PTCは6月9日、同社が提供する3D CADソリューションの最新版「Creo 12」を発表した。これに際し日本法人であるPTCジャパンは同日、記者説明会を開催。同社の社長執行役員を務める神谷知信氏らが登壇し、現在の市場から寄せられるさまざまなニーズに対応するCreo 12の新機能について説明した。
40周年を迎えるPTCを象徴する3D CADツールの最新版が公開
1985年に設立されたPTCは、今年40周年という節目を迎える。その設立初期から現在に至るまで、同社の代表的な製品として提供を続けているのが3D CADソフトであり、Creoは現在の主力製品として、製造業を中心に自動車産業や消費財メーカーに至るまで、そのターゲット市場は幅を広げている。
Creoのターゲット市場として最も多くの割合を占める製造業界は、米国関税問題などの影響で不安定な社会情勢によりサプライチェーンが流動的になっているほか、安価かつ短期間での開発を行う中国企業との競争が激しくなるとともに、ソフトウェア中心のイノベーションへの転換、法規制・サステナビリティ要求への対応など、激動の時を迎えている。また日本市場特有の課題としても、労働力不足やレガシーシステムの老朽化が顕在化するなど、数多くの課題が複合的に絡み合いながら押し寄せている。そのため各企業はDXへの投資を急いでおり、PTCはこうした課題を解決するテクノロジーを提供することを大きなミッションとしているという。
課題解決の達成に向け、製品に関連するデータを相互に結び付けてライフサイクル全体で製品を定義する“デジタルスレッド”の実現を目指すPTC。その起点となるCreoについては、ALM(アプリケーションライフサイクルマネジメント)、PLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)と並び、注力製品のひとつであるCADソフトとして性能向上に向けた開発を続けている。
またその提供形態としては、オンプレミス版に加え、クラウドサービスと組み合わせたSaaS型ソリューション「Creo+」としての提供も2023年5月に開始。クラウド版では四半期に1度、オンプレミス版では1年に1度ほどの頻度で、機能アップデートを続けている。なおPTCジャパン ソリューションコンサルティングディレクター 執行役員の財前紀行氏によると、クラウド版では2024年8月に「Creo+ 12」の提供が開始され、先立って順次機能アップデートを実装済み。そして今般発表されたオンプレミス版のCreo 12は、クラウド版で1年間に行われたアップデートをすべて盛り込んだ最新版として提供され、すべてのユーザーが最新世代の機能を使用できるようになるとする。
Creo 12で追加された250超の新機能 - テーマは6つ
Creo 12で実装される新機能については、PTCジャパンの財前氏より説明された。同氏によると、Creo 12では250以上もの新機能が追加されたとのこと。そんな多数のアップデートについては、以下6つのテーマに分けて紹介された。
Creo 12で追加される新機能の6大テーマ
- 生産性と使いやすさ
- 複合材のための設計
- 電動化のための設計
- シミュレーションドリブンデザイン
- モデルベース定義
- 製造性を考慮した設計
生産性と使いやすさ
設計作業の効率化に貢献しユーザーエクスペリエンス(UX)を向上させる機能として挙げられたのは、“フィーチャープリセット”だ。同機能は、日々の作業において高頻度で使用する設計データ(ネジ穴の大きさ、形状など)を登録し、ワンクリックで呼び出せるようにするもの。この機能は生産性を高めるのはもちろんのこと、企業単位で導入する場合には、初期設定の統一により設計操作の標準化にもつながるため、品質向上にもつながるとする。
説明会内で同機能のデモンストレーションを行ったPTCジャパン ビジネスディベロップメントディレクターの芸林盾氏は、「設計者にとっては、細かい数値を自由に選べる状態の方が手間がかかる。フィーチャープリセットによって、生産面までも加味した設定を反映しておけば、一番早く選択できるはずだ」と説明した。
その他にも、マルチボディ部品からのフラットアセンブリの作成、板金部品設計、アドバンスサーフェス作成モジュールの強化など、ユーザーからの要望が多かった機能を追加したとのこと。またPTCが提供するPLM「Windchill」との機能連携も強め、生産における材料管理などをツールを組み合わせて効率化できるといい、これはサステナビリティ要求が高まる現代において、生産管理の面で重要だとしている。
複合材のための設計
また「PTCの開発陣も自信を持っている」とするのが、複合材に関する機能の数々だ。近年では優れた物性を背景に需要が高まるFRP(繊維強化プラスチック)などの複合材は、革新的な設計を実現しうる反面、その耐久性などについては慎重な解析を必要とするケースが多い。ただし財前氏によれば、複合材の解析機能を搭載したCADツールはハイエンド製品に限られていたとのこと。今回のCreo 12での機能強化について「他社製品と比べてもとてもいい機能を有している、と言えるほど力を入れて開発した」と語った。
熱解析やハーネス設計など幅広く新機能・機能強化
さらにCreo 12では、AI駆動型のジェネレーティブデザイン機能に“熱伝導”を追加し、より多くの条件を考慮した上でのデザイン生成を可能にすることで、シミュレーションドリブンデザインを推進するという。なお同製品には、Ansysが提供する最新版のソルバーが搭載され、高品質のリアルタイムシミュレーションを実現。他のツールを介さず、Creo 12の中でシミュレーションを経たデザインを実現できる点も大きな強みだ。
また近年のトレンドである電動化への対応として、ハーネス設計に関する機能も幅広く強化。Windchillの材料データとのリンク機能も実装され、材料の選択肢およびカーボンフットプリントの可視化が実現できるとした。
国内シェア拡大に向け認知拡大に取り組むPTCジャパン
説明会の中でPTCジャパンの神谷社長は、日本の一大産業である製造業に対して「まだまだ2Dデータ、紙文化が根強いのが課題。その改革に向け我々は、パートナー各社との協業や圧倒的なテクノロジーのリーダーシップを発揮するとともに、サービスの領域をさらに広げることで、日本のDXを推進していきたい」と語る。
その中で現状は「まだ国内CAD市場において、我々のシェアが高いとは私は思っていない」とし、「Creo 12」をはじめ、より競争優位性のある製品を市場に投入することで、ひとりでも多くの顧客にCreoを届けていきたい」と語った。