【政界】予算案の衆院通過で噴出した各党の党内事情 迫るポピュリズムへの対抗も求められる石破首相

2025年度予算案の衆院通過で各党の党内事情が露呈した。国民民主党は看板政策の減税で自縄自縛に陥りつつある。日本維新の会は高校無償化を勝ち取ったが党内では「予算に賛成するには材料不足」との不満が増大。立憲民主党内は他党に「成果」を誇示される埋没状況に焦る。自民党内には「野党に譲りすぎ」の不満が渦巻き、公明党も自民へのいらだちを強める。ポピュリズムの嵐は国内でも「財務省解体デモ」の形で現出した。首相の石破茂には歳出圧力やポピュリズムに対抗する気概が求められる。

財務省解体デモ

「財務省解体」「増税やめろ」

 東京・霞が関の財務省庁舎の前で2月中旬ごろからデモ隊が出没するようになった。SNSの投稿動画には庁舎に向かって「お前ら!」と罵詈雑言を飛ばす姿が見受けられる。中には「デモに女子高生も参戦」との動画も。マスク姿の若い女性が「天下りに120兆円も浪費してるってこと、知ってますよー」「高校生に言われてどんな気持ち? ざーこ(雑魚) ざーこ」とマイクパフォーマンスする姿が投稿されている。

 デモ隊が訴えたいことは「生活苦の原因は財務省の累年にわたる財政政策の失策にあり、財務省を解体して経済再生を目指すべきだ」との趣旨らしい。ただ、その認識が正しいのかどうか、財務省解体後の財政はどうなるか、といった点について整合的にまとめられた言説はほぼ見当たらない。

 国民民主党の看板政策「103万円の壁」引き上げを誤解した発言も動画では確認できる。所得税がかかる金額を「178万円」とすることを国民民主は要求しているが、デモを映した動画には「75万円をさっさと配れ」といった発言が収録されている。国民民主の支持急伸の要因の一つは「178万円と103万円の差額が『支給』されると誤認している層が一定数いるためではないか」とみられていたが、それが可視化された。

 ポピュリズムに扇動された生活苦への不満は爆発寸前だ。それは既成政党の内部にも影響を及ぼしている。

 ポピュリズムという暴れ馬から降りるに降りられなくなっているのが国民民主だ。

「裏切りだ」「増税だ」といった書き込みがSNSに増え始めたのは2月初めのこと。国民民主の税制調査会が昨年12月に発表した文書で「行き過ぎた格差を是正するため、金融所得課税の強化を行う」「分離課税を30%に上げ、総合課税と選択できるよう目指す」と記していることが、ネットユーザーに「発掘」され、炎上した。

 昨年の衆院選公約で「金融所得課税の強化」を明記していたにもかかわらず、役職停止中の代表・玉木雄一郎らは「党として決まったものではない」と火消しに躍起となった。国民民主は減税を掲げ続けた結果、自縄自縛となり、ネットの炎上に極めて脆弱な体質になりつつある。

国民民主の迷走

 103万円の壁を巡る与党との協議でも、自民幹部が「税調同士ではまとまりそうなのに、向こうの党内に戻ると話がひっくり返される」とぼやく。国民民主内では「178万円まで行かずにこちらが折れたらかえって批判される。参院選を考えれば合意せずに『与党の抵抗で実現しなかった』と訴える方がいい」という空気が支配的になっているのだ。

「自公国」の協議が停滞する最中の2月25日、維新が高校無償化で与党と合意し、来年度予算案に賛成する方針を決めた。維新の賛成が得られれば予算案は衆院を通過する。自公は途端に国民民主につれなくなり始めた。国民民主関係者は「調子に乗りすぎた」と肩を落とした。

 その維新も党内にしこりを残した。自民、公明、維新の3党は2月25日夜に国会内で党首会談を開き、3党首が合意文書に署名した。主な内容は①高校授業料について、今年4月から全世帯に年11万8000円を支給②来年4月からは私立に通う子供がいる世帯への就学支援金についても所得制限を外し、上限額を年45万7000円に引き上げる③社会保険料の負担軽減に関して政府与党、公明、維新の基本的考えを「念頭に置」いて3党の協議体で検討を進める、との内容。

 維新が求める医療費の年間4兆円削減や、1人当たり社会保険料負担の年間6万円の引き下げなどが記されている。

維新にしこり

 共同代表の前原誠司は当初、高校無償化を先行させての予算案賛成に前のめりになっていたが、党内に持ち帰った際に「これでは賛成の材料としては弱すぎる」との異論が続出。与党との協議では急に社会保険料の負担軽減についても踏み込みを求め始めた。ただ、与党もいくら予算成立のためとはいえ、広範に影響を及ぼす維新の主張を唐突に呑むわけにはいかない。

 板挟みとなった前原は立ち往生する。支える執行部は幹事長の岩谷良平、政調会長の青柳仁士、総務会長の阿部司、国会対策委員長の漆間譲司の4人全員が衆院当選2回。与党に話を通す手練手管などあるはずがない。

 ここで動いたのが前国対委員長の遠藤敬だ。10年近く国対の中核を担っていた遠藤は、与党との豊富なパイプを駆使し、文案や落としどころなどをまとめた。「念頭に置く」という「党首間の合意文書としてはあまり聞いたことがない」(自民事務局職員)玉虫色の語句が記されたのも遠藤の動きによるものだ。

 前原自身、合意を承認する両院議員総会で「遠藤代議士の果たされた役割は極めて大きかった」と言及せざるを得なかった。記者団にも「他党や各省庁幹部との人間関係は一朝一夕でできるものではない。それをしっかりやってこられた遠藤さんだからこそ、黒衣に徹して今回の合意に大きな役割を果たしてくださった」と語った。

 維新では、昨秋衆院選での不振の責任を問われた馬場伸幸が代表を退任。馬場らの永田町的な「飲み食い政治」を批判してきた大阪府知事の吉村洋文が代表となった。しかし今回、馬場直系の遠藤が「飲み食い政治」で培った人脈で成果を勝ち取ったことは、今後の党運営で火種となりそうだ。

 埋没しているのは立憲だ。2月17日の衆院予算委員会で代表の野田佳彦は、石破を前にこう宣言した。「我々はいたずらに予算を人質にとって、衆議院の通過を遅らせたり、あるいは年度内成立を阻むことはしないと決意しています。ある意味、これは野党にとっては武装解除みたいな話だ」。

 交換条件は、立憲が提示した3.8兆円の予算案の修正だ。だが翌18日夕の「自公立」の協議での与党の回答は「ゼロ」だった。出席した立憲議員は「省庁が与党に説明した内容を、そのまま我々に伝えるだけだった」と明かす。その後も「自公維」「自公国」での協議では自公が新たな提案を示すのに対し、「自公立」は停滞し続けた。

 野田の対応に「弱腰」との不満が高まる中の2月24日に開かれたのが立憲の党大会だ。野田は「メディアには国民民主や維新に比べ立憲民主党の影は薄いぞ、とよく言われます。地方もどこに行っても言われます。もう叱咤激励というよりも、叱咤ばっかり受けます」とぼやきつつ、「国民民主党にも維新にも頑張ってほしい。その『横糸』を通していくのが我々の役割です」と自身の方針への理解を呼びかけた。

 さすがにそれだけではまずいと考えたのか、野田は日程闘争への復帰も示唆した。「高額療養費の問題は国民民主や維新に比べても要求額が少ない。命がかかってることをいつまでも決断しないんだったら、戦闘モードになる。議席というリアルパワーを生かさなければいけない局面かもしれない」。

 野党で最大の議席を持ちながら、維新や国民民主に後れを取る立憲執行部への党内の不満もまた、高まりつつある。

たそがれる自公

 押し込まれる一方の自民党内の不満も深刻だが、これまでも記してきた通り、「石破おろし」の動きは引き続き低調だ。ただ、その党内にも変化の兆しが見えてきた。

 昨年の総裁選の決選投票で石破に敗れ、現在は無役で雌伏中の高市早苗は2月20日、SNSにこう投稿した。「103万円の壁を巡る報道を見て、私だけでなく他の自民党所属国会議員達も落胆し、怒っています。協議前に平場(自民党所属国会議員が誰でも参加できる会議)は開催されておらず、自民党所属国会議員の多数意見とは思えない」。

 自民党が国民民主に提示した「年収200万円以下なら『壁』を150万円程度に引き上げる」との新提案を受けての書き込みだ。「複雑な年収制限は効果的ではない。税制はよりシンプルに、公正に、働く意欲を阻害しないものにしていくべきだ」と批判した。

 同じく総裁選に立候補した小泉進次郎も、奇しくも同じ日に踏み込んだ。横浜市での講演で、維新や国民民主の提案を「(石破政権が)のむならば正式に連立入りの打診をすべきだ。『責任を共有してもらいたい』というメッセージを投げるべきだ」と述べ、「その後に起きることの責任を(維新や国民民主が)負わないのはまさに無責任だ」とも語った。

 公明党も複雑な心境に陥っている。議員の1人は「これまで我々はまじめに考えて要求内容を自制してきたが、国民民主や維新の財源を考えていない要求に自民があんなに応じるなら連立を組んでいる意味はあるのか」とぼやく。

 訪米とトランプとの首脳会談の上首尾によって、いったん落ち着いたかに見えた石破を取り巻く状況は、厳しい。そのトランプは、石破との首脳会談後に本格的に暴れ始めた。ウクライナを「ディール」の材料として侵略者であるロシアに接近する姿勢を露骨にし、国際社会は大混乱だ。ドイツ総選挙では排外主義的な右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が得票率を倍増させて第2党に躍進した。

 内外のポピュリズムに対抗する中庸の政治を進める責任が、石破には求められる。(敬称略)

【政界】「参院選後」の時限大連立を意識させて……石破首相が仕掛ける〝中選挙区復活〟論