さまざまなテクノロジーを活用した分析装置の開発・提供などを行うアジレント・テクノロジーは、科学技術の進歩が急速に進む現代のラボを支えている。そんな同社では2024年6月、新たな代表取締役社長に石川隆一氏が就任した。

今回は、1988年に新人技術者として横河電機に入社してから、営業部門の数々の部署を歴任し、社長という立場に就くまでの日々、そしてアジレントのトップとして見る将来の分析市場について、石川氏にインタビューを実施。後編では、社長として見つめた分析市場の現在を洞察するとともに、“理想の社長像”についても迫っていく。

  • アジレント・テクノロジーの石川隆一代表取締役社長

    アジレント・テクノロジーの代表取締役社長に就任した石川隆一氏

<前編はこちらから>

社長として見る分析装置市場のトレンドとは?

人手不足が課題として顕在化している昨今では、業種や業界を問わず“デジタル化”や“自動化”などの流れが押し寄せている。アジレントがビジネスを展開する分析市場も例外ではなく、さまざまな企業がそれぞれ働き方の転換を見据えた動きを進めている。特に目立っているのは自動化に向けた取り組みだといい、人手を介さずに求められた作業をクリアする製品・ソリューションへのニーズが高まっているという。

ただし、分析業界においても自動化ニーズには差が生じているとのことで、化学系企業の研究現場や製品開発の現場などでは、作業の量よりも質を重視する環境にあるため、それほど自動化は求められていないとのこと。しかし一方で、販売製品の品質管理など出荷に伴う分析を行う部門においては、スループットの向上が強く求められるといい、作業の速度アップや効率化などに貢献する自動化ソリューションが重要になっているとする。

石川氏は、業界のトレンドである自動化のメリットとして「省力化」「コストダウン」「作業の正確性向上」を挙げる。特に作業の正確性については、人手を介した作業によるミス発生リスクを自動化によって低減できるとともに、同じ作業を定量的に繰り返すことができる点を強調。これまで担当者によって基準や効率に差が出ていた作業も、一定の質・効率で進められるようになる点は、大きな価値につながるとした。

しかし石川氏は、「自動化を“人減らし”と捉える人もいるが、そうではない」と話す。「製造ラインでの作業や出荷物の運搬などスキルの要らない作業を自動化するのは、確かに人を減らすための取り組み」としたものの、「自動化には、“人を、人でなければできない仕事に集中させる”という側面もある」と続ける。

「例えば、仕事を進める上での“教育”は、以前であれば人から人へ教えられるのが一般的でした。ただ今では生産性向上などの観点からか、コストをかけて外部に委託する流れもある。アジレントもビジネスのひとつとしてトレーニングサービスを展開していて、その流れを否定するつもりはまったくありません。ただ、自社内の技術を底上げするためのトレーニングは自社で行えれば理想的だし、その中で新たなノウハウが生まれれば、他社との差別化に活かすことさえできるので、そういった可能性がある作業に人の時間を使えるようにしていきたいです。」

重要度が高まる「データの信頼性」

また自動化によるメリットとして石川氏は、「データインテグリティの向上」も挙げる。もともとラボでは、分析作業からデータの記録、そのやり取りまでが人手で行われていた。そうした環境では、やはりヒューマンエラーを避けることはできず、さらにはデータ改ざんのリスクも懸念されるが、元来“紙文化”の根強い日本国内ではデジタル化が進んでいなかったとのこと。人手でのデータ入力・共有が主流であり続けるなど、グローバルで見ると遅れを取っていたという。

しかし近年では、クラウドなどを活用したデータ管理システムが普及し始め、分析結果を自動で一元管理し、レポートの作成までも自動で行う体制が整ってきたとする。これにより改ざんへの懸念が取り払われ、データはもちろん企業の信頼性向上にも寄与することに。石川氏はこれを「真の自動化」と表現した。また石川氏は、最先端の科学ソリューションや分析システムが集まる「JASIS」などの展示会で、業種を問わず自動化・デジタル化への要求が高まる中でも、アジレントの競合となる分析業界でそうした取り組みを前面に打ち出している企業は、あまり多くなかったと話す。一方でアジレントは“未来のデジタルラボ”を掲げた自動化ソリューションの展示に力を入れていたことから、「我々の目指している方向性は間違っていないと感じました」と語った。