3つの医療応用研究を発表

共同記者会見に続いて行われた「共同研究発表会」では、現在行わている、GI-POF極細内視鏡を活用した3つの医療応用研究の内容が紹介された。

GI-POF技術を応用した硬性関節鏡システム開発

まずは、慶應義塾大学医学部 整形外科学教室 特任教授の名倉武雄氏と慶應義塾大学医学部 整形外科学教室 助教の小池一康氏が登壇し、「GI-POF極細内視鏡の開発 GI-POF技術を応用した硬性関節鏡システム開発のためのユーザビリティ評価と機能評価」について紹介した。

  • 慶應義塾大学医学部 整形外科学教室 助教の小池一康氏

まずは、小池助教がGI-POF極細内視鏡の特徴をあらためて解説。「情報をたくさん送れるだけでなく、画像そのものを伝えることができる」点を大きな特徴として挙げ、一般的な内視鏡と比較して、ガラスのリレーレンズを使わないためコストを抑えられる点を強調した。

また、先端に小型のカメラが取り付けられているタイプの内視鏡は、「構造自体はシンプルだが、カメラの性能や画質は限定的であり、カメラ自体が高価なため、ディスポーザブルにするのは難しいことに加えて、カメラよりも細い内視鏡を作ることは物理的に不可能」と、小池助教は指摘した。

その一方で、共同開発が進められているGI-POF極細内視鏡は、対象に合わせてカメラを変更することが可能であるほか、挿入部自体がシンプルなので低コストかつディスポーザブルにできるため、患者が多いときに滅菌作業などの負担を軽減可能だという。加えて、装置自体もシンプルなので、「手術室に限らず、外来や訪問診療など、いろいろなシチュエーションで利用できる」と、小池助教は述べた。

  • 慶應義塾大学医学部 整形外科学教室 特任教授の名倉武雄氏

医療への応用に関して、名倉特任教授は「患者数が多く、臨床で最ものぞく関節」として「膝関節」を挙げた。現在、画像技術としてレントゲンやMRIなどが活用されているが、同特任教授は「レントゲンは骨だけしか見えないが、MRIという技術によって、本当にいろいろなものが見られるようになった」ことについて「革命的な画像技術」と高く評価した一方で、「画像を見るだけでなく、なぜ直に覗くかと言えば、直に見ないとわからないことが多い」という現状を明かした。

かつては切開して中を見ていた膝関節についても、関節鏡の出現によって、非常に小さなキズで観察が可能となり、患者の回復も早いため、最近は手術もほとんど、内視鏡経由で行われるようになったという。それでもやはり入院は必要であり、名倉特任教授は「患者への負担を考えるのであれば、より小さな侵襲かつ簡明にできることは大きなメリットになる」と指摘。かつ低コストであれば、「治療する我々にとっても非常に大きい」との見解を示し、「究極的には外来で利用できるようになるのが理想」と、同特任教授はGI-POF極細内視鏡に大きな期待を寄せた。

極細内視鏡の耳科分野応用

続いて、国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター 聴覚障害研究室 室長の神﨑晶氏が「極細内視鏡の耳科分野応用 - 難聴めまい・顔面神経麻痺に対する患者さんに向けて-」と題した研究を発表。“難聴"はもちろん、耳の奥にある三半規管が影響する“めまい"、そして同じく“顔面神経"も耳の奥にあることから、「すべて耳鼻科の範囲」であるという。

  • 国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター 聴覚障害研究室 室長の神﨑晶氏 

神﨑室長は「耳の疾患はすべて重要」としつつも、「難聴は健康寿命を損なう疾患であり、45~65歳の中年期に放置すると認知症の最大のリスク」と指摘。耳の内部構造を紹介しつつ、「細い内視鏡で薬を投与する時代が来る」と予見していた神﨑室長は、「突発性難聴」への応用について説明した。

原因不明で、急に耳が聞こえなくなる突発性難聴に対しては、標準治療として点滴や内服のステロイドの投与が行われるが、全身投与で効果がない場合は、鼓膜を切って、直接耳に薬を投与する局所投与が推奨されている。そして、ヘルペスウイルスや帯状疱疹ウイルスに顔面神経が感染して起こる「顔面神経麻痺」についても同様の処置が行われる。

局所投与の場合、鼓膜を切開し、内視鏡で患部を確認しながら、薬剤を内耳や顔面神経に直接投与することになるが、内視鏡での確認が必要な理由について、「100人に30人くらい、薬を入れられるところを骨や膜が邪魔をして、直接投与できない」という問題点を言及。

内視鏡の重要性を示しつつ、通常の内視鏡は直径2.7mmのため、鼓膜の切開部が大きくなり、「鼓膜に穴が残るリスクがある」という神﨑室長。また従来の極細径内視鏡は1~1.5mmとなっているが、低解像度のため、患部の観察が困難。

それに対して、極細かつ高解像度のBI-POF極細内視鏡「Cellendo Scope」は、この治療における患部観察に最適だという。「内耳に治療薬を届かせる」という点での有用性に加えて、突然のめまいや難聴が生じる「外リンパ瘻」についても、内耳からリンパ液が漏れているかどうかを確認する際にBI-POF極細内視鏡「Cellendo Scope」が有用であるとの見解が示された。

極細内視鏡と機能性ナノ材料活用した革新的がん光治療技術の創製

ここまで紹介した、変形性膝関節症などの「膝関節」や難聴などの「耳科分野」については、2026年の上市を目標に研究が進められているが、基礎研究として今後の展開に大きな期待が寄せられる「極細内視鏡と機能性ナノ材料活用した革新的がん光治療技術の創製」については、北陸先端科学技術大学院大学 物質化学フロンティア研究領域 教授の都英次郎氏が発表を行った。

  • 北陸先端科学技術大学院大学 物質化学フロンティア研究領域 教授の都英次郎氏 

生命化学材料研究を主軸とした難病の診断・治療法の開発を進める都教授は、「ナノスケール、もしくはマイクロスケールの医療用デバイスロボットに着目。ロボットのシャーシには、ナノカーボンやガリウムなどの液体金属、安全性の高いバクテリアなどを使用して、がん治療などへの活用を目指している。

物理的な特性や化学的な安定性から「非常に有用な材料」とするカーボンナノチューブだが、カメラのフラッシュなどをナノカーボンの粉末にあてると、火花を散らして爆発する「ナノカーボン光発熱作用」に注目しているという都教授。

「ナノカーボン光発熱作用」はモレキュラーレゾナンス、分子共鳴と呼ばれるもの。医療においては、体を透過する近赤外の光を使って反応を引き起こすことで、体の中で薬を作る技術にも応用され、光をあてると、狙った量のタンパク質やペプチドを発現することが可能だという。

また、光をあてることで神経、ニューロンの発火を起こすことも可能であるが、この実験を学生が行った際、発火現象とともに、細胞が死んでしまうという事象が確認されたという。これはカルシウムのオーバードーズが起こることが原因であり、「この原理原則をうまく利用すれば、がんの細胞死を誘発する新しい治療法ができるのではないか」との示唆から、都教授は「フォトサーモジェネティクス」というアイデアを提案した。

そのほか、体の中で発電するナノデバイスについても説明が行われた。ペースメーカーなどの医療用デバイスは、一部バッテリーで動作しているが、その寿命はおよそ10年と言われており、体内からデバイスを取り出して、再充電して、再び体内に戻すのは、患者への負担が大きいという。つまり、体の中で活性させることでその負担をなくすという発想となっている。

こういったナノ制御システムを使って、悪性腫瘍の診断、治療法の確立を目指す都教授は、今回の共同研究との接点について、「Cellendo Scopeを使って、ナノ粒子に何が起こっているのかを実際に見ること」を目的の一つとして挙げ、「実際に見ながら診断しつつ、同時に治療も行うというシステムを作りたい」との展望を明かす。

そして、Cellendo Scopeの最大の特徴は「穿刺できる」ことであり、超音波などで見づらい骨内やマッシブな脂肪で包まれている箇所も観察が可能で、直接見ながらレーザーなどをあてて、光発熱作用を用いて狙ったがんを徹底的に排除する。都教授は「診断と治療を同時に行える、革新的な光ナノテクノロジーをぜひ創出していきたい」との意気込みを明かした。

共同研究発表会の最後に、エア・ウォーター 代表取締役社長・COOの松林良祐氏が登壇した。同氏は「2年前のプレス発表と比べて技術的に進化している」と評価しつつ、同時に用途の広がりを感じ、「非常に勇気づけられた」と、今後さらに開発に力を入れていくことを約束した。

  • エア・ウォーター 代表取締役社長・COOの松林良祐氏 

そして、今回の発表内容は医療分野を中心としたものだったが、松林氏は産業分野、特に「非破壊検査」での活用についても言及。

「われわれの事業の中でも、ガスを流す配管の中や設備の中など、細かいところを見る用途があるのでそこでも使っていける」と今後の展望を示し、医療以外で力を入れている半導体の分野などでは、設備や機器が高額であることから、「外から壊さずに見ることができるのは非常に有用である」との見解を示し、「しっかりこの製品を形にしていきたい」と締めくくった。