産業技術総合研究所(産総研)、京都大学、東京大学、セイコーエプソン、エブリハの5者は、遠隔でリハビリテーションが行える社会の実現に向け、上肢・肩甲骨運動に特化した、世界初のオープンデータセットを3月25日に公開した。

  • 18種の上肢・肩甲骨運動オープンデータセットと一部イメージ

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める「人工知能活用による革新的リモート技術開発事業」の一環として行われているもの。リハビリ利用者が、リハビリやトレーニングを継続する上で直面するさまざまな課題に着目し、各リハビリプロセスを遠隔で実現するリモート技術基盤のプロトタイプの開発を進めてきた。

5者は遠隔リハビリのために、「多感覚XR-AI技術基盤」を開発。利用者の運動アセスメントや力覚提示のために、高感度・低ヒステリシスなひずみセンサ群、ハンガー反射(頭に針金ハンガーをかぶると、意図せず頭が回ってしまう現象。圧迫によって発生する皮膚の横ずれの影響による)デバイスなどを組み込んだMR3(エムアールキューブ:Multi-Modal Mixed Reality for Remote Rehab)ウェアを開発し、ウェアラブルデバイスでの肩甲骨運動の把握と、遠隔上肢リハビリへのハンガー反射の適用を実現した。

また、その肩甲骨運動の大きさの定量化や上肢の各関節角度を推定するために、ひずみセンサ群から得られる計測データを入力とする運動評価用AIを開発。さらに、自己効力感を高め、動機付けに寄与する手段として注目されるハンドリダイレクション(アバターの動きを変換して提示し、「これまでよりもうまく動けた」といった錯覚を生じさせる手法)の上肢リハビリへの適用、遠隔互恵ケアによる運動訓練の継続性向上効果の評価などにも取り組んだ。

  • 遠隔リハビリの課題を解決するための多感覚XR-AI技術基盤

プロトタイプ開発のなかで、産総研において、理学療法士の資格をもつ専門家と研究者脳卒中片麻痺検査や、いわゆる“五十肩”などで知られる肩関節周囲炎のリハビリに用いる上肢・肩甲骨の関節運動を18種類選定。生命倫理委員会の承認を経て、20人の健常者のモーションキャプチャデータを計測し、そのデータをオープンデータセットとして公開した。大学・研究機関や、リハビリ事業者をはじめとする民間企業などとのコミュニティー形成と市場開拓をめざす。

今後は、産総研が主体となり、このデータセットを活用して運動評価用AIの性能向上を進める。また、データセット公開に加え、リモート技術基盤における各機能の実装面での標準化、互恵ケアなどの各種使用ガイドラインの公開と精緻化などにも取り組む。それにより、遠隔XRリハビリをより使いやすく、魅力的なものにし、普及における課題解決に寄与するとのこと。