パナソニックホールディングス(パナソニックHD)とあいおいニッセイ同和損害保険(あいおいニッセイ同和損保)は2月7日、パナソニックHDが開発する蓄電池劣化予測技術を活用した定置用蓄電池システム向けの保険商品開発に関する協定を締結したことを発表。その開発に向けて、蓄電池システムを利用する実証パートナーを広く募集することを併せて発表した。

  • 定置用蓄電池システム向け保険商品の開発概要

    パナソニックHDとあいおいニッセイ同和損保による定置用蓄電池システム向け保険商品の開発概要(出所:パナソニックHD)

両社はこの発表に際し、オンラインで記者説明会を実施。同協定締結の背景や今後の展望、パートナーとの実証の内容について明らかにした。

蓄電池の劣化を予測し適正な保険サービスの提供へ

再生可能エネルギーの活用が広がる中、その発電量は天候などの外的要因に左右されることから、社会的な主電源としての利用に向けては、電力需給調整の役割を果たす定置用蓄電池システムの普及拡大が重要となっている。こうした蓄電池システムは、一度設置すると長期間にわたり使用されるが、充放電を繰り返す中で蓄電池の最大容量(SOH)は低下し、性能が劣化する。この劣化推移は、蓄電池システムの使用方法や収益性にも大きく影響するため、エネルギー事業者やユーザーにとってもリスクとなりうるものだが、システム自体の設置場所や利用用途、電力ピークでの使用か否かなどでも劣化推移が異なるため、正確な把握は難しい。また長期間の使用が想定される定置用蓄電池システムでは、将来的な故障リスクの変動性(ボラティリティ)が高いことも課題視されるという。

こうした背景から、故障などのデータをもとに将来のリスクを推定し商品を設計する保険業界において、定置用蓄電池システムを対象とした商品の開発は難航していたとのこと。実際に提供されている保険商品も、長期間にわたる過去の故障データが無ければ加入できないという障壁や、リスク推定の難しさによる保険料水準の高騰、蓄電池システム使用条件の制限など、多くの課題が残されていたとする。

そのような課題の解決に貢献する技術として期待されるのが、パナソニックHDが開発中の蓄電池の劣化予測技術だ。同技術は、蓄電池システムのセルやパック、バッテリマネジメントシステム(BMS)から得られる電流・電圧値などのデータをAIに学習させ、その機械学習モデルと数理モデルを組み合わせることで蓄電池の劣化を予測するもの。長年にわたって蓄電池の技術開発を続けてきたパナソニックHDは、その知見を活かして劣化予測技術の検討を進めている。

  • 蓄電池システム劣化予測技術の概要

    パナソニックHDが開発を進める蓄電池システム劣化予測技術の概要(出所:パナソニックHD)

一方であいおいニッセイ同和損保は、2022年6月に蓄電池のリユース市場創出に向けた取り組みを開始して以来、蓄電池容量保証を支えるさまざまな保険を提供してきたとのこと。特に電気自動車(EV)を中心としたリユース蓄電器や充電などに関連する領域の支援に挑戦しており、その領域を電力インフラへと拡大することを目指しているという。

そして今般両社は、蓄電池劣化予測技術を活用した定置用蓄電池システム向け保険商品の開発に向けた協定を締結。故障データを必要としない保険商品の実現を目指して両社の知見を活用することで、蓄電池の普及およびカーボンニュートラルの実現に貢献するとしている。

実証パートナーには蓄電池劣化予測結果を無償提供

なお両社は協定締結に併せ、蓄電池劣化予測の精度向上に向けて必要となるAI学習用の蓄電池システムデータの収集に関する実証パートナーを募集することも明らかにした。対象は、再生可能エネルギに蓄電池システムを設置する事業者や、ビルや工場などの施設に蓄電池システムを設置している(設置予定の)企業、そして蓄電池システムメーカーだといい、現時点で家庭用蓄電池などは対象外だという。また実証に必要なデータとしては、蓄電池システムおよびセルのメーカー情報、電流・電圧値、温度、SOC、SOHがあるといい、多くの蓄電池システムでは通常取得可能なものだとした。

また実証パートナーには、対象とする蓄電池システムの劣化予測結果を無償で提供するとのこと。実際の使用環境以外のケースでも劣化予測結果を共有可能だといい、加えてその結果をもとに、蓄電池の劣化を抑制するような運用方法なども提案するとしている。なお実証パートナーの募集期間は2027年2月末日までで、特設サイトから募集を受け付けており、実証期間は2025年4月から2028年4月までを予定しているとする。

  • 実証への参加に関する諸条件

    実証への参加に関する諸条件(出所:パナソニックHD)

会見に登壇したあいおいニッセイ同和損保 新種保険部 瑕疵費用・保証信用グループの齋藤士郎氏は、「現時点で想定される商品のほかにも、今回の提携に際した今後の研究開発によってさまざまな商品が生まれると想定している」と話し、「パナソニックHDとの提携によって、定置用蓄電池に対する新たな価値の提供に挑戦できることを期待している」とした。一方でパナソニックHD GX本部 エネルギー事業開発室の北野谷征吾氏は、「今後の実証を通じて蓄電池劣化予測技術の開発を加速し精度を高めることで、あいおいニッセイ同和損保の保険商品開発に役立つデータを提供していく」と語った。