NECは4月1日、個別化がんワクチン製造における検体の採取から作成、投与までの一連のワークフローにおいて、患者の顔情報を保存せずに顔認証による本人確認とトレーサビリティ保証を実現する技術と、患者の個人情報などの機微情報を少ないデータで管理できる技術を開発し、社内実証に成功したことを発表した。

技術開発の背景

個別化がんワクチンでは、検体となる患者の細胞と血液のゲノムデータを解析してワクチンを設計・作成することから、各患者専用のワクチンを正しく投与する必要があるとされている。

この一連のワークフローは、従来のワクチンと比べて多様なプロセスを含むものであり、患者数が増えると大規模になることが想定されている。このため、このワークフローにICTを活用し安全性と効率性を高めることが、個別化がんワクチン療法の実現と普及に欠かせない要素となっている。

NECは、従来からAIを活用した個別化がんワクチンの研究開発に加えて、ワクチンの製造管理などのプロセスに有効な技術の研究開発も行ってきた。また、成果の一部に関するホワイトペーパーを発行するなど、個別化がんワクチン療法実現に向けてICTを軸とした総合的な活動を行っている。

開発した2つの技術

NECは今回、「顔情報を保存することなく、顔認証とトレーサビリティの保証を可能とする生体情報利用デジタル署名技術」と「機微情報の省データ管理を実現するデータ改ざん検知技術」を開発した。

「顔情報を保存することなく、顔認証とトレーサビリティの保証を可能とする生体情報利用デジタル署名技術」においては、顔画像の特徴量の情報を鍵情報に変換することで、顔情報そのものを保存することなしに本人認証を可能とする独自技術「生体情報利用デジタル署名技術」を活用する。

同技術を活用することで、機微なデータである患者の顔情報を保存せず鍵情報で認証可能となるため、顔情報の悪用や漏洩の危険に晒すことなく、患者へのワクチン投与の確実性を高めることが可能。

また、同技術で生成されるデジタル署名により、ワクチン投与時の患者確認が正しく行われたことを、顔情報を用いずに事後検証(トレース)できるという。

  • 生体情報利用デジタル署名技術を利用した本人確認

    生体情報利用デジタル署名技術を利用した本人確認

また「機微情報の省データ管理を実現するデータ改ざん検知技術」は、ゲノムデータをグループ化して検査用タグデータを付与することで、必要な検査用タグデータの個数を減らす改ざん検知技術。

同技術により、すべてのゲノムデータに検査用タグデータを付与する方法と同程度の改ざん検知精度を維持しながら、検査用タグデータの量を10分の1に削減し、検査用タグデータの保管コスト低減と、患者のゲノムデータの真正性担保を両立する。

  • 少ない検査データでゲノムやワクチンデータの改ざんを検知

    少ない検査データでゲノムやワクチンデータの改ざんを検知

社内実証の成果

同社では、これらの技術の有用性を検証するため、個別化がんワクチンの実運用を想定した環境をNEC社内に構築し実証した。

その結果、患者や検体の取り違えを想定した検証においてワクチン投与前に取り違えを正しく検知可能であること、ゲノムデータに改ざんが加えられても検知可能であることを確認できたという。

NECは、今回の成果を踏まえてさらなる研究開発を進めるとともに、2025年度以降には社外実証により有用性と課題を検証するなど、個別化がんワクチン療法の実現に向けて多様な観点からのアプローチを続けていきたい構え。