2025年後半にHPC「Miyabi」との接続環境を提供開始

東京大学と日本IBMは5月16日、同大が量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII)のメンバー向けにアクセスを提供する「IBM Quantum System One」に最新の156量子ビットのプロセッサ「IBM Heron」を導入する計画を明らかにした。同プロセッサはチューナブルカプラーアーキテクチャを採用し、2023年にSystem Oneに導入されたプロセッサを上回る性能を備えているとされている。

両者は2019年に他大学や公的研究機関、産業界が幅広く参加できる幅広いパートナーシップの枠組みである「Japan-IBM Quantum Partnership」を設立2021年に27量子ビットの「IBM Falcon」プロセッサを搭載したSystem Oneを新川崎・想像のもり かわさき新産業創造センター(KBIC、川崎市)に設置し、2023年に127量子ビットの「同Eagle」プロセッサを導入したシステムに更新した。今回は東大とIBMの協業の一環として実施される2回目のアップデートとなり、2025年後半にHeronプロセッサを導入する。

  • 量子コンピュータに搭載するためにパッケージ化された「Heron」プロセッサ

    量子コンピュータに搭載するためにパッケージ化された「Heron」プロセッサ

東京大学総長の藤井輝夫氏は「近年、量子コンピュータは目覚ましい進化を遂げており、昨年から国内外で重要な発表が相次いでいる中で、今回の取り組みは大きな意味を持つ。現代社会では気候変動や国際紛争、貧困、感染症など地球規模の問題のみならず、各地域でも起きている。こうした課題は新たな発想が必須であり、アカデミアの多岐にわたる専門領域の知を組み合わせて新しい知を創出し、さまざまな困難を乗り越えていくことに貢献すべきだ。量子コンピューティングは、新たな知に裏打ちされた技術であり、既知の問題を高速に解くだけでなく、未踏の問題を解決できる可能性を秘めている」と述べた。

  • 東京大学総長の藤井輝夫氏

    東京大学総長の藤井輝夫氏

また、日本IBM 代表取締役社長執行役員の山口明夫氏は「IBM Heronは量子ビット、エラー率の改善、処理速度、この3つの観点で世界最高の水準を備えている。これを導入することで、これまで以上にスケールの大きなアプリケーションやアルゴリズムなどの研究に果敢に挑戦できる環境が整う」と説く。

IBMはグローバルでHeronプロセッサ搭載システム4機を展開しており、Eagleプロセッサと比較して2量子ビットのエラー率が3~4倍改善され、100量子ビットの長いレイヤのエラーをベンチマークとするデバイス全体のパフォーマンスが1桁向上、CLOPS(量子計算における回路層操作数)が60%増加すると予想されている。

システムの稼働時間は95%以上と速度・パフォーマンスも向上しているほか、同プロセッサの5000回を超えるゲート操作能力を活用した複数の研究成果が発表されている。

東京大学は2025年後半にSystem OneをHPC(スーパーコンピュータ)「Miyabi」との接続環境の提供開始を予定し、量子コンピューティングを中核としたスーパーコンピューティング環境の構築を計画。

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