本田技研工業の研究開発子会社である本田技術研究所(Honda)と、テラスカイのグループ会社で量子コンピュータのアルゴリズム・ソフトウェアに関する研究開発を行うQuemixは5月14日、「量子状態を読み出す新技術を開発したことを発表した。
2050年にすべての企業活動を通じたカーボンニュートラルを実現することを目指すHondaは、その一環としてエネルギー部材の研究に取り組んでいる。そうした部材の研究においては材料分析が行われるが、従来のコンピュータによる計算は膨大なリソースを必要とすることから、高速計算を可能にする量子コンピュータの使用を検討しているとのこと。しかし量子コンピュータで量子状態を読み出す際、その量子状態が壊れてしまうことで読み出し回数が増加し、計算に時間がかかることが大きな課題とされてきた。
そこで今般HondaとQuemixは、あらたな量子状態読み出し技術の開発に着手。量子状態そのものの読み出しを直接的に行わず、量子コンピュータ内に量子状態として蓄えられたX線吸収微細構造(XAFS)スペクトルデータから古典データを特徴づける強度や形状などの情報(特徴量)のみを“スキャン”する、新たな手法の開発に成功した。これにより、高速かつ効率的な量子状態読み出しが可能となり、量子コンピュータを用いたさまざまなシミュレーション領域への適用が期待できるとする。
また両社は今回、量子コンピュータの実機を使用したXAFS計算にも成功した。量子コンピュータと従来のコンピュータを組み合わせ、各々の長所を活かした計算を実施することで、量子コンピュータの実機上でXAFS計算を実現したといい、実機を使用した論理量子ビット上での材料開発に向けた実用計算に成功したのは初の事例だという。これにより、実機を使用したXAFS計算アルゴリズムの構築と共に、論理量子ビット度ゲート演算回数を削減する手法の開発を行い、量子アルゴリズムの開発に限らず、将来の量子コンピュータ実機の活用に向けたビット数削減およびゲート数削減技術の蓄積を達成したとしている。
両社によると今回の成果は、今後のハードウェア開発や論理量子ビット数増加の実現により、複雑な実用計算への適用も期待されるといい、同技術に関する成果および詳細については、5月15日・16日に開催される量子分野の国際会議「Q2B 2025 Tokyo」にて発表される予定だ。
Hondaは、量子コンピュータとXAFSを活用した研究開発を進めることで、電池部材の高性能化・長寿命化に貢献する材料の研究・探索に関する技術構築に取り組むとのこと。また20250年のカーボンニュートラル実現のため、モビリティの電動化に加えて多角的なアプローチで挑戦を続けていくとしている。