2024年度のI&SS事業は売上高、営業利益ともに過去最高を更新

ソニーグループは6月13日、ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)、音楽、エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)、イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)各分野のトップマネジメントが、事業概況や市場に対する認識、事業戦略などを説明するプレゼンテーション動画と、資本市場の関心を踏まえた質問に答えるFireside Chat(Q&A形式)の動画を公開したことを発表した。

イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野にてCMOSイメージセンサ事業を担うソニーセミコンダクタソリューションズの代表取締役社長 CEOを務める指田慎二氏によると、第5次中期経営計画の初年度にあたる2024年度(2025年3月期)についてはモバイル向けイメージセンサ事業が大判化を背景に伸張し、売上高、営業利益ともに過去最高を更新したとする。また、これに伴い、2019年度以来、5年ぶりとなるフリーキャッシュフローの黒字化も達成したとする。

5つの特性の進化を進めて事業を拡大

同社は現在、中長期の方向性として、モバイル分野を成長けん引事業領域、カメラおよび産業・社会インフラ分野を収益事業領域、車載、アナログ(レーザー関連)、ディスプレイデバイス(OLEDマイクロディスプレイなど)、システムソリューション分野を戦略事業領域と分けて、それぞれの戦略に基づいて成長を目指している。

  • これまでモバイル向けCMOSイメージセンサ分野での成長が事業のけん引役であった

    これまでモバイル向けCMOSイメージセンサ分野での成長が事業のけん引役であったが、将来を見据えて車載向けやCMOSイメージセンサ以外の分野での成長も目指していく (出所:ソニー、以下すべてのスライド同様)

イメージセンサ市場は全体的に動画によるクリエイションをけん引役として今後も引き続き成長していくことが期待されている。そのため、同社でもイメージングとセンシングの融合を掲げる形での技術進化を果たし、イメージンセンサが提供する価値の向上を目指しているとする。また、その中でもイメージセンサの進化が重要であり、そのけん引役がモバイル向けカメラの動画によるリアルタイムクリエイションだとする。

  • さまざまな機能が求められるようになるCMOSイメージセンサ

    これからのCMOSイメージセンサには画質だけでなく、さまざまな機能が求められるようになり、そこが差別化要因になっていくとする

モバイルカメラに求められる特性は主に「感度・ノイズ」「消費電力」「読み出し速度」「解像度」「ダイナミックレンジ」の5つであり、同社はこの5つのトレードオフを解消しながら、総合的に進化させていく総合力を強みにしていくことで、少なくとも2030年までは続くと期待される大判化を背景に成長を目指していくという。

  • モバイルカメラに必要な5つの特性

    モバイルカメラに必要な5つの特性

プロセスの微細化と多層化でイメージセンサの特性を向上

また、さらなる特性進化に向けたリアルタイムクリエションを実現するためには高密度化が重要であるとし、その実現のためにプロセスノードの適合化による平面方向の高密度化と、多層化による垂直方向の高密度化の2つの方向で進化していくことでセンサの特性の向上を図っていくとする。

  • 限られたチップサイズでの技術進化

    限られたチップサイズで高画素化、高機能化を実現するためには縦と横、2つの方向での技術進化の組み合わせが必要となる

プロセスノードの微細化としては、これまでの成熟プロセスは特性とコストのバランスを兼ね備えたものであるとする一方、特性を高めるという観点からは限界を迎えつつあるため、新たな微細プロセスを立ち上げることを目指すとする。先端プロセスと成熟プロセスを目的に応じて使い分けることで住み分けは可能とするが、動画を起点としたリアルタイムクリエイションに貢献していくためには先端プロセスの適合化が重要との見解を示す。一方の多層化としては、従来の画素とロジックの間に異なる機能を挟み込む3層積層技術を発展させていくことで、さらなる特性強化を図っていくとする。すでに商品化している2層トランジスタ画素構造についても、垂直方向の高密度化を実現した3層構造の一例であり、今後の重要な技術進化軸になっていくとする。

  • 3層積層はすでに商用化済み

    従来の画素とロジックの2層構造から、さらに画素部をフォトダイオードと画素トランジスタの2層構造に分けた3層積層はすでに商用化済み。このほか、画素部はそのままに、新たな機能を間に挟むなど、別の高付加価値化の道筋も見えてきたとする

このほか、クルマのエレクトロニクス化、インテリジェンス化で搭載数量が増加傾向にある車載カメラ市場については、ダイナミックレンジとLEDフリッカーの抑制(LFM)を起点として、小さな画素による多画素化での高解像度化、感度の向上とノイズの低減、ダイナミックレンジの強化に向けた複数フレーム合成を実現する読み出し速度の向上と、そこで増加する消費電力に伴う発熱への対応策を総合的に進化させていくとのことで、これにより2026年度には金額シェアで43%のシェア獲得を目指すとする。

  • 車載カメラの性能進化の方向性

    車載カメラの性能進化の方向性

  • 車載イメージセンサ市場シェアを2026年度には43%まで拡大

    車載イメージセンサ市場シェアを2024年度の37%から2026年度には43%まで拡大することを目指す。ちなみに、同市場の競合としてはonsemiとOMNIVISIONがいる

プロセスの微細化の前倒しで投資規模を拡大

同社は2025年(暦年)でイメージセンサ市場の金額シェア60%を目指して事業を進めてきたが、2024年(同)は市場を上回る売り上げ成長を果たせず、シェアは横ばいにとどまった結果、目標の達成が数年遅れとなるとの見通しを示すが、今後も着実に売り上げを伸ばしていくことでシェア60%の達成を見込むとする。

  • CMOSイメージセンサにおけるソニーの金額シェア

    CMOSイメージセンサにおけるソニーの金額シェア。目標としている60%への到達は当初計画よりも後ろにずれ込む見通しとなった

設備投資については、第5次中期経営計画においては投資を厳選していくため、第4次中期経営計画比で減らしていく方向性に変更はないものの、最新の見通しでは当初の想定と比べて増加することが見えてきたとする。主にモバイル分野における特性強化を目的とした高密度化を目指す先端プロセスの導入が早まることや、建設コストの高騰などが主な要因としている。先端プロセスにかかる設備投資の金額規模についても、第5次中期経営計画期間において約半分を占めるまでに拡大するなど、内訳の見直しも行っているという。

  • 各中期経営計画におけるCMOSイメージセンサへの設備投資額の推移

    各中期経営計画におけるCMOSイメージセンサへの設備投資額の推移。現行の第5次中期経営計画では第4次中期経営計画よりも総額を引き下げるも、当初計画よりも前倒しでプロセスの微細化を進めることを決定したため、最終的な投資額は当初計画よりも引き上げられる見通しだという

なお、同社は設備投資については、さまざまなファブライト施策を含め検討をしていくことで、投資効率の改善を図っていくとしている。

このほか、同社は半導体レーザーを活用してHDDの1プラッタあたりの記録容量を高めるHAMR(熱アシスト磁気記録)技術をSeagateと15年来の協力関係の元、開発してきたが、今回、新たにWestern DigitalともHAMR技術についてのパートナーシップを締結したことを明らかにし、顧客基盤の盤石化に伴い、中長期での事業成長につなげていくともしている。

  • データをHDDのプラッタに記録する際にレーザーで加熱して書き込むことで記録密度を向上させるのがHAMR技術

    データをHDDのプラッタに記録する際にレーザーで加熱して書き込むことで記録密度を向上させるのがHAMR技術。すでにSeagateからは同技術を採用したエンタープライズ向けHDD「ExosM」として製品化、30TBおよび32TB品がデータセンターに向けて出荷されている(ラインナップとしては36TB品も用意、技術的には5TB/プラッタまでは見えているという)。ちなみにHAMR技術は物理的な方式であり、実際にデータの書き込み方式としてはCMRおよびSMRが引き続き活用されていくこととなる。今回Western Digitalともパートナーシップを締結したことから、ソニーセミコンダクタソリューションズはHDD業界の2大メーカー双方と技術的な連携をはかっていくことができるようになったといえる