ルネサス エレクトロニクスは3月11日、同社独自のAIアクセラレータ「第3世代DRP-AI(DRP-AI3)」を搭載することで、AI電力性能として10TOPS/Wを提供するミッドレンジ向けAI MPU「RZ/V2N」を発表した。
RZ/VシリーズはエッジAI向けプロセッサシリーズですでに先行して最大80TOPSを提供するハイエンドAI MPU「RZ/V2H」ならびに0.5TOPSを提供するローエンドAI MPU「RZ/V2L」が提供されており、今回のRZ/V2Nの提供により、すべてのAI処理レンジに対応可能なラインアップが出そろったこととなる。
ルネサスのMPU「RZファミリ」の中でもAI向け製品に位置づけられる「RZ/Vシリーズ」のポートフォリオ。RZ/V2Nの投入により、RZ/Vシリーズのみで、さまざまなエッジ分野におけるAI処理ニーズに対応することができるようになる (資料提供:ルネサス、以下すべて同様)
2カメラ入力で幅広いエッジAIニーズに対応
同シリーズのCPUコアにはCortex-A55×4(1.8GHz動作)およびCortex-M33×1(200MHz動作)のヘテロジニアス構成を採用。OSとしてはLinuxでの動作をベースとしており、さまざまなアプリケーション処理にCortex-A55を、内部のファンクション制御などをCortex-M33が担当する。また、高速復帰をサポートした低消費電力モードを搭載することで、バッテリー駆動の機器であっても、バッテリー寿命の最大化を図りつつ、高性能なAI処理を実現できるような工夫が施されているという。
さらに、10TOPS/WのAI性能を提供するAI MACを搭載したDRA-AI3を1つ内蔵。これにより、最大15TOPS(Sparse)/4TOPS(Dense)のAI推論性能を提供しつつ、2つのカメラ入力に対応。オプションとして4Kのビデオコーデックが可能な4K ISP(イメージシグナルプロセッサ)であるMali-C55の追加も可能で、これらを組み合わせた画像処理を含めたさまざまなAI推論処理を可能とするという。
加えて、オープンソースのMLコンパイラであるApache TVMをDRP-AIに対応させたツール「DRP-AI TVM」の最新版としてバージョン2.5.0の提供も開始。アップデートに伴い、単眼カメラでの深度推定や新たなトランスフォーマCNN combinedモデルへの対応、さらにはビジョン系トランスフォーマーモデルにも対応したとのことで、AIカメラやロボットの開発の容易化が可能になるとする。
ハイエンドよりもパッケージは小型化
ハイエンドのRZ/V2Hが19mm×19mmの1368ピンFCBGAであったが、RZ/V2Nは機能を絞った関係で15mm×15mmの860ピンFCBGAへと38%ほど小型化を実現。基板面積の削減を可能としつつ、DRA-AI3による高いAI性能を提供することを可能としている。
同じDRA-AI3を搭載しながら、RZ/V2HとRZ/V2NのAI性能が異なるのは、メモリは同じLPDDR4/LPDDR4xに対応するが、RZ/V2Hは2ch、RZ/V2Nは1ch(3200Mbps)とメモリのチャンネル数が半減しているほか、DRP-AI3そのものもRZ/V2HがAI MAC+DRPのものと、DRPのみの2つを搭載していたものを、RZ/V2NではAI MAC+DRPのもの1つの搭載に絞り、積和演算器の数を半減させたため、最大で15TOPSと下がっているとする。
ただし、RZ/V2Hとはソフトウェア互換性を相応に確保しているとのことで、アプリケーション次第ではハイエンドユース向けをRZ/V2Hで、ミッドレンジユース向けをRZ/V2Nを、同じ開発環境で並行して開発してもらうといった進め方は可能だという。
embedded world 2025でデモを披露、パートナーによるボードも展開
なお、RZ/V2Nを搭載した評価ボードの提供については同社Webサイト上では3月19日より開始する予定。このほか、ドイツのニュルンベルクにて3月11日~19日にかけて開催される「embedded world 2025」では、同社ブースにて、2つのフルHDカメラから画像を取得し、2系統(AI処理とH.265によるエンコーディング)の処理を同時に行いつつも2.6Wで動作可能な様子を実際のデモシステムを用いて披露するとするほか、パートナー各社からRZ/V2Nを搭載したSOMおよびシングルボードコンピュータ(SBC)が順次提供が開始される予定としている。すでに第1弾としてBanana PiおよびIMDTよりボードが提供されることが決定済みでembedded world 2025にて披露される予定のほか、SolidRunやSomDevicesなどからも提供が予定されているという。