【トランプショックにどう立ち向かうか】〈識者はこう見る〉日本総合研究所会長・寺島 実郎

今回の相互関税について、日米2国間の問題としてだけ取り上げて、日本だけが得しようというスタンスは避けるべきです。アジアの国々は日本を見ていて、今回の対応いかんによっては、日本が本当にアジアのリーダーにふさわしいかどうかの試金石になると思います。

 例えば、今回のASEAN各国の関税率を見ると、タイ(36%)、インドネシア(32%)、マレーシア(24%)は高く設定しています。要するに、BRICSに加盟、あるいは加盟申請をしている国に対しては関税比率を高くする一方で、米国の軍事基地があるフィリピン(17%)とシンガポール(10%)は低くしています。

 日本にとって、マレーシアやシンガポールはTPP(環太平洋パートナシップ)協定の仲間ですから、自由貿易の旗手として、日本がどういうスタンスでいくのか。それを彼らは見ているわけです。

 そこで問われてくるのは、今後、日本という国が通商国家として、関税を引き下げて自由な貿易環境をつくることを、世界の先頭に立っていくという気迫があるのかどうか、ということです。要するに、2国間の問題として構えるのではなく、通商国家・日本の機軸をはっきりさせていくことが大事です。

 トランプ氏は今回、日本に46%という数字をぶつけてきました。そして、彼はなぜ米国の車が日本で売れずに、日本の車だけが何百万台も米国に入ってきているのかと。しかし、米国の車が日本で売れない理由として、非関税障壁ではなく、競争力の部分にあるということに気付くべきです。今の日本に求められているのは、そのことをきちんと問いかけていくことです。

 結局、トランプ氏が主張していることは、わたしがワシントンに張り付いていた1990年代の議論と同じで、その頃から全く議論が進歩していません。

 もう一つは「安保ただ乗り論」というもので、米国は日本を守る義務があるのに日本は米国を守る義務が無い、という主張です。しかし、日本側の在日米軍の負担を考えてみて下さい。日本は世界最大の米軍基地を受け入れ、基地にかかっているコストの7割を負担しているという事実があります。こんな国は世界に例がありません。

 日本は、そのことをきちんと認識しているのか、ということをトランプ氏に問うべきで、わたしに言わせれば、この時代に30年前の議論をまだ持ち出すのか、という印象であり、全く論点がずれているところです。

 要するに、日本が主張していることは何なのかを、きちんとエビデンス(証拠)として残していかないといけない。日本は筋の通ったことを主張しているということを的確に発信することが重要であり、そこから世界の仲間が増え、道が開けてくるのだと思います。

(編集部注・4月9日、トランプ氏は相互関税の上乗せ部分について、90日間の一時停止を許可すると発表した)

大和総研副理事長・熊谷亮丸が見る「『トランプ2.0』が世界に与える影響」