東レは1月27日、バイオ医薬品の製造工程における目詰まりを低減し、高収率ならびに精製度向上に寄与することが期待される高効率分離膜モジュールを開発したと発表した。
近年の医薬品市場では、従来主流だった低分子医薬品から、有効成分が細胞や微生物などの生物から産生されるバイオ医薬品へのシフトが進んでいる。また、遺伝子治療薬などの新たなモダリティ(治療手段の種別)も上市されており、こうした傾向が今後も続くと予想されている。ただ一方で、バイオ医薬品の製造には高額なコストが必要とされることから、医療費の高騰が大きな課題となっている。
代表的なバイオ医薬品である遺伝子治療薬は、培養細胞を用いて作られるとのこと。精製工程では、培養細胞やその破片を含む培養液を、多層構造を持つデプスフィルタで粗ろ過したのち、たんぱく質などの不純物を限外ろ過膜で除去するというが、その際に発生するデプスフィルタの目詰まりや限外ろ過膜への遺伝子治療薬の付着により、有効成分の目詰まりロスが発生し、コストの増大につながっているとする。
こうした背景から東レは今回、複数種類の不織布を用いた粗ろ過膜と、中空糸を用いた限外ろ過膜の2段階からなる分離膜モジュールを開発した。同社によると、粗ろ過膜の開発においては、東レがエアフィルタ製品の開発で培った技術を活用し、不純物を取り除くのに最適な繊維の太さや空隙構造の不織布にすることで、遺伝子治療薬の透過性能および不純物の除去性能を高めたとのこと。一方の限外ろ過膜の開発では、腎不全患者の血液透析療法に用いる透析器に内蔵される“人工腎臓”の開発で培われた、対象物質が膜に付着することを防ぐ低ファウリング(表面親水性化)技術を付与した中空糸膜を活用。タンパク質が吸着しにくく、目詰まりしにくい膜の開発に成功したとしている。
東レによると、今回開発されたモジュールを使用して得られた医薬品は、市販製品と同等以上の精製度・品質を維持するとともに、遺伝子治療薬の精製工程におけるロス率を半減し、約90%の高収率を得られることを確認したという。また膜の目詰まり低減により、現在一般的な膜モジュール製品と比較して、連続ろ過可能時間を2倍以上に延長できるため、製品品質の安定化に加え、製造コストの削減も期待できるとする。加えて、同社が培った中空糸膜モジュールの小型化技術を適用することで、製造工程の省スペース化にも貢献するとした。
なお、同モジュールは遺伝子治療薬以外のバイオ医薬品製造工程にも適用可能だといい、連続培養プロセスにおける長時間使用や目詰まりの抑制など、医薬品メーカーなどの顧客ニーズを解決するべく、幅広い用途への展開を目指すとのこと。また今後は2025年度中の販売開始を目標に、量産体制の構築を進めるという。
東レは今後、先端材料技術を活用した高付加価値製品の開発推進により、社会貢献と共に持続的な成長拡大を目指すとする。また今回開発されたモジュールは、1月29日から31日まで東京ビッグサイトで開催される「nano tech 2025」にて展示される予定だ。