岡山大学は6月17日、これまで治療には子宮摘出が必要とされてきた子宮頸がんのIB2期・IB3期(転移がなく2cm以上のサイズの腫瘍を有する)の患者に対し、術前の抗がん剤投与で腫瘍を縮小させた後に子宮頸部円錐切除術および腹腔鏡下骨盤リンパ節郭清を行うことで、子宮を温存することが可能な新治療法を開発を開始し、患者の募集を始めたことを発表した。
同成果は、岡山大 学術研究院 医歯薬学域(医) 周産期医療学講座の長尾昌二教授(特任)、同・学術研究院 医療開発領域(岡山大病院 産科婦人科)の依田尚之助教、岡山大病院 産科婦人科の谷岡桃子医員らの共同研究チームによるもの。詳細は、臨床腫瘍学を扱う学術誌「International Journal of Clinical Oncology」に掲載された。
術後の妊娠可能性を残す新たな子宮頸がん治療法確立へ
日本産科婦人科学会の報告によると、日本では毎年約1万人の女性が子宮頸がんに罹患し、約3000人が亡くなっている。その発症のピークは30~40代で、比較的若い世代での罹患が多い点が問題視されている。大半の子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染により発症。HPVは性交経験のある女性のほとんどが一生に一度は感染するとされるありふれたウイルスで、多くは自然治癒するが、子宮頸部に感染した場合、約10%で感染が長期に持続すると推計されている。この長期感染の一部が、子宮頸部異形成とよばれる前がん病変を経て、数年後に子宮頸がんへ進行するとされる。
現在はHPVワクチンが導入され、欧米の一部の国では子宮頸がん患者数が減少傾向にあるが、日本ではワクチン接種の普及が遅れており、特に20代・30代の患者に減少の兆候が見られないのが現状だ。このような背景に加え、日本では晩婚化が進んでいることもあり、子宮頸がんに対する妊孕(にんよう)性温存手術(妊娠の可能性を残すよう配慮した手術)への強い期待が寄せられている。
子宮頸がんに対する妊孕性温存手術としては、すでに「広汎性子宮頸部切除術」がガイドラインに記載され、一部の施設で実施されている。しかしこの術式では術後の妊娠率が約20%と低く、約50%という高い流早産率も報告されるなど、課題を残していた。そこで研究チームは今回、手術前に抗がん剤投与で腫瘍を縮小させ、より侵襲の少ない「子宮頸部円錐切除術」を導入する方法を考案したという。
子宮頸部円錐切除術は、対象が病変が小さい患者に限られるものの、術後妊娠率は約40%と高く、流早産率も約20%で一般の妊婦とほぼ同程度となっている。研究チームはこれまで10年以上かけて、手術前に投与するための有効な抗がん剤を探索し、「パクリタキセル」の毎週投与と「カルボプラチン」の3週ごとの併用(ドーズデンスTC治療法)の併用が極めて有効で、90%以上の患者に有効であることが確認されたとした。
新治療法の有効性・安全性評価に協力する患者を募集
なお、研究チームは今回開発された術式について、治療に参加する患者を募集するとのこと。10人の患者の参加を予定しており、参加条件は以下の通りだとする。
- IB2期およびIB3期(子宮にのみに限局した2cm以上の腫瘍)の子宮頸がんを有すること
- 40歳未満
- 将来の妊娠を希望していること
また今回の手術では、抗がん剤投与、子宮頸部円錐切除術、腹腔鏡下リンパ節郭清と治療段階ごとに治療が順調かどうかが確認され、もし予定通りの効果が認められない場合には、安全確保のため研究への参加を中止し、通常診療へ移行することになる。なお研究チームは、約8割の患者が予定通りの治療を完遂できるとの見込みとしている。また妊娠の許可は、治療終了後2年間の経過観察の経て判断されるとのこと。子宮を温存できた割合、2年以内での再発率、妊娠・分娩に至った割合などに基づき、この治療法の有効性・安全性の評価を行うとした。
今回の研究に残された課題として研究チームは、術前抗がん剤の卵巣への影響を挙げ、約2割の患者が治療後に無排卵状態になる可能性があり、治療開始前の卵子凍結や受精卵凍結などの対策が推奨するとした(岡山大病院でも対応可能だが、協力施設の紹介も可能としている)。なお今回の研究は、2025年5月27日に岡山大の倫理審査委員会で承認され、6月1日から患者の募集を開始しているとする。