ソフトバンクと東京科学大学 工学院 藤井輝也研究室(以下、東京科学大学)は2月21日、5G基地局と衛星通信地球局の下り回線間の電波干渉を抑制する「システム間連携与干渉キャンセラー」の屋外実証実験に成功したと発表した。これにより、同一周波数帯の電波を異なるシステム間で共有し、電波資源の有効活用が期待される。
5G向けにソフトバンクに割り当てられている3.9GHz帯の電波は、地上に設置されている衛星通信の地球局の下り回線と同一周波数帯であるため、3.9GHz帯の基地局の設置場所によっては電波干渉を与えてしまうことが課題となっている。この与干渉を回避するために、5G基地局の送信電力の低減やアンテナの指向性制御、地球局から一定の距離(50km以上)を保つことが必要であり、地球局が周辺にあるエリアでは5G基地局の設置が難しくなっている。
この課題を解決するため、ソフトバンクと東京科学大学は、5G基地局の下り回線が与える干渉を地球局で大幅に抑圧する「システム間連携与干渉キャンセラー」の試作装置を開発し、2023年に室内の疑似環境(有線ケーブル接続)での実験に成功。今回、実用環境に近い屋外での実証実験でその有効性を確認した。
「システム間連携与干渉キャンセラー」は、5G基地局の下り回線が衛星通信地球局に与える電波干渉を抑制するための技術である。地球局に設置される干渉キャンセラー装置は、衛星信号と5G干渉信号が混在した無線信号を受信し、5G基地局から送信される5Gレプリカ信号と比較することで干渉成分を特定。
地球局に設置した干渉キャンセラー装置は、5Gレプリカ信号を活用して混在無線信号内の5G干渉成分を検出し、同じ特性を持つ干渉キャンセル信号を生成する。これを混在信号から差し引くことで、衛星通信信号のみを送信可能にする。また、地球局の有線ケーブルに変更を加えずに設置できる分岐装置を開発した。
干渉キャンセラー装置は、衛星通信アンテナで受信した5GのRF信号を分岐して取り込む。また、DAS親機では5Gレプリカ信号を光信号に変換して光ファイバーで転送し、DAS子機で光信号を5GのRF信号に変換した後に、5Gレプリカ信号を干渉キャンセラー装置に入力する。実際のシステムでは、経路や受信特性の違いにより5G信号の一致度が低下し、干渉抑圧効果が減少するため、5GのRF信号の受信特性差が同じになるよう、干渉キャンセラー装置に取り込む5GのRF信号の特性差を補正するFIRフィルターを導入し、干渉抑圧効果の大幅な改善を図っている。
また、5G干渉信号を効果的にキャンセルするには、5Gレプリカ信号をそれより早く干渉キャンセラー装置に到着させる必要があるが、5G基地局からの信号は、そのままでは光ファイバー経由の5Gレプリカ信号よりも地球局に早く到達してしまう。そこで、5G基地局に遅延装置を設置し、レプリカ信号が干渉信号より先に到着するよう調整することで、地球局の受信設備に変更を加えずに導入可能な構成となっている。
2025年1月に東京科学大学大岡山キャンパスで行われた屋外実証実験では、一方の端に衛星通信局と5G基地局の信号発生器を設置し、もう一方の端に地球局アンテナの代用としてパラボラアンテナを配置。衛星通信局・5G基地局と地球局(パラボラアンテナ)の間の距離は約120mであった。無線通信の周波数は3.3GHz帯を使用し、衛星信号の帯域幅は40MHz、5G信号の帯域幅は80MHz、送信電力は、地球局での受信SNRが30dBとなるように、衛星通信局および5G基地局で調整した。
実証実験では、スペクトラムアナライザーで5G信号の干渉抑圧効果を測定し、コンスタレーションで通信品質を評価した。その結果、5G基地局の干渉がない場合、受信SNRが30dBで信号コンスタレーションが明確に区別でき誤りがなかったのに対し、5G基地局の干渉がある場合は受信SNRが25dBに低下し、コンスタレーションが大きく乱れて衛星信号の復調が困難であることが確認された。
しかし、「システム間連携与干渉キャンセラー」を適用した場合は5G基地局の干渉が効果的にキャンセルされ、衛星信号のコンスタレーションが干渉のない場合と同等に回復し、誤りが発生しないことが確認された。この結果から、このシステムを適用することで5G基地局の干渉を効率よく抑制でき、5G基地局の干渉がないときと同等の衛星通信の受信品質を維持できることが確認された。
今後は、大岡山キャンパスのグラウンド以外の多様な実環境で屋外実証実験を実施し、このシステムの有効性をさらに検証する計画だ。