アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWSジャパン)は5月26日、カプコンから発売中のハンティングアクションゲーム『モンスターハンターワイルズ』(以下、モンハンワイルズ)を支えるテクノロジーについて記者説明会を開いた。

モンハンワイルズはカプコンから発売されている人気タイトル「モンスターハンター」シリーズの最新作。プレイヤーは未踏の地「禁足地」の調査を任命されたハンターを操作し、時々刻々と変化する自然環境の中で最大4人で協力しながら巨大なモンスターの討伐や捕獲に挑戦する。対応プラットフォームはPlayStation 5、Xbox Series X|S、Steam(PC)。発売から1カ月間で全世界販売本数1000万本を突破している。

  • 『モンハンワイルズ』キービジュアル

    『モンハンワイルズ』キービジュアル

モンハンワイルズが過去タイトルと大きく異なるのは、プラットフォームの壁を越えたクロスプレイに対応している点。前作『モンスターハンターライズ / サンブレイク』や『モンスターハンターワールド / アイスボーン』まではクロスプレイ非対応のため、異なるプラットフォーム間では一緒にプレイできなかった。

説明会では、モンハンワイルズで100万以上同時接続を達成した舞台裏を支えるAWSの技術と、ゲーム開発の現場で進められる生成AI活用について、カプコンのシステム基盤を手掛ける井上真一氏が紹介した。

  • カプコン CS 第二開発統括システム基盤部 部長 井上真一氏

    カプコン CS 第二開発統括システム基盤部 部長 井上真一氏

カプコンが実現した「ワイルズ」クロスプレイの裏側

カプコンは約40年前のアーケードゲーム開発から多数のゲームを手掛けており、『ストリートファイター』『ロックマン』『鬼武者』など、多数のタイトルを制作してきた。これまでに40を超えるIP(Intellectual Property:知的財産)を生み出しており、これらのIPをもとに映画製作やテーマパークのアトラクションなどオリジナルのコンテンツ開発にも携わっている。

昨今のゲームソフトはダウンロード販売にも対応しており、同社はこれまでに100万本以上の売り上げを達成したタイトルは100本を超える。モンハンワイルズも見事その仲間入りを果たしている。

モンスターハンターシリーズ過去作は、PlayStation同士、Nintendo Switch同士、Steam同士など、単一プラットフォーム間のオンラインプレイにのみ対応していた。この場合はPlayStation Networkなど各プラットフォーマーが提供しているネットワークをカプコンが利用すれば良かったため、比較的実現が容易だった。

しかし、モンハンワイルズはプラットフォームの垣根を超えたクロスプレイを実現。どのプラットフォームでゲームをプレイしているときも、カプコンのネットワークにアクセスする必要がある。

さらに大変なのが、今作は全プラットフォームで全世界同時発売となった点だ。地域ごとに発売日が分かれるのではなく全世界で同時発売が決定していたため、非常に負荷が高くなることが予想された。スクラッチ開発も検討されたそうだが、リリース後の運用などを考えてマネージドサービスの利用を決定した。

モンスターハンターは、各プレイヤーが協力してダイナミックに動き回る巨大なモンスターをハンティングするゲーム性が醍醐味。コンマ数秒のレイテンシー(遅延)が快適なプレイに影響するほか、文字通り(ハンターの)命取りとなる。

「いろいろなクラウド事業者の通信速度を検証した。さらに各ソリューションとの組み合わせやパフォーマンスを比較した結果、総合的な通信品質でAWSを選定した」(井上氏)

  • 面白いゲーム体験を世界中に提供するべくカプコンはAWSの活用を決めた

    面白いゲーム体験を世界中に提供するべくカプコンはAWSの活用を決定

「社運を賭けた」ゲーム開発を成功に導いた舞台裏とは?

井上氏は、「これだけ大規模で、カプコンの社運を賭けたプロジェクトだったにもかかわらず、堅実に少しずつ良いものを作っていくというステップは踏めなかった」と、振り返った。限定したユーザーを対象とするクローズドベータテストは実施できなかった。

なぜならば、より面白いゲームを作るために、限界ギリギリまで時間を惜しんで開発を進めたのだ。井上氏も一人のゲーム開発者として、システム基盤を整備する立場でありながら渋々了承した。そこで、リリース前のテストを強化したという。

  • ギリギリまでコンテンツ開発を続けたそうだ

    ギリギリまでコンテンツ開発を続けたそうだ

テスト段階では、バグではなくAWSの仕様でどうしても止まってしまう場面があったそうだ。これに対し、インスタンスをかき集めて内部クォータを解除。全ログにアクセス可能な仕組みを作り、テスト効率を向上した。また、スムーズにログへアクセスできるようにすることで、リリース後にトラブルが発生したとしても原因の切り分けと対処がスムーズになることが期待できた。

ここでは、AWSが提供する「AWS Countdown Premium」サービスを活用。このサービスは、AWSの選任エンジニアが企画段階から運用フェーズまで包括的なサポートを提供する。そのため、モンハンワイルズの開発においても従来は外部から見えにくいログのデータを解析しつつ、テストを進められたという。

  • 「AWS Countdown Premium」サービス概要

    「AWS Countdown Premium」サービス概要

カプコンが生成AIで作り出す次の「面白い」

カプコンは現在、もっと面白いゲームの開発に向かって動き出している。そうは言っても、開発納期と予算が増えるわけではない。そこで活用を進めているのが、生成AIだ。ログ解析の他、強い光の点滅により体調不良を引き起こす「光過敏性発作」の可能性があるシーンの検出などに活用しているという。

また、ゲーム内の背景や地形のオブジェクトがずれてしまうと、キャラクターやアイテムといった対象物が背景にめり込んだように見え、没入感が損なわれる。そこで、AIが新エリア内を巡回して不自然なオブジェクトやずれがないかを確認するツールを開発した。余談だが、社内ではこれをロボット掃除機になぞらえて、通称「ルンバ」と呼んでいるそうだ。

同社が特に注力しているのは、AIによるテスター。従来のデバッグ作業は、不具合を発見し正常にゲームをプレイできるよう、同じ手順を何度も繰り返したり、仕様通りに動作しないアクションを確認したりと、根気のいる作業だ。そこで、人間のように思考しゲームをプレイするAIを開発することで、デバッグをAIに代替させようという試みが進められている。

具体的には、「不自然に壁をすり抜ける部分はないか」などをAIが思考して検証する。実際にモンハンワイルズの開発段階でもこうしたAIが使われている。AIへの指示は自然言語で入力可能だという。

  • AIを活用したゲーム開発の例

    AIを活用したゲーム開発の例

カプコンではAIの活用に積極的である一方、「プレイヤーが触れるクリエイティブには生成AIを活用しない」ことをポリシーとしている。クリエイティブはあくまで人間が生み出すことをこだわりとしている。

AIは人間の面倒な作業を代替し、費用の最適化に貢献する部分で大いに活用。そうすることで人間はクリエイティブに集中し、より面白いゲームを生み出して価値を最大化するために働けるようになる。AIによる効率化で生み出した利益は、さらなる「面白い」への再投資に充てられる。

  • 利益は次の「面白い」に再投資される

    利益は次の「面白い」に再投資される

4月に行われたタイトルアップデート第1弾では、タマミツネの参戦に加え、それまでストーリー上で一度しか戦えなかったゾ・シアと上位環境でいつでも戦えるようになった。さらには大集会所がオープンし、ハンター同士の交流をより楽しめるようになった。

夏に予定されている第2弾では新たな歴戦王モンスターの追加や新規追撃アクション、すっかりおなじみとなった「武器の重ね着装備」も実装予定だ。その先のアップデートも待ち遠しい。カプコンが生み出す次のさらなる「面白い」に期待したい。

なお、AWSを活用したより詳細な事例は、6月26日に幕張メッセで開かれる「AWS Summit JAPAN 2025」内のセッション「モンスターハンターワイルズ 同時接続数100万以上を支えたネットワークアーキテクチャ」にて語られるそうだ。興味のある方は、ぜひそちらのセッションにも参加してほしい。