野村総合研究所はこのほど、マルチクラウド戦略を強化する新サービスを提供開始すると発表した。新サービスでは、東京と大阪のデータセンターに導入した「Oracle Alloy」を活用する。

Oracle Alloyは、オラクルのパートナーが自社のデータセンターでOracle Cloud Infrastructure (OCI)のパブリッククラウドで提供されるサービスを提供可能にするソリューションだ。

オラクルは分散クラウドとソブリンクラウドを推進しており、Oracle Alloyは分散クラウドとソブリンクラウドを実現するキーソリューションとなっている。Oracle Alloyは、NRIのほか、富士通とNTTデータも導入することを発表しており、勢いを増している。現在、オラクルのマルチクラウドやAlloyによるクラウドを含むライブリージョンは7つあるが、年内には7つ増えて合計14リージョンになる計画だ。

そのせいもあってか、2月13日に開催された日本オラクルの年次イベント「Oracle Cloud Tour」の基調講演で、常務執行役員 IT基盤サービス担当 マルチクラウドインテグレーション事業本部長 兼 NRIセキュアテクノロジーズ 会長の大元成和氏が新サービスの紹介を行った。

  • 野村総合研究所(NRI)常務執行役員 IT基盤サービス担当 マルチクラウドインテグレーション事業本部長 兼 NRIセキュアテクノロジーズ 会長 大元成和氏

「OCI Dedicated Region」「Oracle Alloy」を導入したNRI

NRIは金融SaaSを提供する基盤としての「OCI Dedicated Region」を導入した。OCI Dedicated Regionはユーザー企業のデータセンターをOracle Cloudのリージョンとして利用できるソリューションで、これもまた分散クラウドを実現するキーソリューションの一つだ。

NRIによるOracle Alloyの導入は、OCI Dedicated Regionに続くOCIの専用クラウドの拡張となる。同社は専用クラウドにより、金融統制やデータ主権などの日本市場における厳しいクラウド活用要件に対応しながら、パブリッククラウドの活用に慎重な企業へのクラウド活用の選択肢を拡充しようとしている。

NRIは自社の東京と大阪データセンターにOracle Alloyを導入し、高可用性のサービス基盤を構築。2024年2月に東京、同年12月に大阪で運用を開始し、災害復旧対策を強化した。Oracle Alloyにより、NRI独自のサービスとOCIのサービスを組み合わせることで、マルチクラウド戦略を強化する構えだ。

下図の「顧客向け専用パブリッククラウド」の基盤がOracle Alloy、「専用パブリッククラウド」の基盤がOCI Dedicated Regionとなっている。

  • NRIのマルチクラウド戦略のコンセプト概念図

大元氏は「専用クラウドの先駆者として、サービスの拡張を続けている。セキュリティは最も重要なファクターと考えている」と語った。

クラウド向けセキュリティ対策「NRIデジタルトラスト」

NRIはNRIセキュアテクノロジーズと共同で、クラウド向けのセキュリティサービス「NRIデジタルトラスト(仮称)」の提供を開始する。同サービスは、企業におけるシステムライフサイクル全体にわたるサイバーセキュリティとサイバーリスクに対するオペレーショナル・レジリエンス(業務の強靭性、復旧力)の確保を目的とし、関連する各種ガイドラインや法規制に準拠するセキュリティ機能をあらかじめ組み込んだプラットフォームサービス。

第一弾として、2025年度上期にOracle Alloyを介して、以下の3つのコンポーネントの提供を開始する。3つのコンポーネントは必要なものだけ購入することも可能とのことだ。

セキュリティビルトインクラウド

クラウド環境の構成管理や脆弱性管理を統合し、IT基盤構築から運用まで、法規制遵守を支える高度なセキュリティ対策が組み込まれたクラウド。

セキュア開発プラットフォーム

AIやソフトウェアの開発環境、開発の各工程に必須のセキュリティ対策(「セキュリティ・バイ・デザイン」)を標準実装したプラットフォーム。

サイバーフュージョンセンター

サイバー攻撃や内部不正の24時間365日の監視、脅威の分析・対応、有事の際の迅速な封じ込めからバックアップデータのリストア(復元)機能などを標準実装したオペレーションセンター。

大元氏によると、NRIデジタルトラストはプライベートのSoCにも対応し、NRIセキュアの生成AIを活用したシステム向けのセキュリティ診断サービス「AI Red Team」や生成AIを組み込んだシステム向けのセキュリティ監視サービス「AI Blue Team」も連携予定とのことだ。

日本オラクル 専務執行役員 クラウド事業統括 竹爪慎治氏は、オラクルが提供するセキュリティとNRIの新サービスの違いについて、「OCIのセキュリティや生成AIはグローバルの知見で対応しているので、最新といえる。中には、ハイレベルのSSLを望む企業もあり、そうした企業はNRIが対応する。NRIデジタルトラストにはデータ主権がある。NRIのデータセンターでガバナンスが確保された形により管理されていることを強みとしてており、安心安全な形で使える」と語った。

  • 日本オラクル 専務執行役員 クラウド事業統括 竹爪慎治氏

GPUの導入によるAI実行環境を提供

2つ目の新サービスとして、2024年12月よりOracle Alloyを活用したNRIデータセンター内の顧客向け専用パブリッククラウド環境でGPU(NVIDIA H100)の提供を開始した。

同サービスは企業における生成AIの利用や大規模言語モデル(LLM)の開発・活用時において課題となるデータ主権(データの置き場所)に対応するもので、機密性の高いデータを閉じた環境で安全に利用することを可能にする。

統制を重視する金融業界向けには「NRI 金融AIプラットフォーム(仮称)」として提供される。営業業務支援、コンプライアンス業務支援、事務の高度化・自律化の3つの戦略分野について、同プラットフォームを活用した新しい金融ソリューションの提供が予定されている。

  • NRI金融AIプラットフォームの概念