弥生は2024年10月2日付で、代表取締役 社長執行役員 兼 最高経営責任者(CEO)に武藤健一郎氏が就任することを発表。武藤氏はこのほど、代表取締役 副社長執行役員となった前社長の前山貴弘氏と共に記者説明会を開催した。
前社長・前山氏は「新しい経営体制で今まで以上に強い会社に」
前山氏は2023年4月1日付で岡本浩一郎氏から社長のバトンを引き継いだ。前山氏は2007年に一度弥生に入社したが、2011年3月に退社。2020年6月に再び入社した後に、取締役執行役員や代表取締役社長執行役員などを務めた後、社長に就任した。
前山氏は説明会で「世界の情勢が混沌とし、いろいろなものが複雑怪奇に動いている。正解やセオリーが無い中で、弥生が属する市場はもちろん、当社の顧客のビジネス環境も複雑に動いている。そうした状況にあって、より強いリーダーシップを発揮し、より強いチーム作りを推進するために、社長交代を決めた」と説明した。
さらに続けて、「社長交代をきっかけに、当社がやることを大きく変えたり、全く新しいことを始めたりする気はない。今まで以上にプロダクト開発・サービス開発をスピードアップして、今まで以上に強い会社にしていく」と今後の展望を示した。
前山氏は今後、代表権のある副社長執行役員として引き続き経営に参加する。弥生はこれまで副社長を設けていなかったため、初の副社長就任となる。前山氏1名体制だったこれまでの経営から、今後は武藤氏と前山氏の2名体制で経営が進められるという。
前山氏も、「より良い会社になるためにリーダーが変わる。私としても後ろに下がるといった意識はなく、武藤と一緒に弥生の代表としてリードしていきたい」と話していた。
詳細は後述するが、新社長の武藤氏はエンジニア出身でキャリアをスタートし、直近ではGoogleでAIを活用した広告事業を率いた経歴を持つ。一方で、前山氏は税理士・公認会計士資格を保持するなど、会計領域の専門家だ。両者が協力することで、最新のテクノロジーと会計の専門知識をそれぞれ組み合わせることができる、“2人経営”ならではの弥生に期待したい。
武藤氏が社長を引き受けた2つの理由と今後の展望
社長に就任した武藤健一郎氏は、ブラジル サンパウロ出身。1994年にアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)でERPなどのシステム構築を担うエンジニアからキャリアをスタートした。その後マッキンゼーや、業務系ソフトウェアのカスタマーサポートなどを請け負うスタートアップの日本支社長を経験。2014年から約10年間はGoogle Japanの広告事業においてスタートアップから中堅、大手企業まで広く支援した。ちなみに、トライアスロンが趣味だそうだ。
説明会で武藤氏は、「アメリカでは約6割の中小企業がAIの活用を検討している一方で、日本の中小企業は2割以下」との調査結果を引用して、国内でAI活用が進まない現状を指摘した。また、コロナ禍でデジタル化が進み経済成長を見せているドイツと比較して、日本はほぼ横ばいで進捗している点も課題として取り上げた。
日本の中小企業の多くがデジタルテクノロジーの活用をためらう中で、「AIをAIとして市場に打ち出すのは難しい」と同氏は語った。そこで、裏側でAIが稼働するソフトウェアを提供したいというのが、武藤氏が弥生の社長を引き受けた理由の1点目だ。
2点目の理由は、会計という厳しいルールが定められている業務領域だからこそ、AIによる恩恵をもたらすことができると考えたからだ。「AIを使った突拍子もないクリエイティブなサービスを作るわけではないが、ある程度すでにルールが決められている会計はAIで業務を高度化できる」とのことだ。
「私自身は仕訳もできず、会計は難しいと感じていた。しかし、会計の領域を分かっていないからこそ、広い視点で物事を見られる人材が加入するのは面白いと感じた。前山は会計のプロなので、経営に残ってくれたことは心強い」(武藤氏)
武藤氏は今後、社内向けの変革として「成長とイノベーション」を促す。既存プロダクトのクラウド化やマルチプロダクト化を進める中で、従来の部署間の連携や働き方などを変革する必要がある。そこで、組織作りや制度変更なども含めて、新たなイノベーションの創出を促すという。
社外向けには、「安心安全で使いやすい」「素人でも使える」弥生製品であることをこれまで以上に強力に訴求する。単に業務を効率化するソフトウェアにとどまるのではなく、裏側でAIが稼働することで、知らないうちに使えば使うほどに業務改善につながるようなサービスの展開を目指すとのことだ。
弥生は1月15日に、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を以下のように刷新した。
ミッション
中小企業を元気にすることで、日本の好循環をつくる。
ビジョン
現場に力を、経営に可能性を。知とテクノロジーの融合で道筋を照らし事業によい巡りを生み出す。
バリュー
お客さま視点で考えよう
「好奇心」を燃やそう
「挑戦」し続けよう
「スピード」にこだわろう
「誠実」であろう
さらに、今年度中には、請求書即日払いや請求書カード払いに続く新しいフィンテックサービスや、会計事務所の業務支援に特化した新サービスを展開予定とのことだ。