海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、海中レーザースキャナーの可視光(緑、波長532nm)の「Greenレーザー」と、非可視光(紫外、波長355nm)の「UVレーザー」の深海用実証機を開発。海中探査機に搭載した深海試験で、従来技術を大きく上回る性能が実証されたと3月18日に発表した。
同成果は、JAMSTEC 技術開発部の石橋正二郎主任研究員、三菱電機ディフェンス&スペーステクノロジーズ、浜松ホトニクスの共同研究チームによるもの。
日本周辺の海底に眠る膨大な資源が注目されている。そのような背景の下、海中探査機による光学海底探査に焦点を当て、海中レーザースキャナーの開発に取り組んできたのがJAMSTECだ。これまで、可視光レーザースキャナーの試作機による深海底の特異点の可視化に成功している。海中においては、青〜緑色の可視光波長が、赤などの他の電磁波波長と比較して伝搬減衰が極端に軽減されることが知られており、今回のプロジェクトでも可視光波長(緑)のレーザーを使ったものが開発された。
これまでに得られた知見に加え、レーザー光源、光検出器、内部光学系、ビューポートなどの最適化設計を行うと共に、新方式の距離減衰補正機能を開発。そして、Greenレーザー実証機のレーザー測距レンジとして、これまで実証例のない、試作機の3倍となる60m(往復伝搬距離120m)が目標とされた。それが実現すれば、海中探査機を海底近傍まで接近させる必要がなくなり、安全な深度から海底を効率的に可視化でき、実用性が格段に向上するという。
また、今回は初の試みとして、UVレーザーの開発も進められた。本来、非可視光波長は海中における伝搬減衰が著しいため、海中探査機用レーザースキャナーの光源としては不向きとされてきた。ただし、紫外波長はこれまで適用してきた可視光波長(緑)と比較して、海底に対し根本的に異なる反射特性を有する可能性があった。前例のない試みだが、こうしてUVレーザーの開発も行われることとなった。
そして、両レーザーのスキャン画像の水平解像度は試作機の4倍、8Kスーパーハイビジョンカメラの水平解像度を超える、8000画素以上(設計性能は最大8640画素)が目標とされた。これが実現されれば、従来は可視化が困難だった微小かつ微細な海底の特徴が明確化され、また従来の海底可視化技術(ソナーやカメラ)とは異なる海底の特異点の高精細な可視化が期待できるとする。
2023〜2024年度に、両レーザー実証機がJAMSTECの遠隔操作型無人探査機「かいこう」の機体後部両舷に搭載され、深海域の海底計測が実施された。試験海域は、初島東方の海域(水深約900m)、および大島南方に位置する大室ダシ・大室海穴(水深約200m)だ。
Greenレーザーには、新開発の光検出器である「超高感度のマイクロチャンネルプレート内蔵型光電子増倍管」が搭載されており、著しく低下した海底からのレーザー反射レベルを適切に補正して検出できる。Greenレーザーは、レーザー測距レンジとして60m以上の設計性能を検証することが目的であり、大室海穴の海底に対するレーザー測距レンジとして、最大64m(往復伝搬距離:128m)の記録が達成された。また、初島東方の海底では、海中の濁度が高かったが、最大55mのレーザー測距レンジが記録され、世界最高水準であることが確認された。
UVレーザーについては、その海底反射特性を評価することで、深海域でのその実用性が検証された。海底に対するレーザー測距レンジとして、15m(往復伝搬距離30m)が記録されたという。これにより、UVレーザーの海底可視化利用に対する実用性が示されたとのこと。
両レーザーのスキャン画像の水平解像度8,000画素以上の検証も行われた。すると、Greenレーザーでは8,294画素が、UVレーザーでは8,457画素がそれぞれ確認され、8,000画素以上での深海域の海底の可視化が初めて実証された。
また両レーザーでの同時計測の結果、Greenレーザーでは反射が確認されている一方で、UVレーザーでは計測できていない海底もあった。同じ海底を撮影したTVカメラ映像から、底生生物が確認され、紫外波長を吸収してしまう可能性が推測されたとする。
今回の技術の実用性および実装性の向上を目指し、今後は小型化や軽量化、量産化についての検討を進めていくという。将来的には、今回の成果を海底可視化技術だけでなく、自己位置推定と環境地図作製を行う海底SLAM技術への応用についても検討するとした。
今後、海中探査機の完全自動化において、海底SLAM技術は必須であり、今回の研究成果である長距離レーザー測距技術の適用が期待されるとしている。