バイデン政権は1月13日(米国時間)、強力なAIシステムが中国やロシアなどの対立国に流出し、軍事転用される恐れから、AI向け先端半導体の輸出について新たな規制案を発表した。
日本など20近くの同盟国は今回の規制対象になっておらず、AI向け先端半導体を輸入することができるが、多くの国には数量制限が設けられている。この規制案をめぐっては、シリコンバレーに拠点を置く半導体大手のNVIDIAが過度な規制だなどとする声明を発表したほか、業界団体からも反発の声があがっている。では、なぜこのタイミングでAI半導体向け輸出規制を発表したのだろうか?。
まず、実績づくりがあるだろう。これはどの大統領にも当てはまることだが、一般的に大統領は任期が終わるにあたり、何かしらの実績を強調し、自らの名前を米国の歴史に刻もうとする。バイデン氏はこの発表に先立つ1月3日、日本製鉄によるUSスチール買収を阻止する決断を下したように、AI向けの先端半導体の輸出規制も発表することで、バイデン政権の4年間を偉大なものとして米国の歴史に残そうという政治的思惑があったことは間違いない。
また、民主党を意識した狙いもあろう。昨年秋の米国大統領選挙では、トランプ氏が激戦7州を獲得して勝利し、同時に行われた連邦議会選挙でも下院上院で共和党が多数派となったことから、トランプ圧勝という報道が先行しているが、獲得票数でトランプ氏とハリス氏は数百万票しか離れておらず、票数という面では決して圧勝ではなかった。バイデン氏もそれ認識し、来年秋の中間選挙、3年後の大統領選挙で民主党が勝利できるよう、大統領任期が終わる日まで国民から支持される政策は可能な限りやっておこうという狙いがあったはずだ。
では、トランプ政権がこれを実行に移すのだろうか?。バイデンとトランプはこれまで互いを罵り合い、性格的にも価値観的にも相容れないイメージがある。しかし、米国の安全・平和、経済的繁栄を守り抜くこと、中国に対して強硬な姿勢で臨むところは全く同じであり、トランプ政権はAI半導体向け輸出規制を対中貿易規制の1つとして活用していくことが想像される。
AI半導体は大量破壊兵器、自律型兵器などに利用される可能性があるが、トランプ氏も先端テクノロジーが軍の近代化、ハイテク化に使用され、それによって米国の安全保障が脅かされることはあってはならないという立場である。
そして、重要なのはAI半導体の輸出規制は、トランプ政権が実施する貿易規制の1つに過ぎないという点だ。トランプ氏は米国が世界で最も強い国であることに強い拘りがあり、中国に対して優位な立場にあることを断固として守ろうとする。特に、先端テクノロジーという国家レベルの重要産業においてその拘りが強く示される可能性が高く、中国排除の姿勢を露骨に示すことだろう。そして、場合によっては同盟国にも同調を呼び掛けるというより、同調しないと高い関税を掛けるなどと圧力を加える可能性があり、米中の半導体覇権競争において、日本などの同盟国にとっても難しい立場に追いやられる可能性があるといえるだろう。