国立天文台は1月14日、太陽系外惑星(以下、系外惑星)の大気中において普遍的に存在することが示唆されている、太陽光によって化学反応を起こして生成される大気中の微粒子(もややエアロゾル)である「ヘイズ」の構成物質の組成についての進化を考慮した新たなヘイズ形成の理論モデルを考案し、系外惑星のヘイズがどのような物質で構成されているのかを調べた結果、これまで予想されていたスス(カーボンブラック)のような物質は系外惑星の大気では析出せず、代わりに想定すらされていなかったダイヤモンドが大気中で形成される可能性が示されたと発表した。

  • 白いもやに覆われた系外惑星のイメージ

    白いもやに覆われた系外惑星のイメージ。(c) ESA/Cheops(出所:国立天文台 科学研究部Webサイト)

同成果は、国立天文台 科学研究部の大野和正特任助教によるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

炭素は、我々ヒトをはじめとする地球の生命体を構成する中心的な元素だ。それと同時に、鉛筆の芯に使われている黒鉛(グラファイト)や、最も固い物質であるダイヤモンドもまた炭素からなることがよく知られている。地球においてダイヤモンドは、地下深くの特定の高温高圧の条件を満たした環境下で、炭素が結晶化することで誕生する(その条件は一般的に、温度は千数百℃、圧力は数万気圧といわれる)。

炭素は星の中の核融合において、3つのヘリウム4(陽子2個・中性子2個)によるトリプルアルファ反応で生成されることから(炭素12は陽子6個・中性子6個)、ビッグバンで合成された水素やヘリウムほどではないものの、宇宙でも地球でも比較的豊富な部類の元素であり、現在の宇宙においてはさまざまな場所で見つかる。例えば太陽系の惑星を見ても、金星の分厚い大気も火星の薄い大気もどちらも大半が二酸化炭素だ。「リュウグウ」のような炭素を多く含む小惑星も少なくなく、暗黒星雲などの分子雲の中でも炭素を含んだ有機物は見つかる。つまり、大気や地殻内に炭素を豊富に含む系外惑星も存在する可能性は高く、実際に炭素が豊富である可能性が高い系外惑星を発見したという報告もされている。

また大気を持った天体は、太陽系においてもいくつもあるように(人類が呼吸するのに適した大気を持つ天体は地球しかないものの)、地球サイズやスーパーアースなどの系外惑星において、複数が大気を持っていることが確認されている。

ヘイズは、太陽系でも土星の衛星タイタンや冥王星の大気などにも存在しており、炭素を含んだ大気を持つ惑星では、光化学的にヘイズが普遍的に存在していることが示唆されている。このヘイズの形成プロセスの理解は、大気化学過程や惑星気候への影響を調べる上でも重要だという。これまで、大気があることが確認されている系外惑星の多くは高温環境であることから、ヘイズは炭素の粒子で構成されるススのような黒い物質でできていると考えられてきたとする。

ところが、近年のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による大気観測では、複数の系外惑星でヘイズが白い物質で構成されている可能性が示唆されており、従来説に対する疑問が投げかけられていた。そこで大野特任助教は今回、ヘイズの構成物質組成の進化を考慮した新たなヘイズ形成の理論モデルを考案し、系外惑星のヘイズがどのような物質で構成されているのかを調べたという。

その結果、これまで予想されていたススのような物質は、高温の系外惑星の大気では析出せず、代わりにダイヤモンドが形成される可能性があることが示されたとのこと。これは、系外惑星の高温で水素に富んだ大気が、工学分野で広く用いられる人工ダイヤモンドを合成する化学気相成長法(CVD法)と類似の環境であることに起因しているという。CVD法は700~1200℃の温度と、最大でも1気圧程度の低圧環境において、炭素を含むガスを基板上に堆積させることでダイヤモンド膜を成長させる技術だ。

2017年に米国のSLAC国立加速器研究所は、実験結果として、天王星や海王星において、大気を下った高温高圧環境になる深度では、炭化水素が分解されて炭素が析出し、ダイヤモンドが形成される可能性があることを発表している。大野特任助教は今後、系外惑星の大気観測や、系外惑星大気を模擬した室内実験でダイヤモンド合成が実際に起きるのかどうかを検証することで、系外惑星のヘイズの正体に迫ることが期待されるとしている。