OKIは4月1日、電子機器の製造受託サービスなどを展開するEMS事業のトップに、それまで同社の技術責任者および技術本部長を務めていた執行役員の前野蔵人氏が就任したことを明らかにした。
1995年の入社以来、新規技術の開発・立ち上げや技術戦略、技術マーケティングに携わってきた前野氏は、OKIのイノベーション推進センター長などを歴任。しかし、売上や利益に直結する事業部門のマネジメントは初めての挑戦となる。市場の混乱もあって「今が転換期」だというEMSグループの事業部長に就いた前野氏は、どんな方針をもとに事業を先導していくのだろうか。
高品質・変種変量生産に強みを有するOKIのEMS事業
官公庁や地方自治体をはじめ、道路や港湾などといった社会インフラ、空港や駅などの交通拠点、銀行や通信網など高信頼性が求められる領域、さらにはオフィス・工場・店舗など、社会の安全・安心を担うさまざまな領域で重要なエッジプロダクトを提供するOKIは、時代の流れやニーズの変化に対応しながら、数多くの“OKIブランド”製品を提供している。
その一方で、同社の名を掲げた製品を作るのではなく、他社製品である電子機器などの生産において、ものづくり機能を請け負うことでビジネスを展開する事業部がある。それが、EMS事業部だ。
OKIのEMS事業は、電子機器製造のサプライチェーンにおいて、設計から製造、そして信頼性試験までを受託しワンストップで提供する“ものづくり総合サービス”とのこと。場合によっては製品の出荷までもOKIが担うといい、製造プロセスの大部分を同社がコア技術・生産ノウハウを活かして受託することで、顧客企業は製品開発の中核を成す商品企画や研究開発により多くのリソースを割くことができるとする。
こうしたEMSビジネスには製造業全体から大きな需要が集まっているが、グローバルで見れば“メガEMS”と呼ばれるEMS事業を主戦場とした大企業も存在する。そんな中でOKIが強みとするのが、ハイエンド領域のEMS事業だ。車載製品や航空・宇宙領域など故障が許されない「高信頼性」の製品、そして、変動する要求に応じて種類や生産量を変える必要がある「変種変量生産」の領域に注力する同社は、いわゆるメガEMSが“やりたがらない”市場で多くのニーズに応えている。
そのような細かなサービスを提供できる背景には、OKIグループとしてさまざまな会社をEMS事業において連結していることがある。元来幅広い製品を提供してきた同社は、数々の領域における専門知識を獲得しており、現在では情報通信市場に加え、産業、計測、医療、航空・宇宙、電装市場など幅広い分野に参入。また製造プロセスを見渡しても、上流側の設計・基板プロセスから下流にあたる物流にまでサービスを広げており、多様なニーズに応える体制を整えることで、高付加価値の製品創造に貢献しているとする。
技術責任者から事業責任者へ - キーワードは“横串の連携”
さまざまな製品を製造するOKIらしくもあり、一方で自社製品ではなく他社製品を作るという意味で特殊な、EMS事業。そのビジネスを先導する事業部長に、前野蔵人氏が4月1日付で就任した。
1995年に三重大学大学院を卒業したのちOKIに入社した前野氏は、これまで主に技術開発に関わる部門に携わっており、2021年にはイノベーション推進センター長に就任。そして2023年には、同社執行役員の職に就くとともに、技術責任者および技術本部長に就任した。開発部門で数々の成果を挙げてきた同氏が今般、事業部門を率いることに。自身も驚いたという新職への就任だが、求められる役割はひしひしと感じているという。
「EMS事業に携わって感じたことの1つに、多くの関連会社が事業に関わる中で、横での連携があまりできていないということがありました。OKI全体としては“イノベーション”を重視して、顧客との共創を強化していくという方針を取っていますが、EMS部門は、顧客側で決定したプロセスを引き受ける傾向にある。OKIとして保有している要素技術やチャネルとの連動性も弱いと感じています。
逆に私は、技術部門で横串を通した連携をしてきました。そうした立場からEMS部門の一員になることで、OKIグループとしての横の連携を強くしていきたいですし、グループ内で要素開発を進めてきた競争力のある新技術を取り入れることで、顧客にもより良いサービスを提供できるようになります。共創を進める風土もEMS事業の中にうまく取り入れたいと思っていて、顧客が商品を企画する段階もOKIとしてお手伝いすることで、一緒に製品・事業を作り上げながら量産に繋げることで、OKIとしての売り上げ規模も拡大していけると考えています。」
これまではグループ各社がそれぞれ事業に取り組んでいて、技術部門だけでなく営業面でも連携が取れておらず、同じ顧客企業に対して各々がアプローチすることもあったという。しかし今後は、EMSグループとして統合してビジネスにあたることで、より戦略的なアプローチ、あるいは新たな付加価値の創造につながりうる。「OKI全体としてもっと連動性を高めることで、バリューチェーンをつないだサービス提供の形も生み出し、競争力を高めていく。連携が重要な技術部門から来たことの意味は、そういったアプローチを浸透させることにあるのではないかと思います」と前野氏は語った。
2028年の売上高1000億円達成へ大幅成長を目指す
前野氏が率いるOKIのEMSグループが目指すのは、「製造プラットフォーマー」。製造における各プロセスをワンストップで受託することで、変種変量かつ高品質のものづくりを後押しし、生産体制の効率化や標準化に貢献していくとする。
EMS事業としては、コロナ禍に伴うサプライチェーンの混乱が影響したこともあり、半導体およびFA・ロボット市場の低迷長期化により2024年度は減収となったとのこと。しかし今後は、グループとしての横串連携の強化やグローバル市場での成長取り込みによって、コロナ禍以前と同水準である年率10%の成長にもどし、2028年度には1000億円の売上高達成を目指すという。
前野氏は「2025年度は目標値として、過去最高の売り上げだが・営業利益率を掲げています。チャレンジングな目標ではありますが、V字回復を成し遂げなくてはいけない。そのためには、不安定な市況を受けて顕在化しつつある“国内生産回帰”の流れもつかみつつ、新たなサービスなども生み出しながら各事業で事業拡大を目指していきます」とする。自身としては新たな挑戦となるEMS事業だが、そのリーダーとして、研究開発の日々で培われた“横串を通す価値”を胸にイノベーションへと邁進する。