示解説や発信活動を実施。

【プロフィル】
進路に悩んでいた高校3年生の時、偶然手に取った本がきっかけで「サイエンスライター」という職業を知り、科学コミュニケーションに興味をもつようになりました。
大学・大学院では化学専攻として創薬の基礎研究に携わり、修士号を取得。その後、総合系コンサルティングファームに入社し、電力・エネルギー業界の案件を中心に担当してきました。
未来館では、科学の楽しさや魅力を共有しながら、私たちの暮らす社会や地球のこれからを、みなさんと多様な視点で考えたいと思います。

【分野・キーワード】
化学、電力