小誌でもすでに報じている通り、弥生は3月に経営体制を変更し社長を交代することを発表していた。4月1日付で、取締役執行役員である前山貴弘氏が代表取締役社長執行役員に、前社長の岡本浩一郎氏は顧問に就任した。両名は4月5日、報道陣の前に姿を現し挨拶を述べた。
前社長・岡本氏「寂しくないと言ったら大噓になる」
岡本氏が社長に就任したのは、15年前の2008年にさかのぼる。当時の心境について、同氏は「せっかく引き受けるからには、5年くらいは社長を務めようと思っていた」と振り返ってみせた。2008年はちょうどリーマンショックが発生した年でもあり、不安定なスタートとなったようだ。
同氏は就任以来、ブログで「社長の賞味期限」や「社長の引き際」といった話題について触れてきたが、結果的に15年間社長を務めることとなった。
同氏は経営を山登りに例えて、「社長就任当初は、山を越えて平坦な道が見えてきたら社長のバトンを渡そうと思っていた。しかし、社長になって分かったのだが、平坦な道は永遠にこないもの。山を1つ超えたらまた次の山が見えてくる」と述べた。
2022年の電子帳簿保存法改正や2023年の適格請求書等保存方式(インボイス制度)など、同社の主要事業である会計の領域は大きな転換期を迎えている。こうした時期での社長交代については、「ここからの1年、弥生にとって間違いなく大変な年となる。一方で、やるべきことをやれば確実に成果が伴う1年間になるはず。このタイミングが正解だと言い切ることはできないが、適切な選択肢の一つだった」とコメントした。
「この15年間、弥生という企業に、そして従業員に、パートナー企業に、お客様に向き合えたことを嬉しく思う。退任を寂しくないと言ったら大噓になる」(岡本氏)
岡本氏は前山氏の人柄について「とてもチャーミングな人で、彼を嫌いになる人はいないくらい誰からも愛されている。本人は会計の専門家でもあり、会計業務や会計ソフトへの愛を感じられるので、自社サービスへの思い入れも強い。安心してバトンを渡せる相手」と評していた。
なお、岡本氏は弥生が代表幹事を務めるデジタルインボイス推進協議会(EIPA)において、引き続き活動する予定だ。いよいよ10月から本格化するインボイス制度だが、単なる電子化にとどまらない"デジタル化"に向けて、同氏のさらなる活躍に期待したい。
新社長・前山氏「未来に向けてわくわくしている」
新社長の前山氏は、就任後に初めて報道陣の前に登場した。同氏は2007年に一度弥生に入社し、2011年3月に退社している。2020年6月に再び入社した後に、取締役執行役員や代表取締役社長執行役員などを務めた。
「この15年間でユーザー数を増やし企業価値を向上させた、岡本前社長という大きな存在からバトンを受け取ることに、大変大きな責任を感じている。同時に、これからの未来に向けてわくわくしている」と笑顔を見せ、社長就任に向けた心情を明らかにした。
前山氏は現在も公認会計士・税理士の資格を保持しており、自身について「弥生のサービス、そして弥生という企業のファンでもある」と述べている。今後はユーザー目線のサービス開発に貢献するそうだ。
同氏は、弥生の現状について「これまで多くのユーザーを獲得できたこともあり、既存のユーザーに安定してサービスを使ってもらうことを重視し、開発のスピード感や新しいものを生み出すことにパワーを使い切れてはいない」と分析する。今回の経営体制の変更を機に、こうした課題の解決に取り組むという。
「社会全体がテクノロジーを活用しスピード感を伴って変化していく中で、各執行役員が責任感を持った仕事ができるよう、そして、各現場が迅速に力を発揮できるようサポートしていく。新生の弥生に期待してほしい」(前山氏)
前山氏から見た岡本氏の経営者としての姿について質問すると、「一言で表すと『完璧主義者』が当てはまる。2008年に岡本さんが社長になった当時はサービスの品質面で多くの問題を抱えていた時期だったが、会計ソフトは業務の性質上高い品質が求められるので、ここに真っ先に取り掛かった岡本さんの考え方やリーダーシップは当社に大きな貢献をもたらした。完璧主義な岡本さん自身が多くの課題に対してコミットしていく姿を見てきた」との答えが返ってきた。