米国でトランプ政権が発足したが、就任直後からこれまでに中国やカナダ、メキシコへの関税発動を導入し、対象国や比率など具体的なことには言及していないものの、半導体分野でも2月中に関税を導入する考えを示している。バイデン前政権下で、米中の間では半導体覇権競争がエスカレートしたが、トランプ政権はそれにどう対応していくのだろうか?。

まず、バイデン前政権の対応を振り返りたい。バイデン氏は2022年秋、AIやスーパーコンピュータなどに欠かせない先端半導体を軍事転用するリスクを警戒し、中国による先端半導体そのものの獲得、その製造に必要な材料や技術の流出などを防止する観点から、半導体分野における輸出規制を大幅に強化した。

しかし、それを達成するためには米国単独では困難であることから、バイデン氏は2023年1月、先端半導体の製造装置で世界の先端を走る日本とオランダに同調を呼び掛け、日本は同年7月、14nmプロセス以下の先端半導体に必要な製造装置など23品目を輸出管理の規制対象に追加し、中国への輸出規制を事実上開始した。オランダも昨年9月、バイデン氏が同国の半導体製造装置大手ASMLが中国企業に販売した製品の保守点検や修理サービスを停止するよう呼び掛けたことに対し、ASMLの2種類のArf液浸露光装置に対する輸出許可要件を厳格化し、米国と足並みを揃える政策を進めていった。だが、バイデン氏は依然として日本やオランダの輸出規制レベルが米国が求める水準になっていないことに不満を示し、韓国やドイツなど他の同盟国にも半導体分野における対中貿易規制を追求するなど、中国排除の姿勢を鮮明に示した。

バイデン氏とトランプ大統領はこれまでに互いに罵り合い、価値観や考えがまったく相容れないように映るが、バイデン氏の上述のような姿勢をトランプ大統領が覆すかと言えば、その可能性はゼロだろう。トランプ大統領は、国務長官や安全保障担当の大統領補佐官などに相次いで対中強硬派を抜擢し、半導体分野でも関税発動を示唆していることから、中国に対する先端技術分野での優位性を確保するべく、米国の国家安全保障にとって中国が脅威となるリスクを回避するべく、バイデン路線を継承していくことになろう。これが共通点だ。

一方、バイデン路線との違いもあろう。バイデン氏は、確かに日本やオランダに対してもっと厳しい水準を要求し、他の同盟国にも参加を呼び掛けたが、それ以上のことはしなかった。しかし、トランプ大統領はバイデン氏ほど同盟国を重要視しておらず、同盟国にも遠慮なく関税をちらつかせてくる。要は、トランプ大統領にとって同盟国もディールの相手であり、MAGA(米国を再び偉大な国家にする)を追求する上で要求に応じなければ、関税がペナルティとして発動されることが考えられる。これを米中半導体覇権競争に照らせば、トランプ大統領が中国へ規制を強化し、同盟国にも協力を呼び掛ける際、それに同盟国が十分な対応を示さなければ、トランプ関税を同盟国へ課すことが考えられよう。懲罰的な対応を同盟国に取るかどうか、これが大きな違いと言えよう。